米国のスタートアップ企業、ヘイロー・ニューロサイエンスが開発した、「ヘイロー・スポーツ(Halo Sport)」と呼ぶヘッドホンがスポーツ界で注目を集めている。

 見た目は普通のヘッドホンだがヘッドバンド部に仕掛けがある。装着時に頭頂部に触れる部分に電極を備えており、微弱な電流で脳の運動皮質に刺激を与える。その刺激とトレーニングを組み合わせると、通常のトレーニングよりも運動能力を高める効果があるという。

 怪しげな装置にも思えるが、既に米大リーグ(MLB)や五輪選手など多くのトップアスリートで採用実績がある。米スタンフォード大学医学部の研究者が中心となってヘイロー社を設立した。脳への電気刺激は「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)」と呼ばれる手法で、運動機能障害の回復やリハビリへの応用が期待されている。

 ヘイロー社はtDCSをトレーニングに応用した。同社によれば、スキー競技の米国代表チームによる11日間のトレーニングでは、ヘッドホンを使ったグループは使わないグループよりも跳躍力が13パーセント高まり、目標パフォーマンスに達するまでの期間が5日間短かったという。

 ヘイロー社のヘッドホンはテクノロジーによって人体の能力を強化する「超人化」の手法が新たなフェーズに入ったことを象徴する。従来は難しかった潜在的な能力を引き出したり、人体のパーツをより優れた新たなものに取り替えたりすることを目指す方向に進み始めた。

 これはスポーツ分野に限った話ではない。超人化の要素となる技術は、再生臓器や遺伝子操作のような生物系と、電動義肢やパワードスーツのような電子機械系があり、それぞれ進化している。

 今後、テクノロジーによる超人化は人間の能力開発に関する社会のコンセンサスを大きく変え、社会やビジネスに影響を与えていくことになりそうだ。

 テクノロジーによる超人化は、長寿、健康寿命の延伸という太古からの人類の望みをかなえる点で朗報との見方が多い。高齢者や身体に障碍を持つ人の社会参加を促すダイバーシティー社会を実現する上でも重要な役割を果たす。半面、様々な危険も考えられる。

 テクノロジーによる超人化は果たしてどこまで許されるか。この命題に対する線引きは定まっていない。新しいテクノロジーで獲得した能力が倫理面で否定され、社会から批判を受けることもあるだろう。逆にテクノロジーによる超人化が社会からコンセンサスを得ることになれば、ビジネスへの導入を躊躇した企業は出遅れることになる。