様々な技術によってコンピュータ―上に作り出されるバーチャルヒューマンの市場が急速に拡大している。コンサルティング会社によれば、2030年の同市場は2700億元と、4兆円を軽く超える規模になるという。現在でも、人気のあるバーチャルヒューマンの年収は1000万ドルを超えるというから、確実に人間の仕事領域を浸食している。若いユーザーに好まれる要素であるバーチャルヒューマンは、ブランドマーケティングの新たな選択肢になっている。(日経BP 総合研究所)

 独特のビジュアル、完璧なキャラクター設定で、入念に作成されたバーチャルヒューマンが徐々に現実の世界に入り込んでいる。ネットで圧倒的人気を誇るバーチャル歌姫の洛天依(ルオ・テンイ)からブランド独自のバーチャルヒューマン、さらにはSNSに登場する各種バーチャルパーソナリティまで、さまざまなバーチャルヒューマンが登場している。ここ数年、バーチャル司会者、バーチャルアイドル、人工知能(AI)パーソナリティなどが、徐々に私たちの身近なものになった。

 関連報告書によると、2030年には、中国のバーチャルヒューマン(デジタルヒューマン)市場の規模は全体で2700億元(1元は約18.0円)に上る見込みで、ますます多くの企業や資本がバーチャルヒューマンの競争に参入している。

バーチャル歌手やバーチャルパーソナリティ、バーチャルヒューマンが身近に

 ショート動画共有アプリ「抖音(TikTok)」の音楽イベント「美好奇妙夜晩会」に、バーチャルアイドルグループのA-SOULが登場し、「サイボーグ歌姫」の朱婧汐と一緒に中国民謡調の「赤伶」を歌った。

 洛天依の9周年の誕生日イベントには、全国各地から大勢のファンが上海に集まった。ファンは洛天依の歌をしっかり覚えていて、声を合わせて一緒に歌っただけでなく、ステージに向かって「ベイビー!」などと叫んでいた。そしてイベントが終わっても、ファンたちは会場の回りからなかなか帰ろうとしなかった。

 バーチャルヒューマンは今ではもうなじみの薄いものではない。海外で人気のバーチャルインスタグラマーのリル・ミケーラやバーチャルモデルのimma、中国発のバーチャルキャラクターの翎Lingや超リアルバーチャルヒューマンのAYAYI、そして初音ミクや洛天依などのバーチャル歌姫、さらにはA-SOULやRICH BOOMなどのバーチャルアイドルグループまで、独自のキャラ設定がなされているだけでなく、リアルな人のようにSNSでネットユーザーと交流し、オフラインイベントに「参加」したり、商品のキャンペーン役を務めたりする。バーチャルヒューマンは何度かの技術イノベーションを経て、その形態がますます豊富になっている。

サービス型バーチャルヒューマンの応用範囲がより広く

 バーチャルヒューマンは現実の世界に存在するものではない。コンピューターグラフィックス(CG)、レンダリング、モーションキャプチャ、ディープラーニング、音声合成などのコンピューターツールを通じて作り出され、利用されるもので、外見の特徴、人のように振る舞う能力、人とやりとりする能力など、人のもつさまざまな特徴を備えた総合的な創作物だ。代表的な応用を細分化すると、バーチャルアシスタント、バーチャル顧客サービス担当者、バーチャルアイドル、バーチャルパーソナリティなどがある。

 バーチャルヒューマンは2種類に分かれる。キャラクター型バーチャルヒューマンとサービス型バーチャルヒューマンだ。

 そのうちサービス型バーチャルヒューマンは、主にリアルな人間に代わって情報提供を行うなどのコンテンツ制作に利用され、簡単な問い合わせややりとりに対応する。海外ではCG分野の技術的優位性があることから、人へのサポート力が高いバーチャルヒューマンを作成することが可能で、他分野に先駆けて、医療場面などでバーチャルなつきそい・アシスタント、バーチャル心理カウンセラーなどとして利用されている。

 コンテンツ制作について見ると、バーチャルヒューマンのコンテンツ制作プラットフォームは今や多くのメーカーが共同で力を入れるポイントになっている。中国のメーカーには火山引擎、科大訊飛(iFlytek)、相芯科技などあり、いずれもニュース・情報提供に関わるプラットフォームを打ち出している。

 バーチャルパーソナリティは現在、中国国内で最も激しい競争が展開されている分野だ。ライブ配信シーンの運営を細部にわたりバーチャルヒューマン製品の設計に組み込むメーカーも出てくるだろう。

 その他の分野としては、多くのメーカーが展開を計画しているバーチャルティーチャー、バーチャルナビゲーター・ガイド、展覧会や展示会などのバーチャル説明員などがあり、バーチャルヒューマンはユーザーからの基本的な要求を行為や音声によって識別し、固定のパターンにより対応することが可能だ。

 このほかに注目されるのは、AIバーチャルアシスタント・アプリがすでに誕生していることで、中国のスマートスピーカーが打ち出している有名AIバーチャルアシスタントも、カスタマイズ可能なオリジナルのバーチャルヒューマン・イメージを対外的に発表している。今後想像できる展開としては、エクステンデッド・リアリティ(XR)やホログラムなどの方法により、具体的なキャラクターイメージを伴ったAIバーチャルアシスタントが私たちの日常生活の中にも登場するようになるかもしれない。

キャラクター型バーチャルヒューマンがライブ配信分野に参入

 人格的特徴を持たないサービス型バーチャルヒューマンに比べ、キャラクター型バーチャルヒューマンはそのアイデンティティがより強調される。現実の世界では、こうした独自のキャラ設定があるバーチャルヒューマンは、静的な画像、動的な動画、リアルタイムのライブ配信などさまざまな方法で人々の注目を集める。

 バーチャルヒューマンが「ネット有名人」の領域を「侵す」現象も起こっている。米国発のリル・ミケーラは世界的にも非常に人気があり、2016年にはインスタグラムに進出し、2020年の収入は1千万ドル(1ドルは113.4円)を超えた。中国初の超リアルなバーチャルヒューマンである翎Lingは中国風のイメージが特徴で、ファッション誌「ヴォーグ」に登場しただけでなく、米電気自動車(EV)大手テスラのイメージキャラクターも務めた。今年10月に中国で誕生した柳夜熙は、現実世界とバーチャル世界が入り交じった鮮烈なビジュアルの動画が発表されると、ショート動画プラットフォームのアカウントに24時間で130万人以上のフォロワーがつき、「いいね!」は200万を超えた。

 また、ライブ配信とネット有名人はバーチャルヒューマンにとっても重点発展市場になっている。代表的なキャラには、米国のバーチャル動画配信者のCodeMiko、中国発では抖音の阿喜(Angie)と動画サイト「bilibili」(ビリビリ)up主の鹿鳴、日本のImmaなどがある。

 全体的に、バーチャルヒューマンのキャラクターは安定しており、さまざまなイベントに高頻度で参加することが可能だ。リアルな人間キャラクターと違い、マルチチャンネルネットワーク機関が特定のキャラクターを長期利用するという問題を解決できるため、ライブ配信やイメージキャラクターなどの分野で発展を遂げた。

2030年に中国バーチャルヒューマン市場の規模は2700億元に

 コンサルティング会社の量子位がこのほど発表した「バーチャルヒューマンディープ産業報告」によると、2030年には、中国のバーチャルヒューマン市場全体の規模は2700億元に達することが見込まれる。このうちキャラクター型バーチャルヒューマンの市場規模は約1750億元になり、サービス型バーチャルヒューマンは950億元を超える見込みで、現在の市場は初期の市場育成段階にある。人に代わってサービスを行うバーチャル配信パーソナリティとバーチャルキャラクターのうち、バーチャルアイドルが目下の市場の注目点だという。

 同報告書は、「バーチャルヒューマン業界を今後駆動していく要因としては、ユーザーの世代交代が進み、新世代の若い層がコンテンツ消費とバーチャル世界をより一層追い求めるようになること、バーチャルヒューマン関連の技術的ハードルが相対的に低下して、コストが低下することが挙げられる。また、資本の関心が高まり、バーチャル化の流れが徐々に共通認識になること、VRゴーグルなどの関連デバイスの市場が徐々に発展し、大規模な商用化の実現が期待されることも駆動要因になるだろう」との見方を示した。

徐々に若い消費者の新たな選択肢に

 中国の調査会社・艾媒諮詢がこのほど発表した「中国バーチャルアイドル産業発展・ネットユーザー調査研究報告2021」によると、人々の娯楽ニーズが拡大を続け、ネット技術及び音響映像技術が絶えずバージョンアップする環境の中で、中国のバーチャルアイドル産業は徐々に発展のピーク期を迎えている。データを見ると、昨年の中国のバーチャルアイドルを中核とした産業の規模は前年同期比70.3%増の34億6千万元で、今年は62億2千万元に達する見込みだ。商業的価値が次々に掘り起こされるのにともなって、ますます多くの産業がバーチャルアイドルを起用するようになり、バーチャルアイドルによってもたらされた産業の規模は昨年は645億6千万元に上り、今年は1074億9千万元に達する見込みだ。バーチャルアイドルの商業的価値は今まさに掘り起こされつつあり、ビジネスの応用範囲がさらに広がっている。

 調査によると、ネット上でスターの「追っかけ」をするネットユーザーの63.6%がバーチャルアイドルを応援し、その動向に注目していた。また、53.2%が「バーチャルアイドルが好きなのはイメージやデザインがいいから」と回答し、50.5%が「性格や位置づけなどのキャラ設定が好きだから」と答えた。二次元分野の主要な受け手である「90後(1990年代生まれ)」と「00後(2000年代生まれ)」が徐々に消費力を持つようになり、若いユーザーが消費市場を主導するようになるにつれて、若いユーザーに好まれる要素であるバーチャルヒューマンは、ブランドマーケティングの新たな選択肢になっている。(出所:人民網日本語版)