新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で、乳がんの検診の遅れや治療の中断が生じ、その結果、今後乳がんで死亡する女性が増加するとの分析結果が、「Journal of the National Cancer Institute」に7月14日発表された。2021年に入ってからマンモグラフィ検診の受診率は上昇したが、論文の筆頭著者で米ウィスコンシン大学のOguzhan Alagoz氏は、「各施設は、パンデミック時に定期的なマンモグラフィ検診を受け損ねた女性に対するスクリーニング検査を優先的に行うべきだ」と呼び掛けている。

 米国では、パンデミックに関連した公衆衛生対策の一環として、2020年3月より緊急性のない治療や検査を控える動きが広がった。マンモグラフィによる乳がん検診もその一つである。その結果、マンモグラフィ検診の受診率は80%も低下。既に乳がんと診断されている患者でも、治療が遅れたり、予定されていた、あるいは必要な化学療法が減らされたりするという事態が生じた。

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 この研究には関与していない、米レノックス・ヒル病院乳がんプログラムのディレクターを務めるPaul Baron氏も、こうした状況を目の当たりにした医師の一人だ。同氏は当時のことについて、「個人防護具の不足や医療従事者と患者の間のソーシャルディスタンスを守る必要性から、病院や外来施設は利用できなくなっていた。その結果、マンモグラフィ検診を受ける女性が大幅に減り、乳房にしこりを発見した女性が医療機関を受診しないために診断が遅れたり、早期乳がん患者に対する化学療法の使用が減らされたりするという事態に陥った」と振り返る。

 Alagoz氏らは今回、米国立がん研究所(NCI)のがん介入・サーベイランス・モデリング・ネットワーク(CISNET)が開発した3つの乳がんシミュレーション・モデルを用いて、パンデミックの発生後6カ月間の乳がんの検診受診者数の減少や診断の遅れ、治療の中断が、今後の乳がんによる死亡者数にどのような影響を与えるのかを予測した。

 予測には、60の医療機関から収集された、全米28州、306施設の病院の女性患者1000万人のデータを網羅するEpic Health Research Networkのデータが使用された。このデータに基づくと、パンデミック発生から6カ月の間に、マンモグラフィ検診を受診する予定があった女性の半数が、実際には受診していなかったことがうかがわれた。また、米国でのマンモグラフィレジストリの共同ネットワークである乳がんサーベイランス・コンソーシアム(BCSC)の2件のレジストリデータに基づくと、同期間の間に、乳がんの症状があるにもかかわらず診察が遅れ、その結果、診断や治療の開始が遅れてしまった女性の割合も25%に上ると推算された。

 3つの乳がんシミュレーション・モデルを用いた解析の結果、COVID-19パンデミックに関連して生じた、乳がんの検診受信者数の減少や診断の遅れ、化学療法の中断により、2030年までに乳がんによる超過死亡者数は2,487人に上ると推定された。その内訳は、検診受診者数の減少に関連した死亡者数が950人、乳がんの症状がある女性の診断の遅れに関連した死亡者数が1,314人、ホルモン受容体陽性の早期乳がん患者に対する化学療法の削減に関連した死亡者数が151人であった。この予測値に基づくと、2020年から2030年の間の乳がんの死亡者数は、パンデミックがない場合と比べて0.52%増加することになる。ただし、Alagoz氏によると、直近の6カ月間に多くの医療施設が乳がんの検診や診断、治療の再開に向けて動き出しているため、将来的に乳がん死亡者数の増加を抑えられる可能性はあるという。

 この研究報告を受けて、米ノースウェル・ヘルス乳腺画像診断科チーフのNina Vincoff氏は、「たとえわずかな期間であっても、マンモグラフィ検診の遅れは乳がんによる死亡者の増加につながり得ることを示した結果だ」と述べている。また同氏は、「将来、パンデミック、あるいはその他の緊急事態が発生しても、医療機関は予防医療のための受診は継続できるようにするべきだ。また、緊急事態下で定期検診を受けるのが遅れた患者には、できるだけ早く検診を受けるよう働きかける必要がある」と指摘している。

[HealthDay News 2021年7月14日]

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(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)