リスクの分類と対応方法

 人や組織は目的に向かって行動を起こした際、不確実な何かに直面し、影響を受ける。目的の達成に影響を与えかねない「不確実な何か」をリスクと呼ぶ。

 リスクは厄介である。まず何がリスクになのか、よく見えない。見えたとしても、それがいつ起きるのか、特定できない。何がリスクになるかは人や組織の目的によって変わってくるから、目的を持つ人や組織のそれぞれが自らリスクに立ち向かわなければならない。

 例えば、川に架けられた橋が老朽化していたとしてもそれだけではリスクと言い切れない。向こう岸に行くという目的のために橋を渡りきると期待した人にとって、橋が壊れ、川に落ちるという「不確かさの影響」が生じる。

 見えにくいリスクを見出し、悪い影響を回避すると共に、良い影響をできるだけ大きくする。この取り組みを「リスクマネジメント」と呼ぶ。先んじて手を打てばリスクをチャンスに変えられる。すなわちリスクマネジメントは企業であれば経営そのものである。

 リスクを識別する一助となることを目指し、日経BP総研の研究員とコンサルタント総勢80人は「ビジネスを揺るがすリスク」の調査プロジェクトに取り組んだ。研究員やコンサルタントの多くは日経BPの各種専門メディアで編集長や記者を務めた経験がある。

 プロジェクトの結果、ビジネスパーソンが注意すべきリスクを100件選定したので本サイトで順次公開していく。


ビジネスを揺るがす9つのリスク分野

 集めたリスクを組織の内外、人工あるいは自然という2軸で分類すると、図に示した9分野に整理できた。まず、組織の内外、人工あるいは自然を問わず、あらゆる場面で発生しうるリスク群を「オープン化」と名付けた。

 ここでいうオープン化は、いつでも誰とでもすぐにつながることができる、誰でも入っていける、入ってこられる、というビジネスや社会の傾向を指す。つながる対象は人、情報、テクノロジー、組織、ビジネスプロセスなど様々である。

 オープン化はグローバリゼーション、フラット化、コネクテッドといった言葉で言い換えられることもある。世界は小さくなり突然、競合相手が現れる時代になった。これはビジネスチャンスでもある。

 世界が小さくなったのは何と言ってもテクノロジーのおかげである。企業に影響を与えるリスクの分野として「ゲームチェンジングテクノロジー」がある。テクノロジーはビジネスや社会に価値をもたらすがプライバシー問題や公害などを引き起こす。舵取り次第でゲームに好影響ないし悪影響をもたらすわけで典型的なリスクと言える。

 一方、自然あるいは人間に関わる不確実性を「ESG」(環境・社会・ガバナンス)のリスクと呼ぶことにする。ESGは企業や自治体が守るべき事柄の総称である。例えば、組織が取り扱う食料や材料は適法の伐採や操業によって得られたことを示す認証品でなければならない。一斉に各組織が調達に動いた場合、「認証品争奪」が起きかねない。

 企業の経営や自治体の運営を考えると、人・自然のリスクとして「人財不足」の分野が、テクノロジー・人工物のリスクとして「自動運転」の分野が、それぞれ関連してくる。前者は「社員大流出」など人手不足や人の質に関するリスクである。

 自動運転のリスクとは自動運転と総称されるテクノロジーの変化によって産業界全体が再定義されることを指す。代表例として自動運転を選んだが、テクノロジーによる産業界の組み替えは様々な分野で起きつつある。

 組織の外側にある市場すなわち顧客についても当然、配慮しなければならない。人、すなわち消費者に注目して市場関連のリスクを検討し、「格差社会」という分類を設けた。「中間層消滅」に加え、「消費欲減退」「富裕層2分化」といったリスクが含まれる。

 さらに消費者が住む場所に注目してリスクを検討し、「都市スラム化」として分類した。人口集中、賃金格差、都市内地域格差、能力格差、AI(人工知能)などによる特定分野の無人化とそれによる失業などが絡み合う。斎場や火葬場が大都市で不足する「火葬渋滞」や「高騰ビルと座礁ビル」といった事態が懸念される。

 業種・業態、営利組織・非営利組織を問わず付いて回るのは情報の取り扱いである。組織内の人と組織外の人をつなぐコミュニケーションが不全となるリスクと、AI利用など組織内におけるデータがらみのリスクに大別される。例えばネットで検索しても企業名が上位に出てこない「存在感ゼロ」、誤りが混入しAIが誤学習する「学習データ汚染」といったリスクが潜む。

 9分野のリスクの大半はビジネスとテクノロジーに関するもので、企業なら経営会議で議論し、手を打つことができる。

 一方、中国の海洋進出、朝鮮半島情勢、テロ拡散といった、地政学や政治が絡むカントリーリスクは100件から除外した。半島情勢や地震、台風と大雨、酷暑といった自然の猛威はいずれもリスクだが、これらは発生時に緊急対応すべき危機管理の対象であり、リスクをチャンスに変えるマネジメントの対象とはみなしづらい。


 ゲームのルールが変わり、常識や前提をくつがえすリスクがしのびよっている。オープンイノベーションのような他の組織との協業を進めると共に、守るべきルールは守る。中期経営計画や成長戦略を作りっぱなしにするのではなく状況の変化に応じて見直す。必要な情報をパートナーと共有できるように組織を開くべき時に開き、閉じるべき時に閉じる。簡単ではないが、しなやかに動かなければならない。リスクマネジメントは組織や人を縛るものではなく、動かすためのものである。

 社会生態学者のピーター・ドラッカーは著書『創造する経営者』に次のように記した。「(我々が未来について)試みうることは適切なリスクを探し、時にはつくり出し、不確実性を利用することだけである」(上田惇夫訳、ダイヤモンド社)。

 本書で紹介する100のリスクはドラッカーが言う「未来について試みうる」ためのヒントである。9つの分類と100件の中から「適切なリスクを探し、時にはつくり出し」、「不確実性を利用」し、チャンスをつかんでいただきたい。