日経BP総研は2019年1月から『100のブルーオーシャン』と呼ぶリサーチ活動を進めてきた。80人の研究員が今後新たに生まれる市場や伸びる分野を探し、2030年の市場規模を推定、攻略のポイントをまとめた。
イノベーションは5つの構造変化によって生み出される。ビジネスリーダー(B)とテクノロジーリーダー(T)の対話形式を通じて構造変化を解説する。中編ではイノベーションそのものの変化、ビジネスを取り巻く環境の変化を取り上げる。

前編を読む

T 「無形資産といえば、製造業のサービス化、ものづくりからことづくり、といった動きがあります。有形資産に投資してきた製造業が無形資産に投資を移す現れですね。トヨタ自動車が月額料金制で車を乗り換えられるサブスクリプションサービスを始める、コマツが建機の稼働情報を集めて分析し、顧客に効率的な建機の使い方を教える、といった取り組みが有名で、多くの製造業が取り組んでいます」

B 「クルマを持たないで誰かと共有する。いわゆるシェアリング、所有から共有へ、ということも一つの構造変化だろう。報道を見ていると米国の配車サービスと民泊サービスの特定2社の話が呪文のように繰り返されているが、もっともっと広がっていて、こんなものが、というものもある」

T 「例えば」

B 「Clearという手書きの学習ノートを登録し、共有するアプリがある。大学生、高校生、中学生、ほぼすべての学科、30万冊のノートが公開されている。質問したり、答えたり、そういうこともできる。家事の共有とかジョブの共有とか、シェアリングの取り組みは相当徹底しているね」

T 「マネタイズできるのでしょうか」

B 「シェアリングの利用者に対し、有償サービスを提供したり、集めたデータを分析したりして、そこから価値を見出す手がある。スタートアップに限らず、既存の大きなビジネスを持つ大企業であっても、その中でシェアができるところがあるかどうか考えてみると何か出てくるかもしれない」

イノベーションにかかわる5つの構造変化

T 「所有から共有へ、を言い換えるとクローズからオープンへ、ということではないでしょうか。ITの分野では世界中のエンジニアが自分の開発したコンピューターソフトウエアを公開し、興味を持った有志が集まってソフトウエアの機能強化や品質改善に取り組んでいます。オープンソース・ソフトウエアと呼ぶのですが最近はその動きがハードウエアにも広がってきました。知的財産を抱え込まず、公開することでイノベーションを起こそうという動きです」

B 「一方向から双方向、という表現もできる。15秒程度の簡単な動画を投稿、共有するTikTok(ティックトック)というアプリがある。利用者は5億人を超え、運営会社の企業価値はざっと700億ドル以上とされているから8兆円とすると日本のメガバンクより大きい。何が評価されているのかといえば、5億人が投稿し、そして視聴するという双方向の仕組みをつくったこと。動画を公開するからこれもオープンと言える」

T 「広辞苑で『市場』を引いてみました。『一定の場所・時間に関係なく相互に競合する無数の需要・供給間に存在する交換関係』と出ていました。要するに交換関係、つながり方を組み替えればイノベーションを起こし、新市場を切り開けることになります」

B 「ところで、さっき話に出した伊藤レポート2.0をまとめた研究会の名前は『持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会』。ここに入っているESG、つまり環境、ソーシャル、ガバナンスもキーワードだ」

T 「人の能力とか、情報やデータといった無形資産はある意味、無尽蔵にあります。コンピューターソフトウエアはうまく作っておけば、いくらでも複写して提供でき、劣化しません。ですから、すごい付加価値を生む可能性がある。一方、地球の自然やエネルギー資源は有限であり、世界各国が何らかの約束をして利用を制限していかないといけない。ノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏は『21世紀は地球修復の時代』と仰ったそうです」

B 「名言だと思う。積水化学工業は米社と組んで、ゴミをまるごとエタノールに変換するテクノロジーを開発したとしている。ごみの処理場を〝都市油田〞に替えられる可能性があるという。2018年、『100のリスク』と題して日経BP総研が調べたビジネス上の不確実性(リスク)をまとめた本を出した。その中に『ESGのリスク』があり『認証品争奪』『水不足と水災害』『海洋汚染によるプラスチック禁止』などが挙げられていた。これらの解決策を用意できれば、それ自体が新市場になる」