日本企業にとって国内市場に留まらず海外市場に進出して事業を拡大するのは長年の課題であり、多くの企業が挑戦してきた。世界販売台数の半数をインド市場で売るまでになったスズキのような例があるものの、様々な難題に直面して撤退に追い込まれた企業も死屍累々、といった状況である。

 海外進出にともなう問題を「インフラ輸出にともなうポリティカルリスク」と「二重課税」という観点から見てみよう。

 1990年代から日本企業によるアジア諸国へのインフラ(社会基盤)輸出が活発化してきた。発電などのエネルギー事業から始まり、鉄道や道路などの運輸関係、水道や海水淡水化など水事業、と拡大してきた。

 日本のインフラ企業にとっての有望市場はインドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、インドであり、今後はモンゴル、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュも加わってくる。

 これら新興国へのインフラ輸出で悩ましい問題となってきたのが、外為取引、制度・許認可の変更、資産の接収、政治暴力、政府・政府機関の契約違反といったポリティカルリスクである。ここでもルール急変が起きている。

 特に近年増えているのが契約違反だ。例えば、インドに進出した企業の多くが土地収用に関わる契約違反に直面している。当局が土地収用に責任を負うと契約して事業を始めたものの、実際には立ち退きを迫られる住人の承諾や移転先、さらには再就職先まで見つけることを日本側が強いられたという例がある。立ち退いたはずの住人が建設後の現地に戻ってバラックを建て、再び住み始めるといった事態すらあり、背景には貧困問題もあるから一筋縄ではいかない。

 交通・運輸ビジネスで多いのは、事前に現地政府がバラ色の事業計画を立てリスクを負うという内容で契約しても、実際には進出した日本企業に面倒が押し付けられ、事業が破綻することである。空港の事業権を取得したものの、政権が変わったとたんに取り上げられたり、事業に反対する住民運動を政府が抑えきれずに白紙に戻ったりすることもある。

 企業によっては政府が途中で逃げないように契約を厳格化する、いわゆる「ソブリン・フック」や保険をかけるものの、結局、紛争になるケースは後を絶たない。

 こうした事態が起こる原因として、政権交代のたびに前政権の実績を全否定する傾向があること、汚職の蔓延、役人の契約概念や実務能力の欠如、などがあり、根は深い。

 グローバル化を進める日本の製造業がもう一つ直面しているのが二重課税の問題である。例えば、日本メーカーが中国で現地法人を作って工場を建て、日本の親会社の技術や部品を使って生産し、海外市場で販売して利益を得たとする。このメーカーが利益率を3パーセントと計算して、中国および日本の税務当局に納税を済ませたものの、中国税務当局が「移転価格税制」を適用、利益率5パーセントとして追徴された、というケースが頻発している。

 移転価格税制とは、親会社と海外子会社など関連企業間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、この取引が通常の第三者との取引価格で行われたものとみなして所得を計算し直し、実態と乖離している場合に課税する制度だ。この制度はもともと、グーグルやアマゾンといった米国のグローバル企業の大がかりなタックスプランニングスキームに対抗するために設けられた。米国グローバル企業は当該国で上がった利益をタックスヘイブン(租税回避地)に移転し、節税している。

 しかし、日本の製造業の場合、そうした意図はなく適正な取引をしていても、移転価格税制を盾に法外な税金を要求されてしまう。