哺乳動物の細胞から「本物の母乳と牛乳」を作ろうとしている企業があります。シンガポールのスタートアップ企業TurtleTree Labs社のこの無謀な挑戦に、3億円の投資が集まりました。一方で米国のPLT Healthソリューション社は、グルテンフリーの小麦粉と、イエローピーと呼ばれるハーブのタンパク質を混ぜた特許取得済みのプロテインを使った「本物のお肉にほどなく近い、次世代型人工肉」に挑んでいます。新型コロナウイルスパンデミックや気候変動によるサプライチェーンの危機をはじめ、これから起こり得るあらゆる事態に備え、よりクリーンでさらなるおいしさを求め続ける人たちによる、本気のフードテックが盛り上がっています。


以下では、2020年6月22〜26日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・「本物のミルク」を哺乳類の細胞から作る企業に3億円の投資
  •  シンガポールのバイオテクカンパニーTurtleTree Labs社が、世界の投資家とのシードラウンドを完了し、320万ドル(約3億4200万円)の資金を調達したと発表した。このスタートアップ企業は、哺乳類の細胞を使って「本物のミルク」を作るという世界初の試みに挑む。家畜の力を借りずに、高付加価値の母乳と牛乳を作ることは、果たして可能なのか。

     TurtleTree Labs社は1年かけて世界中から20人の優秀な科学者やエンジニアを集め、複数の機能横断的なチームを結成。同社CEOで共同設立者のフェンガー・リン氏は「私たちのチームは、ハングリーで熱意が高い。市場投入を加速するために何が必要か、コスト削減の方法、より良いサプライヤーを常に探している」と意欲的だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下、スタートアップ企業が生き残るのは至難の業だ。細胞から牛乳を作るというTurtleTree Labs社の一見突飛なコンセプトは、気候変動に伴う食糧生産への不安が広がる中、アジアにおけるフードテックイノベーション、そしてシンガポール政府の長期的な食品多様化への取り組みと共鳴し、投資家の注目を集めている。世の中に大きなインパクトを与えるテクノロジーの商用化が待ち遠しい。
    TurtleTree Labs raises US$3.2 million seed round as it accelerates cell-based milk development

  • ・お肉らしさの探求、次世代型人工肉テクノロジー
  •  ハンバーガーやミートボール、チキン、ポーク、シーフードが、次世代型人工肉として生まれ変わる。これを可能にするのが、「Artesa Chickpeaテクノロジー」だ。米国のPLT Healthソリューション社が、パートナーのNutriati社と組み、グルテンフリーの小麦粉と、イエローピーと呼ばれるハーブタンパク質を混ぜたプロテインを開発し特許を取得した。

    PLT Healthソリューション社はグルテンフリーの小麦粉と、イエローピーと呼ばれるハーブタンパク質を混ぜたプロテインを開発(出所:PLT Healthソリューション社プレスリリース)

     このArtesa Textured Pulse Proteinは、他のいわゆる大豆タンパク製の人工肉(TVP)よりも再現性が高くて調製しやすい、よりクリーンでしかも何といっても「本物のお肉に近い」味と触感、口当たりを実現する点が強み。北米の豊富な原料を使用しているため、今後商業用の大量調達も容易だ。

     消費者と販売者の間でにわかに人気が高まっているのは、植物から作るお肉であり、忘れてはならないのが「お肉の代用としてふさわしい食材」としての位置づけだ。食べた人が「おいしい」と言わない限り、売れ行きは自然に途絶えてしまう。Artesaのプロテインを使用すれば、小麦グルテンや卵、メチルセルロースを使わずに優れた人造肉製品を製造できるという。ユニークなソリューションが未来の健康的な食卓に並ぶ日が、少しずつ近づく。
    PLT & Nutriati Introduce Textured Protein Solution for Next Generation Meat Analogue Applications

  • ・症状が出る1~3日前に、ウエアラブルデバイスが感染を特定
  •  米Empatica社が米福祉省(HHC)の生物医学先端研究開発局(BARDA)と新たなパートナーシップを結んだ。自社のウエアラブルセンサーと独自のアルゴリズムを使って、COVID-19などの呼吸器感染症を「超早期」に発見して警告するシステムの検証が開始される。

    「Aura」(出所:Empatica社プレスリリース)

     システムの名前はAura。侵襲性はゼロで、Empatica社の医療用スマートウォッチ、ソフトウエア、AI(人工知能)を活用する。新型コロナウイルスに感染した患者の自覚症状が表れる前に、本人と医師に警告を送信するシステムだ。既に2019年2月に、Emaptica社とBARDAの一部門である研究イノベーションベンチャー部(DRIVe)は呼吸器感染を予測するデジタルバイオマーカーの開発に着手。事前調査では、ウイルスの排出と人の生理学との間に明確な関連性が確認されていた。そしてついにこれから、現場の医療スタッフを対象に、Empaticaのウエアラブル・リストバンドを30日間着用して生理学的データを集める、COVID-19に特化したリアルな検証試験が開始されることになる。

     ロックダウンが解除される中、ウイルス感染を早期発見できる技術が確立すれば、医療の第一線で闘うスタッフを保護して感染をとどめ、感染者の治療効果を上げることが可能となる。米疾病対策センター(CDC)はCOVID-19感染の35%は無症状であると発表しており、この事実が接触確認と封じ込めを困難にしている。実は最も感染力が高まるのは、症状が発生する1~3日前といわれているため、Auraのようなデジタルバイオマーカーが、多くの命を助ける命綱となると期待される。
    Empatica and BARDA Join Forces to Validate Wearable System That Detects COVID-19 Before Symptoms Appear

  • ・掃除機紙パックメーカー、マスクビジネスへの転身
  •  今までさほど着目されてこなかった「呼吸器官の保護」が、ウィズコロナ時代の新たな焦点となっている。スタイリッシュな充電式縦型掃除機メーカーとして一世を風靡したスウェーデンのElectrolux社の工場では掃除機紙パックを製造してきたが、時代の要請に応え、急ピッチでビジネスの一部を変革し、1カ月に100万個のマスクの製造を開始した。

     掃除機メーカーによるこの新たなマスクは、スウェーデンの研究機関RISEが行った試験で、欧州統一規格のEN149に適合した防塵マスクとしてCEマークを取得。イノベーション支援機関Vinnova社が出資し、既存の製造ラインと紙パックの素材を革新、大量生産に踏み出す。アイデアから試作品完成までに要したのはたったの3週間。普通は新たなマシンを世に出すまでには6カ月かかる自社プロセスを大幅に短縮して、急増するニーズに応える。

     Electrolux社の工場長であるマリア・ラーソン氏は「一般の人が掃除機の紙パックからマスクを作ったという話が大きく取り上げられ、ウイルスを保護する製品の高い需要に気づいた。今まで培ってきた技術的なノウハウを新たなビジネスにうまく生かすことができる」と語る。RISE社のCEOは「コロナパンデミックの中、我々は多くの医療機関や企業のヘルスケア製品の製造や輸入を支援している。変革を強いられる中、多くの課題克服のために今後もコーチングやイノベーション管理、技術サポートを提供していきたい」と述べた。
    From Dustbags to Respiratory Protection in Electrolux Swedish Factory