じわりじわりと日本企業の足を引っ張り、世界における日本の競争力低下を加速させ、取り返しのつかない状況に落ち込みかねない事態が起きつつある。日本における研究開発力の低下だ。

 研究開発力は企業や国の競争力の源泉となる。大学や公的研究機関、そして企業の研究部門で取り組まれる研究開発テーマは、既存産業の生産性向上と収益性の拡大、そして新産業の創出などに生かされ、それが企業業績や日本のGDP増加につながる。こうした正の効果が研究開発力の低下によってしぼんでしまう。

 日本における研究開発力の低下は科学技術に関する論文の件数や先進性の評価を見ると明白だ。文部科学省科学技術・学術政策研究所の分析によると、日本の論文数は過去10年間で伸び悩み、世界ランキングは2位から4位に低下した。注目度が高い論文に限ると4位から9位に落ちている。技術立国を誇ってきた日本が間もなくトップテンに入れなくなるかもしれない。

 注目度が低いということは、論文の質の低下、つまり研究開発の先進性が失われてきたと言わざるを得ない。

 分野ごとに見ると日本が直面する状況の深刻度が分かる。注目度が高い論文の世界ランキングは「工学」分野で5位から13位に低下。日本が強いとされる自動車や機械、電子機器といった産業の競争力低下が懸念される。

 新産業の軸として期待されるAIやビッグデータなどITと強く関わる「計算機・数学」分野も13位。同じく、今後の産業発展が期待されるライフサイエンスに関する「臨床医学」「基礎生命科学」といった分野も10位。

 日本のランキング低下は世界の主要国での研究活動が活発になっている影響も大きい。米国をはじめ、ドイツや英国、フランスといった欧州主要国での論文数は過去10年で30〜40%伸びた。中国に至っては4倍以上に増えて日本を凌駕し、韓国は2倍以上に増やして日本を猛追する。

 一概には言えないものの、研究開発が盛んになるほど論文数が増加し、その中に含まれる質の高い研究の論文も自ずと増えてくると考えると、欧米主要国や日本を除くアジア主要国の世界ランキング上昇は納得がいく。

 こうした状況を打破する可能性は残されている。まず、日本の論文の70パーセント強を生み出し、日本の研究開発を支える大学を活性化する。

 現状では、研究者が自由な研究に投入できる研究費や研究時間が不足、経済的な不安から研究者を志す若手研究者が減少するといった問題を抱え、研究現場の活性化が阻害されているとされる。

 研究活動が活発な海外にならうところも多い。例えば研究活動の国際化だ。ドイツや英国、フランスは論文数が年々増え、世界ランキング上位を維持する一方、著者が自国内にとどまる論文数は横ばいである。自国外の研究機関との共著が増え、それが研究の量と質を支えている。

 日本でも海外機関との共著論文は年々増えているが伸び率で欧州主要国と差がついている。注目度が高い論文をみると、海外機関と連携した研究の論文が占める比率が高い。海外機関との連携を強めれば研究活動の活性化とレベルアップを図れる。

 企業との共同研究を増やし、資金や人材といった研究リソースを大学に取り入れる策も有効だ。日本の大学は、米国の主要大学に比べて企業から受託する研究費が少ないとされる。例えば、マサチューセッツ工科大学には年間100億円以上の研究費が企業から集まる。

 研究レベルの高さだけでなく、企業のニーズを把握して大学の研究テーマ(シーズ)をつなぐ仕組みがあり、それを担う専任の人員が配置されていることが、企業を大学に引き付ける鍵であるとの指摘がある。企業にとっても、大学を活用しながら自社の研究開発力を高めることが可能だ。