日本では、急速にラジオリスナーが増えている。新型コロナウイルスの影響により、外出自粛や休校、テレワークが広がり、自宅でラジオを耳にする機会が増えているからだ。ラジオのように「聞く」ことが前提の音声を媒体とした「耳経済」が拡大しているのは、中国でも同様だ。2019年から2020年にかけてオンライン音声市場のユーザーは1割以上増え、さらにユーザーの7割は課金をしたことがあるという。同市場には多くのプレーヤーが参入し、そしてしのぎを削っている。(日経BP 総合研究所)

 最近、株式市場における最大の音声プラットフォームを目指す喜馬拉雅(ヒマラヤ)が、米国証券取引委員会に新規株式公開(IPO)の申請を提出し、ニューヨーク証券取引所での上場を計画していることを明らかにした。米国2大音声プラットフォームである音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」と音楽配信大手「スポティファイ(Spotify)」は、音声プラットフォームの分野で激しい戦いを繰り広げている。また米SNS大手「フェイスブック(Facebook)」もこのほど、音声SNSをテーマにした複数の新商品を打ち出す計画を明らかにした。それより前には、アップルも自前の有料ハイレベル音声プラットフォームサービスを打ち出すことを検討中としていた。

 大手が音声サービスに戦いの場を移し、この分野を深く開拓するようになり、「耳経済」がもつ巨大なビジネスはさらに勢いを増してきた。スマートホームや車載インターネット(IoV)など、ユーザーが長い時間利用するシーンが増えていくのに伴って、音声のコンテンツと利用シーンがここ数年、非常に大きな発展のポテンシャルを見せるようになった。

「耳経済」が盛んに?

 イヤホンを装着し、「聴書」アプリを開けば、耳から聞こえてくるコンテンツが通勤途中の寂しさを忘れさせてくれる。行きは音楽を聞き、帰りはスケッチ・コメディを聞く……ここ数年、放送局のアプリを使用する人がますます多くになってきた。特に昨年から、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、多くの人の娯楽ニーズがオンラインに移ったため、ネットで視聴するタイプのアプリのユーザーがさらに増加し、本を「聞く」アプリを中心としたオンライン音声プラットフォームが爆発的成長期を迎えた。

 「聞く」ことがトレンドになり、音声を媒体とした「耳経済」が急速に発展し、「閲覧市場」の発展を後押しする時代の寵児になった。

 艾媒諮詢がまとめたデータによると、2019年の中国オンライン音声市場のユーザー規模は4億8900万人に達し、20年は5億4200万人に達したとみられる。このうち7割以上のユーザーが「オンラインの音声プラットフォームに料金を支払ったことがある」と答え、「耳経済」の発展のポテンシャルの大きさをうかがわせた。

 企業情報サイトの企査査のデータでは、11-19年に、中国の音声関連企業の年間登録数は年々増加して、14年に初めて2千社を突破、17年は5千社を突破し、19年は過去最高の7544社に達した。20年は資本の大きな環境変化の影響により、登録数は前年比33%減の5047社となった。

「耳経済」でスキマ時間を有効活用

 音声には「聞こうと意識しなくても耳に入ってくる」という特徴があるため、今の時代にますます価値を高めている。「見る」が体も精神も集中させなければならないのと異なり、音声は聞きながら他のことができる。生活リズムがますます速くなる現代において、スキマ時間を利用して目を使わずに情報をキャッチできる。

 従来の放送局の番組から、漫才、ラジオドラマ、オーディオブック、トークショー、さらには各種の有料知識コンテンツまで、オンライン音声プラットフォームには各分野のコンテンツが集まり、年齢や業界の枠を超えた大勢のユーザーを取り込んでいる。

 艾媒諮詢のデータでは、中国国内のオンライン音声の5大利用シーンは、寝る前、通勤途中、散歩中、家事中、昼休みとなっている。またトレーニング、旅行や出張、勉強や仕事中にオンライン音声を聞く人の割合もそれぞれ20%を超える。夜はユーザーの増加ペースがさらに速い時間帯だ。ヒマラヤのデータでは、夜のショギング中、寝る前、車の中でオンライン音声を聞くユーザーがますます増えている。夜にヒマラヤを利用する人のうち、「00後(2000年代生まれ)」と「80後(1980年代生まれ)」の割合が高く、「00後」は23.53%、「80後」は40.46%を占めるという。

 オーディオブックのユーザーのうち、男性が56.6%に達し、女性を明らかに上回っている。ユーザーを語るキーワードは「高学歴」、「若者」、「一線・二線都市」で、26-30歳が29.1%を占め、31-40歳が34.9%を占め、一線都市と二線都市の住民が75%近くを占め、大卒以上の学歴の人が58.7%に上った。

「耳経済」とショート動画が熾烈な戦い

 ともにインターネットの産物でありながら、音声プラットフォームはこれまでずっとオンライン動画、特にショート動画に押されてきた。昨年になって動画業界の成長が頭打ちになると、市場の目はやっと音声プラットフォームに向くようになった。動画業界に比べ、音声プラットフォームはコンテンツ制作に必要な器材など、参入する人が直面するハードルははるかに低い。入門のハードルがより低い。そのため、音声プラットフォームの送り手はコンテンツ以外で多額の資金や時間、気力をかける必要はなく、コンテンツ制作に専念でき、プラットフォームからの配信にかかるコストも節約でき、その分の資金をより優れたコンテンツ制作に当てることができる。

 また、動画視聴が流れてくるコンテンツを受け止めるだけなのと異なり、音声プラットフォームは没入式であり、受け手は公共の音声空間に入り、コンテンツをじっくり聞くと同時に、送り手が取り上げたテーマを一緒に考える。音声の世界のユーザーは頻繁に出入りせず、まとまったコンテンツを最後まで聞き通す人が多い。さらに送り手との間でより個人的な深い感情のつながりを求め、自分の選んだプラットフォームへのロイヤリティーは往々にして他のストリーミングプラットフォームを上回る。

 コンテンツを比べると、ショート動画が送り出すのは一般的に急速に消費されるコンテンツだが、音声プラットフォームは長い音声であり、またオーディオブック(ラジオドラマ)のように連続するという特徴を備える。そのため、ショート動画や音楽に比べ、音声プラットフォームが取り込んだユーザーは高学歴、高所得層(大卒以上が米国では68%、中国では59%を占める)の人が多く、プラットフォームへのロイヤリティーが高く、有料サービス加入意向が高いという特徴があり、音声プラットフォームがこれからビジネス市場を拡大していく上で、幅広く安定した基礎を提供したと言える。

 もちろん、動画と比べてみると、音声プラットフォームがもつ競争上の最大の優位性は、やはりディスプレーの前でなくてもどこでも楽しめるという点にある。音声プラットフォームなら決まった場所やディスプレーの前からユーザーを解放し、コンテンツ利用時の身体的な制約を取り払い、目を画面から解放してくれる。

「耳経済」成長の可能性はまだどれくらい残っているか?

 音声プラットフォームとオーディオブックだけでなく、「耳経済」はSNS分野でも新たな活力を見せている。21年の春節(旧正月、2月12日)の前に、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が「ライブコマース」をしたような形になったことで、音声SNSアプリのクラブハウスが世界中で大人気になった。その後、複数の中国版クラブハウスが登場した。まず、映客が対話アプリ「対話?」をリリース。その後、小米の「米聊」が7日間のサービス停止の後、新たにリリースされ、マニア向けの音声交流アプリになった。その後、網易雲音楽が内蔵モジュールの「侃侃」をリリースし、快手も音声SNSアプリ「飛船」を発表した。

 開源証券の研究報告書によると、クラブハウスには各業界の有名人、トップスターが集まり、高品質の音声コンテンツを絶えず打ち出し、高い水準を維持すると同時に、多くのユーザーが追随して使い始めている。現在、海外の大手オンライン音声SNSプラットフォームはそれぞれ細分化された分野に攻め込んでいる。小さいながらも優れたサービスという発展モデルがより頭角を現す可能性が高いようだ。

テクノロジーが力を与え、「耳経済」発展の可能性を拡大

 テクノロジーの発展に伴い、音声と自動車の車載設備、スマートホーム、スマートスピーカー、スマートウェアラブルデバイスなどのスマートハードウェアとが結びつき、音声が暮らしのさまざまな場面に浸透するようになり、「耳経済」にさらなる発展の可能性をもたらした。

 5Gにしても、自動運転車やスマートカー、IoV、さらにはスマートスピーカーやスマートホームなどのデバイスの使用シーンにしても、すべて音声プラットフォームの市場競争にエネルギーを与えている。例えば5Gの超高速、低遅延、大量接続などの特徴は、音声プラットフォームのアップロードやダウンロードをさらに迅速にし、接続状況をさらに安定させ、消費をより便利なものにしている。スマートカーは安全性が大幅に向上したため、ユーザーの音声プラットフォーム利用がより自由で快適になった。同時に、IoV技術はオンライン音楽プラットフォームの異なる端末間の切れ目ない切り替えを可能にし、ユーザーのコンテンツ消費をより楽しいものにしている。スマートスピーカーとスマートホームによって、音声による相互交流が可能になり、音質と性能の向上にともなって、音声プラットフォームの室内スペースでの利用シーンが広がっている。(出所:人民網日本語版)