糖尿病治療のために、痛みを伴う指先穿刺による血糖測定を行っている患者は少なくない。その痛みを、汗を検体として血糖値を測定するセンサーが解消してくれるかもしれない。そのような新しい血糖測定システムの開発状況を解説した、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のJoseph Wang氏らの論文が、「ACS Sensors」に4月19日掲載された。同氏は、「穿刺を必要とせず、迅速かつ簡便な測定法であり、患者のコンプライアンス改善と糖尿病管理の強化につながるもの」と期待を語っている。

 開発中のこのシステムでは、汗に含まれる糖濃度を測定し、それを個別化されたアルゴリズムを用いて血糖値に換算する。実験によると、食事の前後の血糖値を95%以上の精度で測定できたという。もちろん、これが治療に用いられるようになるには、大規模な臨床試験で有用性が確認されなければならない。

 この研究に関与していない糖尿病専門医は、慎重な姿勢を保ちつつ期待を込めて推移を見守っている。その一人、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校糖尿病センター長のJohn Buse氏は、「公開されたデータを見ると、このシステムには希望を託せるようだ」と述べている。

 良好な血糖コントロールと生活の質(QOL)を両立させるため、指先穿刺にかわるさまざまな血糖測定法が開発中であり、汗を利用する方法もその一つだ。指先は汗腺が豊富で多くの汗を発するという特徴がある。開発中のセンサーは、プラスチック製の素材の上に、汗を吸収しやすい合成樹脂(ポリビニルアルコールハイドロゲル)を敷いた構造。そのセンサーの上に指を1分間置くと、合成樹脂に汗が蓄積され、わずかな電流が流れる。その電流から糖濃度を測定し、血糖値に換算する。

 しかし、汗に含まれる糖の濃度は血糖値よりも低く、さらに皮膚の状態によっても糖濃度が異なることがあり、結果として測定値が不正確になる。研究者らは、ボランティアの協力を得て、指先穿刺による血糖測定を繰り返し行い、その結果と汗からの推算値が最も一致するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは使用者ごとに異なり、糖尿病患者が使用する場合も、月に1~2回、指先穿刺で測定した値で補正を加えることになる。

 Buse氏は、「このテクノロジーはエキサイティングだ。開発チームがこのシステムを製品化させることを願っている」と語っている。ただし、多くの問題が残されているのも事実だ。例えば、手洗い石鹸の成分、ローション、指先に付着した汚れや食べ物などが測定値に与える影響を検討する必要があり、製造コストも考えなければならない。製品化の際には、精度を保つために測定前に指を拭き取ったり、汗の蓄積を待つという手順がマニュアルに加わるかもしれない。しかしBuse氏は、「それらはやや負担になるかもしれないが、米国内の3000万人の糖尿病患者の中には、指を穿刺するよりもその方が良いと考える人は必ずいる」としている。

 米レノックス・ヒル病院のMinisha Sood氏もBuse氏と同様に「この技術は革新的で有望」とし、「アルゴリズムが正確で拡張性に富んでいれば、血糖モニタリングのゲームチェンジャーになる可能性がある」と語っている。ただ、非侵襲の血糖測定は糖尿病患者にとって非常に魅力的であるものの、「今回の発表はアイデアの実現可能性を示したものであって、製品化はおそらく何年も先のことだろう」と付け加えている。

 なお、本研究はUCSDウェアラブルセンサーセンターと韓国研究財団から資金提供を受けて実施された。

[HealthDay News 2021年6月2日]

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