日本の産業界を見渡すと依然として世界に通じる競争力を保持しているのは、自動車やエレクトロニクス部品など製造業である。中国や韓国に追い越された製品も多いが、品質や機能の点で日本の製造業にしか作れない物はまだまだある。

 だが、電子商取引が席巻した流通業や金融業のように、製造業にも「デジタル化(Digitalization)」の動きが世界中で出てきている。ここでいうデジタル化とは製造業全体の変革という大きな概念を表しており、従来の手法や仕組みにデジタル技術を取り入れることに留まらない。

 すなわち、IT、AI、IoT、ロボットなど先進技術を駆使しながら、ものづくりのプロセスやバリューチェーンなど製造業全体の仕組みとルールを根本的に変え、新しいビジネスモデルを創出することを指す。

 これが「第4次産業革命」と呼ばれている産業全体を巻き込む大きなムーブメントの重要な焦点の一つだ。「スマート工場」「つながる工場」「デジタルツイン」「協働ロボット」「エッジコンピューティング」など製造業を巡って新しい技術や概念が次々と登場している。これらを集成しながら、業界を支える様々な仕組みを進化させる。こうしたことが製造業のデジタル化である。

 デジタル化の動きが出てきた背景には、少子高齢化や消費者ニーズの多様化など社会の変化とともに、大量生産・大量消費を前提にした従来の製造業に成長の限界が見えてきたことがある。これを受けて新たな製造業のビジネスモデルを模索する機運が、問題がいち早く表面化してきた先進国を中心に盛り上がってきた。


 このような大きな転換期は業界のポジションや勢力地図をリセットする絶好の機会である。そこで製造業の強化を狙う国や地域、業界での地位向上を狙う企業などが一斉に動き始めた。ところが、こうした新しい製造業のトレンドに日本勢が乗り遅れているという指摘がある。

 理由の一つとしてよく挙がるのは、製造業革新を目的とした国主導の大型プロジェクトが欧州やアジアで相次いで立ち上がる中、日本政府が方針をなかなか表明しなかったことだ。

 製造業におけるデジタル化のトレンドの先鞭を付けたドイツ政府主導の製造業革新プロジェクト「Industrie4.0」が始まったのは2011年である。2015年にはドイツに追随するかたちでフランスの「L ’Industrie du Futur (Industry of the Future)」や中国の「中国製造2025」など、大型プロジェクトが相次いで立ち上がった。

 同じ2015年に、日本政府はロボットによるイノベーションの実現を目指すロボット革命推進協議会(RRI)を設立、その傘下にITによる製造業革新をテーマにしたワーキンググループを設けた。つまり、ロボットをテーマにしたプロジェクトの一部という位置付けだった。

 製造業全体の指針を示したのは2017年3月、日本が目指すべき新産業のコンセプト「Connected Industries」を経済産業省が発表した時だ。日本でも官民を挙げて産業のデジタル化に取り組む姿勢を示した。もちろん政府の方針だけでデジタル化が進む訳ではないから、これをもって日本が遅れていると言い切るのは早計だろう。

 とはいえ製造業全体の変革を進めるうえで課題は数多くあり、それらを達成しながらデジタル化を進めることになる。様々な課題の中で、大きな焦点の一つとなっているのが中堅・中小規模の企業におけるデジタル化である。

 日本の製造業の場合、中小企業と呼ばれる企業がほとんどを占める。こうした多くの企業を動かさない限り製造業全体のデジタル化は望めない。だが、多彩なデータを利用しながら製造業の仕組みを進化させるIT基盤を導入するための必要な資金や人材を中小企業はなかなか確保できない現状がある。

 世界各地におけるデジタル化の取り組みが具体的な形になるのは早くても2030年ごろと言われている。現段階の進捗や成果を比較して進度を評価するのは難しいかもしれない。それでも国内外の動向を的確に把握しながら、後れを取らないように国や企業はデジタル化に取り組む必要がある。

 この変化に追随できないと、競争の舞台に上がることすらできなくなり、日本の製造業が衰退していくことになりかねない。そうまでならなかったとしても、日本以外の国や地域に有利なビジネスの仕組みができ上がってしまうと、日本企業が市場で有利なポジションを獲得するのは格段に難しくなる。