心臓手術直後などの一時的な必要性にあわせて体内で機能した後、不要になる頃には自然に分解される心臓ペースメーカーの開発状況が報告された。米ノースウェスタン大学のJohn Rogers氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Biotechnology」に6月28日掲載された。現在はまだ動物の生体内およびヒトの心臓組織を用いた研究であり、開発の初期段階ではあるが、研究者らは「刺激的な成果があがっている」と述べている。将来的には、数日から数週間だけペースメーカーが必要な患者の治療のあり方が変わる可能性もあるという。

 ペースメーカーは、不整脈治療のために体内に留置するデバイスで、心臓の筋肉に電気的な刺激(パルス)を与えて、心臓の異常なリズムを修正する。以前から使われている恒久的な使用を前提としたペースメーカーは、パルスを発生させる装置や電池、リードと呼ばれる導線、電極などで構成され、それらを体内に留置する。

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 一方、患者によっては短期間だけペースメーカーが必要なこともある。例えば、心臓手術後の心拍が不安定な状態の患者では、心臓の状態が回復すればペースメーカーは不要だ。そのような場合は、体外式のペースメーカーを用いて、電極を心臓に留置しリードで体外の装置とつなぐ。しかしRogers氏によると、体外式ペースメーカーでは、リードがずれたり、リード部分から感染を起こすリスクが低くないという。

 今回発表された開発中のペースメーカーは、薄くて柔軟性のある素材でできており、リードはなく、しかもデバイス全体が数週間で自然に分解される。そのため、一時的にペースメーカーが必要な患者に最適なのではないかとRogers氏は話している。

 この研究には関与していない専門家からも、今回の研究を評価する声があがっている。米国心臓病学会(ACC)の電気生理学領域の評議員メンバーであるRachel Lampert氏は、「この研究のアイデアは素晴らしい」と述べ、「体内で吸収される一時的なペースメーカーを、ぜひ使ってみたい」と期待を表している。

 このペースメーカーの重量は0.5gにも満たず、抜糸の不要な縫合糸などに既に使用されているものと同じ素材を主体として作られている。そのほかには、微量の鉄やマグネシウムなどの体内にも存在する物質が使われ、わずかなシリコンも用いられているとのことだ。電極を心臓の表面に留置した後は、体外のアンテナとワイヤレスで接続され、医療従事者が起動や設定の変更を行う。ワイヤレス通信技術自体は、スマートフォンなどで支払いをする際の非接触通信技術として既に確立されている方法を利用するという。

 今後の展開としてRogers氏らは、ヒトを対象とした試験を行う前に、この素材が生体内で分解されていく過程で、どのような事象が起こり得るかをさらに詳しく調べるとしている。「分解される過程は、毎回同じというわけではない。小さな破片が生じることもあり、それらが完全に吸収され消滅する前に、生体内のどこに分散する可能性があるのかを確認する必要がある」とRogers氏は説明している。

 このデバイスは、現段階では開胸手術で留置することを想定しているが、さらに開発が進めば、カテーテルを用いた血管内手術で留置できるようになるかもしれないと、Rogers氏は語っている。

[HealthDay News 2021年6月28日]

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(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)