米国ニュージャージー州で海難救助に携わっていたJesse Sheaさんはその日、仕事が済んだら友人とサッカーの試合を観戦しに行くことを家族の伝言板に書き込んだ後、やや調子の悪さを感じながらも車で海岸そばの職場に向かった。26歳の彼は、精神的にも肉体的にも充実した生活を送っていた。大学ではサッカー選手として活躍し、卒業後も地元のジムで毎日トレーニングを欠かさず、さらに栄養学士でもある彼は食事にも配慮していた。

 職場に着き、防水オーバーオールに着替えようとしたが、いつもよりも手間取った。それでも何とか着替え終わり、救助活動のためのタグボートまで歩みを進めたものの、そこで何をすべきか分からなくなった。不審に思った同僚が、「いったいどうしたんだ」と叫んだが、Sheaさんはどのように答えればよいか分からなかった。

 彼は水を口にしたが、水は口元から滴り落ちた。もはや脳卒中であることに疑いはなかった。自分の顔を自撮りすると、顔の右側が垂れ下がっていた。さらに右腕を上げることができなくなった。パニックに陥った彼は、それでもどうにか父親に電話をかけた。言葉は発せず、泣くしかなかった。

 最寄りの病院の救急治療室に搬送されると、医師は彼に、「あなたの名前は? 今年は西暦何年? 今の大統領は誰?」と矢継ぎ早に質問した。Sheaさんは答えられなかった。直ちに血栓を溶かす薬剤による治療が試みられた。しかしその夜、彼は右腕をほとんど動かすことができなくなり、指は全く動かせなくなった。

 両親や2人のきょうだいが常にベッドの横にいて容態を見守っていた。幸いにも彼は左利きだ。助けを借りれば歩くことはできた。数日後、姉のAlex Sheaさんは病院に向かう途中で、弟が何か欲しがっているものはないか家族に確認した。彼女は、水かコーヒーを頼まれると思っていた。しかし、弟の要求は「バスケットボール」だった。

 スポーツ用品店に立ち寄り、異なる3つのサイズのバスケットボールを携え、病室でそれを手渡した。「弟は小さなボールを選んだ。最初は手に持つことさえできなかったが、何度も拾い上げ、投げようとした。明け方近くまでそれを繰り返していた」。

 Jesse Sheaさんには脳卒中のリスク因子が全くなかった。彼の両親は、原因が見つかることを期待して、彼を専門的な病院に転院させた。しかしそこでも原因は分からなかった。米国では、血栓によって生じる脳卒中の約4分の1は「特発性」とされる。つまり原因を特定できないということだ。

 Sheaさんは数カ月間にわたり、理学療法、言語療法、作業療法を受けた。退院してからは、姉に送り迎えをしてもらいジム通いを再開した。ジムの責任者は、彼に無料でジムを使わせた。ジム仲間の一人はSheaさんと同じ試練を経験したことがあり、Sheaさんが再び自由に歩けるようになるための効果的なアドバイスを送った。

 元海軍特殊部隊隊員で持久力スポーツアスリートに転向し活躍しているDavid Goggins氏の言葉を、Sheaさんは大切にしている。「誰もが苦難の時期を経験する。しかし、必ず立ち直ることができる」という言葉だ。Sheaさんは、細かい運動能力が要求されるサッカーの再開はあきらめ、長距離走に目を向けた。

 脳卒中からわずか1年後の2020年11月、Sheaさんは米国脳卒中協会(ASA)主催のバーチャルハーフマラソン(個々の参加者が任意の場所で走行して記録を競う)に参加することで、1万ドル以上の寄付金調達に貢献した。ゴール後のパーティーでは数十人の仲間が彼を祝福した。

 ハーフマラソン参加から数カ月後、今度は4時間ごとに4マイル(約6.4km)クリアし、48時間で48マイル(約77.2km)走破しなければならないイベントに参加して成功させた。これらの素晴らしい実績にもかかわらず、Sheaさんは自分がかつての自分ではないと思っている。「以前のような鋭敏さは取り戻せない。しかし、毎日状況が改善しているように感じる」と彼は語っている。

[American Heart Association News 2021年6月24日]

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