前編では、パンデミック時にどのように医療イノベーションをブレークスルーさせるかについて触れた。結局、100年に一度なのか、10年後に再来するのか。あるいは、どれくらいの規模なのか、どれくらいの期間なのか、インフルエンザなのかコロナなのか、重症化に地域性があるか等々、不確定要素が多い。資本投下を含めてgoかno goかの判断は容易でなく、パンデミックを迎え撃つイノベーションの在り方を既存製品の利用や需要の先読みという観点から論ずるのは極めて難しい。

 他方、今回の新型コロナ禍後の生活はどのように変わるかという議論が益々活発になりつつある。学校教育における9月入学問題しかり、リモートワークの普及しかり、今回のような国難は、大胆に国の制度や生活様式を変えるチャンスでもある。むしろ、何も変えず、ただ元に戻そうとするのは、国民の自粛や大きな経済損失の対価としてはもったいなさすぎる。

 私が提言したい変化は以下の3点だ。

(1)緊急使用許可制度の導入

 米国のEUA(FDAが一定のデータで医療現場での使用に許可を出すことができる制度)のような制度を持たないと厚生労働省もパンデミック時に身動きがとりにくい。日本人は何かあれば国が責任を取ってくれるからという思想が強すぎて、国が大胆な制度を導入しようとする際マイナスの一因になっている。

 少なくともパンデミックのような有事には多少無理があっても政府が判断して実施したことに対して結果だけ見て安易に非難するようなことはやめなければ、こうした制度はできない。

(2)パンデミック時の柔軟な医療供給体制の整備

 今回、利用者が激減したホテルをウイルス陽性患者の待機場所として利用したことは柔軟な対応としてポジティブに見ている。こうした対応のように、パンデミック時にどの段階でどんな非日常の医療供給体制を整えるかあらかじめ用意しておくことはデメリットよりもメリットが多いと思う。

 当然、国や自治体レベルで必要なPPEの備蓄も必要だ。人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)をどこまで備蓄するかは正確な解がなく、コストもかかるために判断は容易ではないが、少なくとも治療方法の備えについても検討を行う必要があるだろう。

 COVID-19では、ウイルス感染→サイトカインストーム→急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や微小血栓による症状などに進行する等、病態の解明や研究を通して新たな貴重な知見を多く得つつあると思う。この経験から、パンデミック時にどんな治療が必要かを医学界が整理し、それに基づいて行政が備えるという連携が待たれる。

セルフメディケーションと遠隔医療を

(3)在宅医療の推進

 トイレットペーパー、マスク、アルコール消毒剤など家庭で備蓄できるものはある程度、各家庭で準備することが望ましい。トイレットペーパーは家庭外利用が一時的に家庭内使用にシフトすることで品薄になるが、それも2カ月程度で解消されることを学習した。マスクもアルコール消毒剤も供給は比較的速やかであり、各家庭がもう少しパンデミックに備えていれば、ここまで品薄が問題にはならなかったであろう。

 風邪などの疾患は平素から家庭でも管理できるようにしてもよい。そもそも米国などは風邪症状だけではまず医療機関を受診しない。インフルエンザすら日本ほどは抗ウイルス薬に頼らないが、決してそれが社会問題にはなっていない。これを機会に風邪などはセルフメディケーションをもっと積極的に利用すればいいと思う。

 インフルエンザでもそうだが、そもそも症状でつらいのに医療機関を受診して、簡易キットで診断されて処方箋をもらい、薬局に行って処方を待つというのは当人にもよくないし、感染者を隔離するという観点からも合理性に欠ける。そこで、自宅であっても唾液採取を用いてPCRや抗原抗体反応キットで診断し、薬も自宅まで届けられるようなインフラをすぐにでも整備すればいい。ここに遠隔医療システムの必要性が顕在化する。

 唾液では感度が低くて問題なら(ここにイノベーションの余地があるのだが)鼻腔であっても、少しトレーニングすれば、ほとんどの家庭で自己責任において実施可能だと思う。リスクも伴うがメリットが上回るという考え方だ。さらに踏み込んで考えると家庭用小型PCRというニーズもあるかもしれない。パンデミックによらず、普段から、インフルエンザやノロだけでなく、子供の発疹や風疹などの感染症、下痢の原因が何かなど、家庭内で簡単にPCR検査ができれば役に立つかもしれない。

 ただし、日本の医療供給体制の優れた点の一つであるアクセシビリティの良さを維持するためには一定数以上の外来患者も必要であるし、安全性確保の観点から診断や治療に医師の介在は必要だろう。セルフメディケーションの広がりで医療費は少し抑制できるかもしれないが、その分はそもそも米国と比べ低く設定している医師の診断料や技術料に充当し、医師の報酬を維持するという方法がある。

最後に…

 新型コロナのようなパンデミックは到来時期、規模、地域性等、予測困難な要素が多すぎるため、パンデミックに対してビジネス上の備えをすることは容易ではない。ただし、今回の学びを生かすことが次のパンデミック時におけるヘルスケアイノベーションのヒントになることは間違いない。

 また、こういう災禍だからこそ、大胆に制度や生活様式を変えたい。そこからもまた新しいイノベーションが生まれうるであろう。さらに、今回のCOVID-19禍は世界の国々が医薬品や医療機器の自給状況について再考する機会であり、ポストコロナ禍のヘルスケアイノベーションにおけるグローバル戦略において、その点を考慮する必要がありそうだ。

注意)本記事の執筆については2020年5月9日時点の情報に基づく


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