超高齢社会となった今、要介護の一歩手前の状態であるフレイルや、加齢に伴って筋量・筋力が低下するサルコペニア(筋肉減少症)をいかに予防・改善して健康寿命を延ばすかが、大きな課題となっている。そんな中、国立長寿医療研究センター研究所の伊藤尚基プロジェクトリーダーと同センター理事長特任補佐で米国ワシントン大学医学部の今井眞一郎教授らのグループが、脳で特定のたんぱく質を増やすとフレイルやサルコペニアが改善することを動物実験で解明、7月下旬に、米科学誌の『Cell Reports』で発表し、老化の予防や治療につながる研究成果として注目を集めている。*1

 同研究グループによるマウスを用いた実験において、脳でフレイルやサルコペニアを制御していることが分かったのは「Slc12a8」というたんぱく質だ。若齢マウスを用いた実験で、脳の外側視床下部と呼ばれる領域でSlc12a8の働きを抑えると、全身のエネルギー消費量と炭水化物消費量、骨格筋量・筋力が低下した。若いマウスであるにも関わらず、走行できる距離が短くなり、骨格筋におけるたんぱく質合成や筋肉疲労への耐性が低下して、通常の老齢マウスの骨格筋に生じるのと同じ現象が起きた。

 近年、ドイツなどの研究で、骨格筋は交感神経によって制御されており、交感神経の刺激はβ2AR(β2アドレナリン受容体遺伝子)を介して骨格筋の機能を活性化することが分かってきた。今回の研究では、Slc12a8の働きを抑えたマウスはβ2ARの発現が80%も低下し、骨格筋の機能低下の原因になっていることも確認された。

 一方で、老齢マウスの外側視床下部でSlc12a8の働きを強めたところ、加齢によって低下していた全身のエネルギー消費量と炭水化物消費量、骨格筋量・筋力が増加。走行距離が約70%延びて持久力がアップし、加齢に伴うフレイル・サルコペニア症状が改善したという。

 つまり、加齢に伴う全身の代謝機能と骨格筋機能の低下は、単に手足の筋肉の問題ではなく、脳内でSlc12a8が減少することが関わっている公算が大きい。逆にSlc12a8を活性化できれば、フレイル・サルコペニアを改善する可能性があるというわけだ。

図表1●本研究の成果として「外側視床下部におけるSlc12a8は、全身性代謝と骨格筋機能を制御する重要な分子である」と伝えている(出所:国立長寿医療研究センターニュースリリースより)
図表1●本研究の成果として「外側視床下部におけるSlc12a8は、全身性代謝と骨格筋機能を制御する重要な分子である」と伝えている(出所:国立長寿医療研究センターニュースリリースより)
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