世界経済フォーラムが毎年1月に発表する「グローバルリスク報告書」で、影響の大きいリスクとしてここ数年間必ず上位に挙がるものの一つに「水危機」がある。水危機は水不足と水災害に大別される。水不足では製品の生産に必要な水を確保できるかどうか、水災害では工場が操業を続けられるかどうか、といったことに企業は対処しなければならない。

 経済協力開発機構(OECD)は新興国や途上国の人口増加などを背景に、2050年には世界の人口の約40パーセントが深刻な水不足にさらされると予測する。こう聞いても、水資源に困ることがほとんどない日本で事業をしている企業はなかなか実感がわかない。水不足は中国やインドなど海外の問題だと捉えている企業は少なくない。だが、日本国内でも夏場は毎年のように渇水の影響を受け、取水制限をしている地域がある。こうした話は東京の本社には伝わってこないが、現場が工夫して水不足をしのいでいる。

 水災害は日本でも起きた。2018年9月の台風21号がもたらした高潮によって関西国際空港が一時閉鎖された。気候変動の影響とみられる豪雨や巨大台風が世界各地で頻繁に発生するようになっている。2011年にはタイで大洪水が起こり、現地のサプライヤーから部品などの調達が滞った。

 経済のグローバル化が進み、企業は海外に生産や販売拠点を持ち、原材料や部品を海外から調達している。今や、サプライチェーンを見渡せば海外と無関係という企業は少ないだろう。したがって多くの企業にとって、自社の事業に関わる拠点が水不足や水災害の被害に遭う危険がないかどうかを点検し、対策を講じることが、持続的に成長するために欠かせなくなっている。場合によっては、工場を移転したり調達先を変えたりする必要があるかもしれない。食品メーカーの場合、原料に使う農産物が干ばつの影響によって生産量が減ってしまうと直接大きな打撃を受ける。

 水危機に対処するにあたっては直接の物理的問題だけではなく、規制と評判にも配慮しなければならない。例えば、汚染された水を排出させないようにする排水規制などがあり、浄化設備などを導入していないと法令違反になる恐れがある。水不足の地域で好き放題に大量の水を使っていると、地域住民から批判され、不買運動を起こされたり、最悪の場合、訴訟に発展したりする。

 厄介なのは、水に関わるリスクの種類や大きさが地域によって大きく異なることだ。現地に赴いて河川の流域を調べたり、地域住民の声を聞いたりしなければ、何が問題でどういう対策が必要なのかを判断できない。どこかでうまくいった対策を「ベストプラクティス」としてそのまま他の地域に水平展開できるという性質のものではない。

 水危機への対処が求められるのは、事業継続の観点からだけではない。ESG投資が広がる中、水危機への対応を怠れば、長期で株を保有し安定株主になってくれるESG投資家の評価を下げることになりかねない。

 気候変動と並んで、水危機に関する情報開示の要請は強まっている。例えば、英ロンドンに本拠を置くNPOのCDPは2015年から、企業の水に関する取り組みを調査、採点し、結果を公表している。CDPの活動は、運用資産総額87兆ドル、650以上の投資家が支援しており、CDPの評価は投資判断にも利用されている。サプライチェーン全体で水関連の危険性を把握し、十分な対策を講じていないと良い評価は得にくい。