手指で操作できるタッチパネルを使った、コンピュータベースの認知症リハビリが認知機能の維持や情緒および行動異常の改善に成果を上げている。開発を進めるスペインのリオオルテガ大学病院やサマランカ大学などを中心とした研究グループが、医療情報の専門誌『BMC Medical Informatics and Decision Making』に2020年10月に発表した。

テレビのように高齢者も使いやすく

 研究グループが開発しているのは、「GRADIR」というソフトウエア。認知障害の症状を示す人がタッチパネルで課題に取り組み、認知スキルを高められるように設計されたプログラムだ。認知症と一口にいっても病態はさまざま。そこでこのプログラムでは、利用者にはどのような認知プロセスの問題があるか、悪化レベルがどれくらいかに応じ、認知トレーニングを個別化できるようにしている。課題は本人の症状についての評価に基づいて調節される。

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 インターネットを介して自宅でも利用可能。認知機能の落ちた高齢者でも簡単に扱えるよう、なじみのあるテレビに近いユーザーインターフェイスにしている。セッションの終わりに毎回、スコアとスキルについてのフィードバックを受けられ、モチベーションを高める仕掛けもある。1カ月ごとに医師などは結果に応じてリハビリ計画を変更。ビデオ会議でコンサルテーションも可能だ。神経心理学的な評価はレポートとして出力できて、関係者との連携などに利用可能だ。

9割が「楽しい」と継続に前向き

 ソフトウエアでは、利用者と治療者、治療計画やレポートの管理を包括して対応可能。研究グループは1997年以降、GRADIRの開発を進めてきた。最新版では、課題の難易度に幅を持たせたり、視認性を高めたり、実物の画像を使うことでよりリアルな課題にするなどの改善を加えた。このたび研究グループは有効性のほか、利用者の満足度について報告した。

 これまでの評価から判明しているのは、タッチパネルを使ったリハビリによって、認知機能や行動の異常を確かに改善できること。具体的には、61.7%の利用者が生活の質や自立性を改善していると報告。さらに、77.1%がソフトウエアを使うリハビリが有用だと回答した。

 リハビリでは継続が重要だ。利用者が楽しいと感じて、退屈を感じさせないための、ユーザビリティーの調査を繰り返し、改善を続けてきた。これまでの調査によると、プログラムを受け入れられると考えたのは81.2%。別の調査では、セッションを楽しめたと回答したのは91.2%。指示が明確で理解しやすいと回答したのは63.3%。継続使用に興味を示したのが84%となっている。

 研究グループでは、認知症や軽度認知障害のほかにも幅広い神経変性疾患に対応させていると説明する。例えば、脳損傷、精神遅滞、精神疾患、てんかんなどのリハビリにも利用できる。オンラインでのリハビリを拡大させるためにこうしたソフトウエアは有効だろう。

 日本でも2025年に認知症が約700万人に増加するとの推計が出ており大きな問題となる。欧州でもスペインだけで認知症は約80万人と研究グループは指摘。「認知症のリハビリによる個別対応が必要だが、専門家による対応には限界もある」と研究グループ。認知症対策の効率化が求められる中で、今回のようにコンピュータベースで認知機能を向上させるリハビリは有望となりそうだ。