最近、中国では「トランク経済」が話題になっている。都市近郊の道路沿いでも、開放されたマーケットイベント会場でも、若者たちが車のトランクを開け放ち、QRコードを掲示し、自分だけの小さなビジネス空間を心から楽しんでいる様子を見かけるようになった。商品はコーヒー、お茶、ホットドッグ、香水、おもちゃ、手芸品など様々。トランクの1つ1つに個性あふれるネットで映える装飾が施され、アイデアが凝らされ、出店の想いが込められている。大部分の店主にとって、これは起業のスタート段階であって、最終目標ではない。彼らにとって、この新興の経営スタイルは、面白くて楽しく、お金を稼ぐことができ、人との距離を縮め、たくさんの新しい友だちができるものだ。最も重要なのは、経営のコストがあまりかからず、商品が売れなくてもそれほど大きな損失を被らないこと。こうした考え方の下、中国では「トランク店」の規模が日に日に拡大し、都市のナイトエコノミーを彩る存在になっている。(日経BP 総合研究所)

 4月に「健康体操」、5月に「キャンプ」が流行ったというなら、ここ数ヶ月間人気が続いているのは車のトランクが店になるマーケット、すなわち「トランク経済」だ。しゃれたかわいらしい布製のバナー、「朝にはコーヒー・夜にはアルコール」というフレキシブルな商品提供、思わず目を奪われるクリエイティブな商品の数々……車のトランクを開けると、違う世界がそこに広がる。

 最近、「トランク経済」が新興の業態になっている。都市近郊の道路沿いでも、都市の開放されたマーケットイベント空間でも、若者たちが車のトランクを開け放ち、QRコードを掲示し、自分だけの小さなビジネス空間を心から楽しんでいる様子を見かけるようになった。

どんなものでもトランクの中に

 ホットドッグを売る店は「狗富貴的攤(ホットドッグを意味する「熱狗」と「お金持ちになっても忘れないでほしい」という意味のこのフレーズをひっかけたもの)と名乗り、香水を売る店は「逃れられない香りの法則」と銘打ち、おもちゃを売る店は「お宝発見おめでとう」とアピールする。「店を出すのは自分の夢のため」と正直な気持ちを掲げている店もある。車のトランクの1つ1つに個性あふれるネットで映える装飾が施され、アイデアが凝らされ、出店者1人1人の想いが込められている。

 手芸品を扱う「トランク店」を出している劉さんは手芸の編み物が好きで、ヘアピンやぬいぐるみ、手提げバッグ、編み物のバラの花など、さまざまな手芸作品を手作りしている。車のトランクはたちまち「移動式アートの館」に変身し、盛り上がる「トランク店」マーケットフェスに文化的な香りを添える。「普段からいろいろな手芸作品を作るのが好きで、こんな風にマーケットで展示できて、売ることもできるので、とても楽しい。ついでにマーケット内をぶらぶらして、他の店のおいしい食べ物を味わうこともできる」と劉さん。

 コーヒーの「トランク店」を出していた傅さんは早くも2020年、自分の小型ドイツ車「スマート」を「トランクコーヒーカー」に改造した。店は現在、実店舗のカフェに変わっているが、店名は今も「トランクコーヒー」だ。傅さんの説明によると、実店舗は去年3月頃から営業をスタートした。以前使っていたコーヒーカーもまだ残してあり、休みの日には運転していろいろな場所でイベントや展示をしているという。

「トランク店」に求めるのは何?

 「トランク店」を一種の生活体験と考える人もいれば、臨時収入を得るための副業と考える人もおり、企業のPRのためという人もいる。大部分の店主にとって、これは起業のスタート段階であって、最終目標ではない。

 ある教育機関で数学を教えていた呉さんは1年前、その仕事を辞めて「自分の好きなことだった」というスイーツ作りを学び始めた。今では毎朝午後からスイーツを作り始め、午後4時頃に「トランク店」を出して販売している。全部売り切れると店を閉め、家に帰るのは大体夜の12時頃だ。こうした店を始めて3ヶ月ほどになり、商売はかなり順調で、現在の月収は1万元(約20万円)を超える。呉さんは、「お金がたまったらスイーツの実店舗を開きたい。『トランク店』は過渡的なもので、これが最終目標ではない」と話した。

 王さん(23)の「トランク店」には別の目的がある。自動車ディーラーで働く王さんは成都市郫都区で同僚と一緒に韓国式インスタントラーメンの露店を開いた。電源は新エネルギー自動車から引いている。以前には、電気自動車(EV)に搭載されたカラオケシステムで歌を歌うパフォーマンスをして、見に来た人に微信(WeChat)登録をお願いしたり、自動車ディーラーのオンラインPR活動として、ライブ配信をしたりしていた。

 一部の「トランク店」の店主には、生活上の体験をしたくて始めたという人もいれば、単なる楽しみのためという人もいる。中には高級車のフェラーリでぬいぐるみを売る人やランドローバーでインスタントラーメンを売る人もいて、そんな中の1人は「高級車を運転しているような人にだって小銭を稼ぐ自由はある」と話した。道行く人の中には「金持ちぶりをみせびらかしていやらしい」と言う人もいれば、「なんて生き生きとしたシーンだろう」と言う人もいた。

小さな空間に人とのふれあいと趣味を詰め込む

 「トランク店」を開く人は「95後(1995年から1999年生まれ)」と「00後(2000年代生まれ)」が多い。彼らの出店スタイルは非常に斬新で、出店のハードルが低く、そして若者のニーズをよく理解し、サービスの質をより重視して、消費者に自分から「試してみたい」と思わせる。これまでになかった消費シーンの中で、これまでと違う消費体験をもたらしている。

 「こんな小さな空間で、こんなにビッグなビジネスができるなんて思わなかった」。「トランク経済」を支持する人の多くはその将来の発展に期待し、コロナ下の都市生活にたくさんの活力と生活感を与えるものとして高く評価する。彼らにとって、この新興の経営スタイルは、面白くて楽しく、お金を稼ぐことができ、人との距離を縮め、たくさんの新しい友だちができるものだ。最も重要なのは、経営のコストがあまりかからず、商品が売れなくてもそれほど大きな損失にはならないことだ。こうした考え方の下、中国では「トランク店」の規模が日に日に拡大し、都市のナイトエコノミーを彩る存在になった。

トランクを開ければ経済の新たなシーンが始まる

 「トランク店」は露店とはいえ、従来の行商スタイルと比較すると、経営する人もサービスや雰囲気も大きく異なる。多くの若者は単に良い商品を手ごろな価格で売ろうとしているだけでなく、非常に巧みに商品に文化的な香りをまとわせ、そこから得られる体験感を充実させている。そうして、経済的利益だけでなく、活力に満ちたストリート文化や双方向のソーシャル活動も自然に生まれていった。

 「トランク店」という若者の新たな出店スタイルには3つの特徴がある。

 第一に、経済モデルと商品種類のイノベーション・高度化を実現し、より個性的でファッショナブルな消費の選択肢を提供した。中国の伝統的な健康茶「擂茶(レイチャ)」の店にしろ、名前にも工夫を凝らしたオリジナルブランドコーヒーの店にしろ、丁寧に作られたスイーツ類の店にしろ、どれも顧客に決まり切った商品以外の新たな選択肢を提供している。「トランク店」を副業と考える人、特に起業を計画する若者にとって、こうした失敗した時のコストが低く、柔軟性の高い「軽量級運営モデル」はよりふさわしいと言える。

 第二に、単純な取引きのロジックを脱して、そこにさらに文化的付加価値を与え、消費の体験感を高めた。

 第三に、人間味にあふれた「トランク店」は、見知らぬ人同士がお互いをよく知り、双方向に交流する友情の場を作り出した。「買ったらさようなら」という従来の消費モデルと異なり、この新しい「トランク店」モデルは創意工夫に富み、多くの客を引きつけ、そこにとどまらせることができる。多くの場合、商品を買うという行為がきっかけとなって、人々は交流し、話をし、クリエイティブな商品の背後にある物語を知り、お茶文化やコーヒー文化に対するお互いの理解を共有し、友だちになることもある。

 これこそが「トランク経済」の楽しさだ。「トランク経済」は一種の経済だが、経済だけにとどまらない魅力がある。(出所:人民網日本語版)