西暦79年のベスビオ山噴火後に死亡したポンペイの犠牲者の遺骸からDNAが抽出され、そのゲノム解読に初めて成功したことが報告された。これまで、ポンペイで発見されたヒトと動物の遺骸からはDNAの断片しか抽出されておらず、ゲノム解読も部分的なものにとどまっていたという。コペンハーゲン大学(デンマーク)のGabriele Scorrano氏らが実施したこの研究結果は、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。

 この研究で解析に使われたDNAは、ポンペイの「カーサ・デル・ファッブロ(鍛冶屋の家)」で見つかった2体の遺骸の骨から抽出された。これらの遺骸のうち、1体は年齢35〜40歳、身長164.3cmの男性、もう1体は年齢50歳以上、身長153.1cmの女性のものだった。女性のDNAの塩基配列には多くのギャップがあって情報を十分に読み取れず、ゲノム全体を解読することができたのは男性のみであった。男性のDNAをうまく抽出できた理由について研究グループは、「噴火で放出された物質により、DNAが、劣化を招く酸素などの環境要因から守られていたためではないか」と推察している。

[画像のクリックで別ページへ]

 この男性のDNAから得た全ゲノム配列のデータを、過去に報告された西ユーラシアの古代人1,030人と現代人471人のDNAデータと比較した。主成分分析の結果、この男性のDNAは、ローマ帝国時代にイタリア半島に住んでいた古代人のDNAに最も類似していることが分かった。

 一方、この男性のミトコンドリアDNAとY染色体の分析から、これらのDNAタイプは、サルデーニャ島の現代人に一般的だが、ローマ帝国時代にイタリア半島に住んでいた古代人のDNAとは違うタイプのものであることが示された。研究グループは、「このことは、ローマ帝国時代のイタリア半島に住んでいた人々の間では、全体的に遺伝子の多様性が高かったことを示唆している」と話す。

 さらに、この男性の骨格とDNAに関する解析から、1つの脊椎骨に病変が見つかるとともに、マイコバクテリウム属由来のDNA塩基配列が特定された。結核の原因菌である結核菌はマイコバクテリウム属に属する。このことから、研究グループは、男性が噴火の犠牲となる以前に結核を患っていた可能性があるとの見方を示している。

 Scorrano氏らは、「この調査結果は、古代人の遺骸からDNAを抽出できることを明示するものだ。こうした調査を通じて、遺伝子の歴史と人々の生活に関する新たな洞察を得られる可能性がある」と述べている。

[HealthDay News 2022年5月27日]

Copyright © 2022 HealthDay. All rights reserved.
写真:ポンペイの「カーサ・デル・ファッブロ(鍛冶屋の家)」で発見された2人の遺骸 Photo Credit: Notizie degli Scavi di Antichità, 1934

(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)