「周年事業」でブランディング・マーケティングを進める企業が躍進する

■開催日 2019.10.1
■会場 秋葉原コンベンションホール(東京・外神田)

 2019年10月1日(火)、東京・秋葉原コンベンションホールにて周年事業セミナー「周年事業で会社を変える~周年トレンド、先進事例がわかる!~」が開催されました。

 浅⾒直樹日経BP常務取締役の主催者あいさつを皮切りに、2部制のパネルディスカッションを開催しました。前半は、先進事例として100周年を迎えた3社の取り組みを紹介。後半には周年事業のサポートを手がける企業が登壇し、周年事業のトレンドが紹介されました。

浅⾒直樹 日経BP常務取締役
浅⾒直樹 日経BP常務取締役
第1部 パネルディスカッション
「周年事業」の先進事例紹介(ブランディング・マーケティング)
第1部の『「周年事業」の先進事例紹介(ブランディング・マーケティング)』
第1部の『「周年事業」の先進事例紹介(ブランディング・マーケティング)』

 第1部のパネルディスカッションでは、いずれも100周年を迎えた3社のパネリスト企業による先進事例が語られました。登壇者は、2019年に創業100周年を迎えたキユーピーから執行役員と広報・CSR 本部本部長を兼任する森佳光氏、2018年に創業100周年事業を展開した帝人からは総務部担当部長の田中宏明氏、さらに2018年に創業100周年を迎えた象印マホービンで周年事業を担当し、現在はCS推進本部でみまもりほっとラインチーフマネージャーを務める樋川潤氏。モデレーターを務めた品田英雄日経BP総研上席研究員の進行により、各社の周年事業が紹介されました。

モデレーターの品田英雄日経BP総研上席研究員
モデレーターの品田英雄日経BP総研上席研究員
キユーピー

誰のために、何のために周年事業をするのか。
明確にされた目的は「会社にとって最も大切な従業員への感謝」

 キユーピーでは、2019年の創業100年に向けた準備を、2014年頃から始動。まず20代~30代の若手が中心となり、ブレーンストーミング形式で、周年事業に対するアイデアを出し合いながら、コンセプトの検討に取りかかったといいます。

 さまざまな意見が飛び交う中で、大切にしたのは「誰のために、何のために、周年事業をするのか」という思い。原点に立ち戻り、会社が100年継続してこられた理由を考えてみると、「会社を支えてくれる存在として、お客様も取引先も株主も大切だが、最も大切なステークホルダーは従業員」という見解で合意し、100年間の感謝の気持ちと従業員と会社の未来に向けた成長の一歩をつくる周年事業に取り組むことが決定。周年2年前の2017年には、周年事業の企画別に実務を進めていくチームを再編成して、具体的な準備を稼働させました。

 18企画に上ったプロジェクトのうち、お客様への感謝を意識したプロジェクトとしては、期間限定のカフェをオープンし、記念の限定キユーピー人形を抽選で1万名にプレゼント。さらに、「笑顔を届ける音楽会」と題して、幼稚園や保育園、介護施設など計20ヶ所の施設を巡ってのミニコンサートを開催するなど、キユーピーが長年にわたって、食と音楽に関わる文化活動の支援を続けて来たことを顧みた企画を展開しました。

 従業員向けのプロジェクトとしては、研修施設内にキユーピーの100年の歴史を振り返る特別展示を開設。歴史のターニングポイントとなった出来事のシーンでは「今、同じことが起こった時、あなたならどうしますか?」と問いかけ、企業の行く末を自分ごととして考える仕掛けを施しています。展示見学後に、各人が「実現したい未来」のアイデアを綴ったカードは1700枚ほど蓄積され、ゆくゆくは未来年表としてまとめてフィードバックしようという声もあがっているといいます。

 現場の声に耳を傾けるために、大がかりな周年記念ミーティングも実施されました。役員が手分けしながら1年を費やして、国内外に160箇所ある事業所全てを訪問。全社員にキユーピーが大切にしてきた理念を伝えるとともに、各所で従業員とのディスカッションを展開しました。その様子はレポートにまとめられ、イントラネットにて社員全員に共有されています

 「周年事業の準備で最も大切なのは、コンセプトを明確にすることです。方向性が確定すれば、必然的にどのような周年事業をするのがふさわしいのか、企画が決まりやすくなります。いくつもの企画を遂行するため、協力体制を強固にしようと社外パートナーともいい関係を作りながら、従業員一人ひとりの意識醸成を図りましたが、その点にはまだ反省すべき点も残ります」(森氏)

キユーピー執行役員広報・CSR本部本部長 森佳光氏
キユーピー執行役員広報・CSR本部本部長 森佳光氏
帝人

周年事業を、一過性の記念事業として終わらせたくない
未来につながる「SOMETHING」を残す

 ”Human Chemistry, Human Solutions”の理念のもと「人間を中心に考えてきた化学会社」である帝人は、これまでの100年の感謝、さらに次の100年に向けての決意として「未来の社会を支える会社」となることを訴求ポイントとして、周年事業に取り組みました。

 どのような周年事業を展開するのがふさわしいのか、外部のコンサルティング会社にも協力を仰ぎながら、半年をかけてコンセプトを検討。各事業部にいる30代後半~40代ほどの中堅課長クラスから選出した、総勢30人ほどのメンバーでタスクチームを構成し、プロジェクト実施に向けての準備を進めました。

 具体的なプランは、創立100周年記念となる2018年6月からスタート。これまでの100年に「感謝」し、これからの100年に向けての帝人の姿勢を「宣言」、具体的にどのようなことに取り組んでいくのか、社内外に向けて伝えながら「理解」を求め、「活動」を展開していくという、4つのフェーズにわけて段階を踏みながら進行させたのが特徴的です。

 中心となったイベントは、渋谷のヒカリエで開催した「THINK HUMAN EXHIBITION」。昔ながらの化学繊維の会社という、堅苦しいイメージを払拭し、未来に向けた新しい一面を見せたいという思いから、若者を中心に年々変化している渋谷の街を開催地として選び、未来に向けた課題を提起するものの、あえて答えを出さないという、いままでにない形の展示会を展開しました。

 「自分たちの製品や事業を紹介するだけの展示会では、お客様の心には刺さりません。未来に向けて解決を図りたいさまざまな課題に対して、『帝人はこんな風に考えています、皆様はどうですか。一緒に考えていきませんか』とお客様に呼び掛けるメッセージにしたいと考えました。幸い、来場された方からは好評で、満足度の高いイベントだったという声もいただけました」(田中氏)

 事業に関わりのあるなしを度外視し、「未来の人・社会はどうなっていくのか」という視点で、考えるべきことを集約した「人を中心に考え、設定した9つのテーマ」は、人間らしさ、繊維、感性、加齢、環境、住空間、食、移動、超高齢社会。ここから端を発したプロジェクトの中には、帝人の技術開発力を生かしながら、既に事業化されているものもあります。

 周年事業を一過性のものにしたくない、周年事業を終えても継続する「SOMETHING」を残したいという思いを大切にしたという帝人。未来の姿を共に考えて行こうというメッセージを込めたコンセプトムービーを制作。全社員の半数以上である外国人社員にも伝わるように、12カ国分の翻訳を用意して、周年事業イベントの中で折に触れて上映したといいます。2分弱のムービーが上映されると、そこに込められた思いが浸透するかのように会場は静まりかえり、余韻に浸っていました。

帝人総務部担当部長 田中宏明氏
帝人総務部担当部長 田中宏明氏
象印マホービン

企画から外部との交渉、各種準備に至るまで、
必要な実務を整理してシェアすることで、未来へのノウハウを残す

 2018年に100周年を迎えた象印マホービンでは、登壇した樋川氏が、トップ直轄の事務局担当者として、周年事業を統括。「参加した人全員が喜んでくれるような周年事業」を目標に、企画から運営までを取り仕切りました。

 創業100周年記念日を含む2018年を周年イヤーと決め、「感謝を表す1年間」をコンセプトに、1月1日~12月31日までの事業計画を立てました。インターネットで調べたり調査を依頼したりしながら、他社ではどのような周年事業を行っているのかリサーチ。そのうえで、多くの企業で手がけている内容を参考にして、具体的な内容を絞り込んでいきました。

 パネルディスカッションの中では、社史の編さんと式典の準備を中心に、細かな配慮のあるノウハウを紹介。「周年用の特別なメッセージロゴを新たに制作し、海外でも利用するなら、認可が下りるまでの時間的猶予も考えると準備期間に2年は必要」「記念式典では、参加してくれた人をできるだけ置いてきぼりにしないように、それぞれの立場で楽しめる動画を用意」「式典では、最初の席次で、現役社員と退社したOBとの席を物理的に離しておくことで、現役社員がOBの様子を気にすることなく式典を楽しめるように慰労を図る」など、即効性のあるアドバイスに、会場ではメモを走らせる姿が数多く見られました。

 社史の編さんにおいても、社員を効果的に巻き込むためのアイデアが提示されました。情報の裏付けとなる資料の収集には社員の協力が欠かせませんが、日常業務で忙殺されている社員にとって、負担増となる協力には尻込みしがちです。そこで、まず社内ウェブを通じて、社員の話題に上りそうなコンテンツを提供。関心が集まるにつれ、お手伝いマインドが醸成され、社内の士気も高まっていったといいます。

 そのための準備段階として、社内にあった動画素材を全て電子化してアーカイブすることに着手。すでに再生する機材がないメディアも、外部のサービス業者に委託することでアーカイブ化が可能になります。データが電子化されていると、編集や加工が楽になり、活用範囲が広がります。年を経るごとに資料は劣化してしまうので、貴重なものほど現物を保管するとともに、電子化しておくことで新たな活用価値が見つけることができるのです。

 また、次の周年事業を見据えた策として、社史には「訂正情報をお寄せください」という案内を添付。担当者が入社する以前の時代のことは、伝聞記録となるために、情報に錯誤が含まれてしまうことがあります。当時のことをご存じのOBの方が情報の誤りに気づいたら、間違いを指摘していただきたいと思ったからです。

 「どれほど気をつけていても、ヒューマンエラーは起こり得ます。その声を積極的に受け付ける仕掛けを施すことは、担当者の免罪策とも言えますが、間接的にOBとのつながりを保ち、社史をじっくりと読んでいただく機会につながっています」(樋川氏)

 満席となった会場では、第1部に登壇したパネリストの声に熱心に耳を傾けていました。周年事業の準備にあたっては、事業内容や積み重ねてきた経験ごとに異なる思いがあります。周年事業担当者と思われる人の多くは、プロジェクト実施に向けての尽力と、さまざまなプレッシャーを抱えたリアリティーのある苦労談に大きく頷き、賛同する様子をうかがわせていました。

象印マホービンCS推進本部みまもりほっとラインチーフマネージャー 樋川潤氏
象印マホービンCS推進本部みまもりほっとラインチーフマネージャー 樋川潤氏
セミナーには300人以上が来場。熱心に話を聞き入っていた。
セミナーには300人以上が来場。熱心に話を聞き入っていた。
第2部 パネルディスカッション
「周年事業」のトレンド(イベント・周年史・ブランディング・社内活性化)

 休憩をはさんでの第2部では、周年事業におけるサポート企業が登場。日経BP総研からはコミュニケーションラボ所長の中須譲二氏、JTBコミュニケーションデザインからミーティング&コンベンション事業部ゼネラルプロデューサーを務める塩谷久美子氏、神奈川県立川崎図書館から企画情報課長の高田高史氏が登壇され、モデレーターである日経BPコンサルティング「周年事業ラボ」編集長の雨宮健人氏による進行で、各社から周年事業を成功に導くヒントが語られました。

モデレーターの雨宮健人日経BPコンサルティング周年事業ラボ編集長
モデレーターの雨宮健人日経BPコンサルティング周年事業ラボ編集長
日経BP総研

『企業の課題を解決するコンサルティング集団』

 専門的な知見を持つプロ集団として、多様なメディア制作やコンサルティングを通じた人材教育を手がける日経BP総研は、周年を契機とした企業ブランディングを支援しています。周年事業の核となるコンセプト立案から、具体的にどのような企画を展開するかのアウトプットまで、ワンストップで支援できることが大きな強みです。

 パネルディスカッションでは、昨今のトレンドとして、周年事業は形式的なものから、自分たちを主役としたコンテンツへと転換していることを指摘。プロの写真家が密着して社員の笑顔を撮りためた社史や、事業内容を子どもでも分かる絵本として分かりやすくまとめて書籍化した「会社図鑑」などを例として取り上げ、社史の工夫によるブランディング効果が得られること、インナーブランディングを醸成することで、新規事業の創出につながることなどが語られました。

 これからの提案としては、過去を振り返るばかりでなく、「未来」を見据えた施策を展開すること。理想とする企業の未来像を掲げ、全社員が次の10年をどうしていくか自分ごととしてとして考えることで、社員の意識が醸成され、企業を成長させるからです。そのための人材育成トレーニングの一つとして、未来年表を作成するなどのワークショップの実施が提案されました。

中須譲二日経BP総研コミュニケーションラボ所長
中須譲二日経BP総研コミュニケーションラボ所長
JTBコミュニケーションデザイン

『働く人のモチベーション向上を事業テーマに、お客様の「やりたい」をかなえる』

 自社の100周年を機に、旅行業から交流創造事業へと方向性を変えたJTBグループ。JTBグループのコミュニケーション事業会社群が集結して誕生したJTBコミュニケーションデザインでは、周年事業の企画、運営、プロセス管理を担っています。

 私の得意分野はモチベーションイベントの活用という塩谷氏は、社員の「やりたいこと」を満たすことで、社員間の交流を密にして、周年事業に対する満足度を高めると語ります。

 周年イベントでやりたいこととして上がった内容をキーワードとして、どうすれば実現できるかを提案。例えば、計測機器メーカーのタニタ社では「健康」「社内コミュニケーション」などのキーワードから、写真を手がかりに、制限時間内に撮影された場所を見つけ出す「フォトロゲイニング大会」を実施。開催地の市役所の協力を得たことで、地域活性化にも一役買うことができたといいます。

 式典などでのイベントでは、「社員が未来を語る、未来を考える時間」をエンディングに向けて効果的に取り入れることで、社員の一体感を形成し、社員のモチベーション向上につなげられることが語られました。

JTBコミュニケーションデザイン ミーティング&コンベンション事業部ゼネラルプロデューサー 塩谷久美子氏
JTBコミュニケーションデザイン ミーティング&コンベンション事業部ゼネラルプロデューサー 塩谷久美子氏
神奈川県立川崎図書館

『社史担当者にとってのよろず相談所』

 日本の産業を支える図書館として、1959年に誕生した川崎図書館は、60年にわたってあらゆる業種の社史を収集。今では、1万9500冊の社史をコレクションしています(2019年8月時点)。

 社史のコレクションを通じて、社史に関するよろず相談所となった川崎図書館では、社史づくりのヒントとなる支援事業を展開。図書館として社史の貸し出しに対応する他、社史づくりの担当者を講師に迎えてのセミナーや前年に発行された社史をまとめて紹介する社史フェアなども開催しています。

 さまざまな社史を比較していくと、近年の社史のトレンドや傾向、企業が工夫したオリジナリティーなども見て取れるといいます。所蔵の社史のほとんどに目を通したという高田氏は、厳選した「すごい社史」のラインナップを川崎図書館の公式サイトで解説していますが、パネルディスカッションでも、その一部が紹介されました。

神奈川県立川崎図書館企画情報課課長 高田高史氏
神奈川県立川崎図書館企画情報課課長 高田高史氏

 第2部に登壇したサポート企業からのアドバイスが語られると、配布された資料の余白にメモを走らせる姿があちこちで見受けられました。最後にモデレーターの雨宮氏が「近年の周年事業は、重要な事業プロセスの一つとして位置づけられています。第一部でも語られた通り、目的をできるだけ明確化することが重要です。目的があいまいだと、アウトプットをする時点でブレが生じやすくなり、準備の終盤になってから、混乱を生みかねません。時間をかけて取り組むタフな案件になるので、不安要素がある場合は、サポート企業に支援を求めてみてはいかがでしょうか」と語り、セミナーは充実感を持って締めくくられました。

会場には神奈川県立川崎図書館所蔵の社史が展示され、参加者は熱心に見入っていた
会場には神奈川県立川崎図書館所蔵の社史が展示され、参加者は熱心に見入っていた