インターネットを通じて流れる情報が爆発的に増え、知的財産権に関わるトラブルが生じている。自分たちの製品や作品を真似されてしまう。あるいは知ってか知らぬか、他者の製品や作品を真似したり、他者の知的財産を誤用したりする。

 前者はこれまで特許権に基づいた「技術」の模倣が多かったが、近年はそこに「デザイン」が加わった。最も有名なのは、2011年に米アップルがiPhoneのデザインを真似たとして韓サムスン電子を提訴した事件だ。

 カリフォルニアの地裁陪審は2012年、10億5000万ドル(約1100億円)の賠償金の支払いをサムスンに命じた。のちに約5億3900万ドルに減額されたのち、和解が成立したが和解金の額は公表されていない。

 日本でもデザインの模倣は頻繁に起きている。アジアから観光客が日本に押し寄せ、大量の製品を購入するが、日本から持ち帰った人気商品を現地企業が模倣するケースが発生している。

 風当たりの柔らかい扇風機や強力な吸引力の空気清浄機、パンがおいしく焼けるトースターなど、高額家電製品で数々のヒット商品を生み出したバルミューダは製品開発の責任者を中国メーカーに引き抜かれた。PM2・5などで中国における空気清浄機のニーズは大きいが、その後、中国のメーカーはほぼ同じ外観の空気清浄機を発売している。

 家電製品だけではなく、フィギュアやアート作品についても中国における模倣は深刻だ。立体のデータを簡単に取れる3次元測定器などが普及したため、低コストでほぼ瓜二つのデザインデータを作成できる。このデータと低価格になった3次元プリンターやマシニングセンターを使えば短期間で金型を作れる。技術の進化でこれまでにないスピードで模倣製品が生み出される状況になってきた。

 意匠登録をすれば必ず模倣問題が防げると言うわけではないが、デザインを重視した商品を販売している場合、国内のみならず海外も含めた国際意匠出願が必須になっている。

 一方、真似してしまう事例として、2020年のオリンピックにおけるエンブレム問題があった。正確に書くとこれは「他者の創作物に類似していた」ことで被るレピュテーション(評判)リスクである。2016年に公募された第1回目のオリンピック・エンブレム募集で佐野研二郎氏のデザインが選ばれたが、他のデザイナーの別の作品に類似していたとしてインターネットのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で批判が集まった。

 ただし、あるデザインが別のデザインに類似する例は決して珍しいことではない。現行の著作権に関する法律は、アイデアを真似することやデザインが偶然似てしてしまうことをある程度容認している。佐野氏のデザインしたオリンピック・エンブレムについて法的には問題がなかったという指摘が専門家から多く聞かれる。

 それでも佐野氏のデザインが取り下げられてしまった理由は何か。まず法律に対する誤解あるいは曲解により、「類似することは悪い」という声がネット上で横行した。今回の「類似」を「パクリ」と捉えた人が、佐野氏を断罪する意見を続々とネット上に投稿し、一種の世論が形成されてしまった。

 さらに佐野氏の事務所のデザインとそれに類似した他のデザインが数多く集められ、ネット上で公開され、比較された。中には類似ではなく意図的に模倣したと受け止められかねないものもあった。この結果、「佐野氏は頻繁に模倣するデザイナー」というイメージが広がってしまった。

 本当に模倣したのか、しなかったのか、法律的に正しいのか、正しくないのか、といったことではなく、ネット利用者の「なんとなく怪しい」といった感覚が正当化され、そうした論調をオリンピック委員会は無視できなくなってしまった。ネットで人々がつながった社会ならではの事件と言える。

 また、他者の知的財産の誤用もあった。オリンピック・エンブレムのプレゼンテーション資料の中に、利用許諾を取っていない写真を入れていた。この資料はエンブレムの選考時に使われるもので公にする予定はなかったが、デザインが模倣ではないことを説明するためデザインのプロセスを公開していく中でプレゼンテーション資料も併せて公表された。これを見た写真の権利者が写真の無断使用を指摘した。

 エンブレムの問題ではデザイナー個人のみならず、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の管理責任も問われ、両者とも評価を下げることになった。コンペのやり直しに伴うコストは委員会の発表によると、公式エンブレム発表会経費として約6800万円、商標調査、登録費用約3100万円、応募・選考費用約900万円、ポスターなど製作費用100万円。およそ1億円が直接経費として無駄になった。

 知的財産権を巡っては、真似されるだけではなく、意図的ではないにしろ真似してしまう恐れがつきまとう。それは金銭的にも金銭に換算できないブランド価値の損失という意味でも大きな悪影響を与える。