新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題を含め、世界の先行きは依然として不透明である。COVID-19がもたらした変化が常態になるだけではなく、将来はずっと不確実ということ自体が常態だと言える。そうなると靄がかかっている未来に向けて手探りでも改革や新たな挑戦に取り組む企業と、そのつど対症療法に終始する企業との間には差が付き、今後広がっていく。当面の善後策からは新たな価値を生めない。

 未来に向けて新たな価値を創出していく方法を、芝居に例えて考えてみる。改革や挑戦という芝居のシナリオを自ら書き、出演者を募り、上演する。聴衆の反応を見てシナリオを練り直し、再演する。多くの人を巻き込んでいければ未来の芝居を現実の成果にしていけるはずだ。

 やり方は単純だが実行は簡単ではない。シナリオを書き、上演するための心構えを列挙してみよう。

嬉しいラストシーンを描く

全体提示
 シナリオには「こうなったら多くの人が喜ぶ」という将来の姿を描き、そこに至る道筋を示す。芝居には複数のシーンがあり、それぞれ関係がある。

 あえてCOVID-19を例にとると「ワクチンをほぼ全員に接種」というラストシーンの芝居であれば、ワクチンの調達、該当者への連絡、公平な受付、全国各地での接種といったシーンをつないでいく。調達はなんとかできたが受付がうまくできないようではラストシーンにたどりつけない。

 もぐら叩きの対症療法は寸劇のようなもので本来の芝居にはならない。新製品開発や事業変革は大芝居であり、最初からすべてを見通すのは無理だが、重要なシーンをいくつか想定しておくことはできる。

人物設定
 芝居という全体の中でだれがどの役を演じるのか、台詞を含めてシナリオに書く。自分の位置付けをはっきりさせることがとりわけ大事だ。いわゆるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に取り組むのであれば、これまで通り自動車メーカーの役を演じるのか、それともサービス事業にまで乗り出すのか、役割を明確にする。

 自社の強みはやはりモノづくりだからメーカーに徹する、と腹をくくってもかまわない。その場合、自分がつくる製品を高く買ってもらえるシナリオを考える。長年続けてきたコストダウンより楽しいのではないか。

出演者募集
 これはと思う相手にシナリオを伝え、説明し、共感を得て協力しあう関係を築いていく。「ぜひとも出たい」と言ってもらえるシナリオに仕立てられれば良い役者を揃えられる。相手の候補は社内の他部門にいるかもしれないし、外にも沢山いる。場合によっては初めての相手、あるいは競合であっても思い切って共演する。

第一稿上演
 一通りのシナリオができたらとにかく演じ始めてみる。顧客の反応や市場の変化に応じ、軌道修正をしていく。シナリオ無しで上演するのは無謀だが、細部まで練られた完璧なシナリオを待っていてはいつまで経っても始められない。

 「人材を揃えてから」「資金を確保してから」「リスクを洗い出してから」「テクノロジーが使えるようになったら」と言い出したらきりがない。COVID-19問題のような有事に悠長な姿勢をとるのは危険である。

自作共作
 できれば複数の部門から問題意識の高い人が集まり、議論を重ねて、シナリオを書いていく。主題は社会や顧客の課題から選んでもよいし、自社の問題を取り上げてもよい。同じ企業であっても部門や職種が異なると、考えていること、知っていることも異なるので議論を始める前に第三者を交えて対話し、共通認識を持つようにしたほうがいいだろう。

高い視座
 良いシナリオを書くためにも日頃から色々なことに接し、学んでおく。舞台装置として使いたいテクノロジーをすでに誰かが開発していたとしたら、それを借りられるかどうかを打診する。そのためにどこでどんなテクノロジーが開発されつつあり、いつ世の中に出てくるのか、といった潮流をつかんでおく。

 自社内や所属している業界を見ているだけでは不十分である。例えばもともとは軍事関連のテクノロジーが民間で使われ、イノベーションを起こし、ゲームのルールを変えてしまうことがあるから、そうした分野も見ておく。逆に身近な消費者向けモバイルアプリが世界を変えてしまう場合もある。モバイルデバイスとインターネットはいまや一種の社会基盤になり、その上で消費者同士、消費者と売り手がつながり、やり取りしたデータがたまり、それらを分析して知見が得られるようになっている。

傾聴と敬意
 当たり前のことのようだが相手の話をよく聞き、経験や知見を尊重する。芝居を成功させるには役者はもちろん、舞台製作、演出、照明、宣伝などなど多くの人がシナリオに共感し、ラストシーンに向けて協力しなければならない。

 「俺の言う通りにやれ」「指示をお願いします」といったトップダウンの進め方やそれを待つ態度ではうまくいかない。「消費者向けのアプリですか」「外注さんがやることです」などと外の世界やソフトウエアを軽視してはいけない。

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)
日経BP総研 上席研究員
1985年から通算20年以上、日経コンピュータ誌の記者や編集委員を務め、情報システム構築プロジェクトの成功・失敗事例を取材。日経ビジネス、日経ビズテックの編集委員を経て、2009年日経コンピュータ編集長。2011年から日経BP総研を兼務し、マネジメントとテクノロジーに関する書籍やウェブサイトの企画、編集に携わる。著書に『システム障害はなぜ起きたか』(日経BP)、『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』(日経BP)、『社長が知りたいIT50の本当』(日経BP)、『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』(共著、日経BP)などがある。

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A4判、316ページ、2021年11月12日発行

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