【質問1】今とは違う(ヘルスケアに関する)特徴的な社会の仕組みとして、どのようなものが存在しているか

【質問2】今とは違う(ヘルスケアの関する)特徴的なサービス/ソリューションとして、どのようなものが登場しているか

【質問3】その際に、活躍している企業・業種・職種としては、どのようなものが挙げられるか

 これらの質問に対して、2030年に向けて重要になる、あるいは進んでいくであろう3つのキーワードを挙げたいと思います。それは、(1)分化と統合、(2)標準化と個別化、(3)インセンティブとペナルティです。

 2030年に向けては、この3つのキーワードに関連する社会の仕組みや、サービス/ソリューションが登場すると考えています。

役割がどんどん分かれていく

 まず、(1)の分化と統合についてです。

 分化とは、集約していた役割が分かれそれぞれ機能特化していくという意味です。例えば、医療提供者(プロバイダー)に関しては、現場でのサービス提供と経営が分離していく方向、そして経営は、必ずしも医師というわけではなく、経営のプロフェッショナルが担っていくこととなるでしょう。

 今は医療提供者が様々な権限も決定権も担っています。それがもっとそれぞれの役割に分かれて、医療提供者は、医療提供に専念する形になっていくのだと思います。

 同時に、プロバイダーの統合が進むでしょう。非効率、低収益な提供体制を統合、機能を再定義することで、無駄や非効率を無くし、持続性を保つとともに、新しいイノベーションへの活力や投資を確保することができる手段です。

 医療データに関しても役割の分化が進むと見ています。今は、それぞれの病院が保有する医療データをつなぐ取り組みが進んでいます。そうではなく、データの保有そのものを病院が担わずに、他のプレーヤーにその役割を預けるという考え方です。
 その実現を担う、セキュリティーを含めた高度な技術と、医療の未来を見据えイノベーションを起こそうとする新たなプレーヤーが、ますます重要になるでしょう。

 保険者(ペイヤー)の役割が重要になるというのも、今後の方向性です。医療の継続性の観点から、生産性の指標はさらに重視され、精緻なデータ分析に基づくバリューベースやアウトカムベースでの支払い方式へのシフトが求められるでしょう。

パブリックからプライベートへの移行が進む

 ペイヤーに関して言うと、民間保険の役割もますます大きくなります。今後は公的なペイヤーがカバーする範囲は、一定の範囲に絞られていく可能性があります。その流れの中では、相対的に民間保険への期待役割が大きくなってくるのではないでしょうか。こういった流れも含めて、セルフメディケーションの時代と考えるべきです。

 パブリックからプライベートへの移行が進む潮流として、前述のデータ保有について例に挙げるならば、保有主体が高い専門性を持つ民間に移ることにより、セキュリティーも守られ、コストも安くなっていくでしょう。利活用に向けたイノベーティブな取り組みも、民間の柔軟性と投資力でスピードが上がることが期待されます。

 もっとも、医療は広い意味で公的であるべきです。プライベートの役割は、既に構築されている業界を変えていくための新しい力だと考えています。ですから、プライベートへの移行というのは、今後のヘルスケア変革をドライブしていく動きだと見ています。

デジタルヘルスによる「可視化」が標準化を後押し

 次に(2)の標準化と個別化についてです。

 今は、地域格差や医療・介護提供者の技術や知識の格差などを背景に、提供されるサービスが必ずしも標準化されていません。今後は、さまざまなガイドラインの登場も含め、もっと標準化が進む方向になっていくと思います。

 そのカギを握るのが、デジタルヘルス(ヘルスケアのICT活用)による「患者情報の可視化」です。患者の日常データが集積されるなど、これまで見えなかった多くのデータが見えてくるようになると、当然、そのデータを分析していった結果として、標準化が進むことになるでしょう。

 一方で、標準化したものを誰に対しても単に当てはめてしまえば良いということではありません。標準化された上での個別化も進みます。例えば遺伝子解析の結果のようなプレシジョンな情報が明らかになり、また個人の嗜好や社会背景、経済状況など、個別の事情の医療への影響は、これまで多くの指摘があります。それをきちんと踏まえた医療をコーディネートする、いわばコンシェルジェ的な役割が、現代の技術の高度化に合わせて、生まれてくるでしょう。

 今はなんとなく標準化と個別化が混在してしまっているのですが、今後は標準化できるところと個別化できるところを分けて考えていかなければなりません。その整理がどんどん進んでいくのだと思っています。

必ずしも平等な世界ではなくなっていく

 最後に(3)のインセンティブとペナルティについてです。

 今後は、成果に伴いインセンティブが発生する、そんな世界に移行していくはずです。これまでの、保険点数の枠組みの中で行為によりポイントを積み重ねていくといった仕組みは変わっていくでしょう。患者の立場としてもそうです。自ら健康管理を積極的に進めていくのであれば何かのインセンティブにつながる仕組みが構築されていきます。

 こうしたインセンティブを、社会のどのような機能でどう設計していくか、それがこれからの10年には不可欠です。現在その裏側にあるペナルティ、つまり何かをしないと何かを失う、という仕組みはあまり存在しません。人間、あるいは組織が本来の力を発揮する上においては、インセンティブとペナルティの両方が存在することが望ましいでしょう。この両面の仕組みが設計され、社会に実装されていくと見ています。

 結果として、いろいろなものが淘汰されていく可能性はあります。今までは、いわば平等な世界でした。必ずしもそうではなくなっていくのが、これからの10年だと考えています。


(タイトル部のImage:adimas -stock.adobe.com)