必要な期間だけ機能し、不要になれば体内で自然に溶けて消失する“スマート”ペースメーカーの開発に向けて、研究が前進しつつある。研究を率いる米ノースウェスタン大学のJohn Rogers氏らが、溶解型ペースメーカーの開発に向けた最新の研究結果を、「Science」5月26日号に発表した。同氏は、「このペースメーカーは少量の鉄、マグネシウム、シリコンといったビタミン剤にも使われている物質で作られているため、体内で安全に分解される」と説明している。なお、同氏らは2021年に、一時的なペーシングのために現在使われているペースメーカーの代わりとなり得る、ワイヤレスの溶解型ペースメーカーの開発に向けた初期段階の研究成果を報告していた。

 電気刺激を送ることで心臓の異常なリズムをコントロールするペースメーカーは通常、恒久的に使用することを前提に体内に植え込まれる。しかし、数日間だけの一時的な心臓のペーシングで事足りるケースもある。昨年、Rogers氏らが発表したペースメーカーは、このような一時的な使用を念頭に開発されたものだ。電極を内蔵する層で構成されたこのペースメーカーは、数週間のうちに体内で分解される素材でできており、薄くて柔軟性がある。ただし、「この時点での焦点は、ペースメーカー自体にあった」と同氏は話す。

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 Rogers氏らは今回、この溶解型ペースメーカーの新たな構成要素として、4つの柔らかくてしなやかなワイヤレスのセンサーと皮膚の上に装着するコントロールユニットのネットワークを追加。センサーは互いに通信しあって、心臓の電気的活動や体温、酸素飽和度、呼吸数などの生体プロセスをモニタリングする。これらの情報はアルゴリズムにより解析され、心拍の異常を検出した場合には、ペースメーカーをいつどの速度で作動させるかが決められる。また、こうした重要な情報は全て、スマートフォンやタブレットなどに転送されるので、医師が遠隔地から患者の状態をチェックできるという。

 Rogers氏によると、従来の恒久的ペースメーカーは、ジェネレーターとリードと呼ばれる電線で構成されている。ジェネレーターは胸の皮下に植え込まれ、ジェネレーターに接続されたリードの先端を心臓に接触させる。一時的な心臓のペーシングのみが必要な患者には、体外式のジェネレーターが使われるが、その場合でも、ジェネレーターに接続したリードを心臓の表面に留置する必要がある。このシステムについてRogers氏は、「良く機能するが、リードが正しい位置からずれてしまったり、感染の原因となったりするなどのリスクがある。また、患者は病院の設備から離れられなくなる」と指摘。「ワイヤレスのシステムであれば、患者は動き回ることができ、自宅で回復を待つことも可能になるかもしれない」と話す。

 ただし、実用化には数多くの課題が残されている。これまで、動物やヒトの心臓組織を用いた研究は実施されたが、この溶解型ペースメーカーを実際の患者に使った研究はまだ実施されていない。

 この報告を受けて、米ワイルコーネル医科大学の循環器医であるJim Cheung氏は、「非常に興味深く、創造的な研究だ」とコメントしている。なお同氏によると、一時的ペーシングが必要となる患者は少数で、その典型例としては心臓の手術を受けた後、短期間だけ心拍が遅くなった患者が考えられるという。また、恒久的ペースメーカーを植え込んだ後に感染が理由で抜去が必要になった患者も、一時的ペーシングの対象となり得る。その場合は、感染が治癒して新たな恒久的ペースメーカーを留置するまでの“橋渡し”として一時的ペーシングが行われるのだという。

[HealthDay News 2022年5月27日]

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写真:溶解型ペースメーカー Photo Credit: Northwestern University

(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)