認知症の有病率が世界で最も低い集団は、南米ボリビアのアマゾンに暮らす二つの先住民族ではないかとする研究結果が報告された。研究者らは、「この結果はアルツハイマー病を予防する手段に関する、新たな洞察を与えてくれるかもしれない」と述べている。米南カリフォルニア大学のMargaret Gatz氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association」に3月9日掲載された。

 Gatz氏らは、今も自給自足で暮らしている先住民族のチマネ(Tsimane)族とモセテン(Moseten)族での認知症と軽度認知障害(MCI)の有病率を検討した。なお、チマネ族は約1万7,000人存在し、狩猟・採取や農作主体の生活で、生涯を通して身体活動が活発な暮らしを営んでいる。モセテン族は約3,000人存在し、チマネ族よりも非先住民が暮らす街の近くに居住。水道設備や医療サービスを利用可能な環境で生活し、学校もあって識字率が高い。

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 これらの先住民族のうち60歳以上の高齢者に対して、トレーニングを受けたボリビアの医師と通訳らの研究チームが、ミニメンタルステート検査(MMSE)や文化に関するインタビューなどによって認知機能を評価。また、頭部CTを用いた画像検査も行った。

 その結果、認知症と判定されたのは、チマネ族では435人中5人〔粗有病率1.2%(95%信頼区間0.4~2.7)〕、モセテン族では169人中1人〔同0.6%(0.0~3.2)〕であり、全て80歳以上だった。また、年齢標準化MCI有病率は、チマネ族7.7%(95%信頼区間5.2~10.3)、モセテン族9.8%(同4.9~14.6)だった。

 米国では65歳以上の高齢者の認知症有病率は11%と報告されており、今回の研究は、先住民族の認知症有病率の低さを示す結果となった。Gatz氏は、「産業革命以前の生活の中に存在している何らかの要素が、チマネ族とモセテン族の高齢者を認知症から保護しているようだ」と述べている。

 ただし、過去に実施された、オーストラリア、北米、グアム、ブラジルの先住民族高齢者を対象とする15件の研究のレビューからは、認知症有病率が0.5~20%という広い範囲に分布していることが明らかになっている。一部の先住民族の認知症有病率が米国などの先進国よりもむしろ高いというこの結果について、研究者らは、非先住民との接触により、これらの人々の生活に変化が生じているためと考えている。そのような生活の変化は、糖尿病、高血圧、アルコール乱用、肥満、心臓病といった、認知症の危険因子の発生につながる。チマネ族とモセテン族でそのような危険因子を持っている人は、ごくまれだった。

 一方、今回の研究での頭部CT検査から、認知症やMCIを有する先住民族の高齢者には、広範囲の動脈石灰化所見が確認された。この点について論文の著者らは、「これまでに認識されていない、アルツハイマー病とは異なる認知症のタイプの存在を示唆するもの」とした上で、「チマネ族とモセテン族で蔓延している感染性疾患などの影響が想定され、さらなる研究が必要」としている。

 世界の認知症の有病率は2050年までに現在の約3倍になり、1億5200万人を超えると予測されている。論文共著者の一人である米チャップマン大学のHillard Kaplan氏は、過去20年にわたりチマネ族などの先住民族を研究してきた。同氏は、「われわれは今、認知症がこのまま急速に増加していくのか、それよりも先に認知症に対する抑制策を確立できるのかという、レースの最中にある。先住民族を研究することを通じて、認知症という疾患の理解が深まり、新たな洞察を得ることができるだろう」と述べている。

[HealthDay News 2022年3月10日]

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写真:チマネ族の女性。Photo Credit: Robin Mamany

(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)