多様な人材を生かす「ダイバーシティーマネジメント」に取り組む企業が増えている。とりわけ、女性活用を積極的に推進する動きが広がりを見せる今、各企業はどのような活動を行っており、またどのような課題を抱えているのか。今回は日産自動車でダイバーシティー推進に携わる女性と、現場の女性管理職に話を聞いた。

 日産が「ダイバーシティディベロップメントオフィス(DDO)」を設立したのは2004年10月。よりグローバルに発展するために、性別、国籍、文化、個性や価値観などの多様性を追求するための機関である。カルロス・ゴーンCOO(最高執行責任者)直属の組織として発足した。

日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィス室長の吉丸由紀子さん(写真:厚川 千恵子、以下同)

 DDO室長には、沖電気工業にて人事部国際人事マネジャー、米国現地法人の人事本部長などを務めてきた吉丸由紀子さんを迎えた。DDOでは、ダイバーシティーを推進するうえで、まず女性社員の能力活用と登用に重点を置き、その実現に向けて3つの柱を打ち立てていると、吉丸さんは話す。


女性活用推進実現のための3つの柱とは

 「3つの柱のうち、1つめは女性のキャリア開発支援、2つめはワークライフバランス(仕事と家庭の両立)の推進、そして3つめはダイバーシティマインドの定着です」

 「女性のキャリア開発支援」では、後述するキャリアアドバイザーによる面談を行ったり、社内イントラを利用した「ダイバーシティサイト」を活用し、メールマガジンの配信やロールモデル(お手本となる人)の提示などを行っている。

 また「ワークライフバランスの推進」では、神奈川県厚木市にあるテクニカルセンターに事業所内託児所「まーちらんど」を設置したほか、育児休職を、子供が1歳を超えた翌年度の3月末から2歳を超えた4月末まで認めるといった、育児・介護制度の改善にも着手している。

 「ダイバーシティマインドの定着」では、管理職や女性社員を対象としたセミナーやイベントなどを実施し、社員全体の意識改革を図っている。

日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィス課長の信太好美さん

 「キャリア開発支援」のキャリアアドバイザーを務めるのは、入社18年目でDDO課長の信太好美さんだ。面談の手順はこうだ。まず、社内で管理職に近いアシスタントマネジャークラスの女性を選び、信太さんが声をかける。そして、1時間以上をかけ、これまでに達成感のあった仕事や現在の業務内容、自身の強みや今後の課題、展望などについて1対1でヒアリングを行い、今までとこれからのキャリアについて整理をしていく。

 「2005年4月にこの制度が始まった当初は、私から女性に面談を持ちかけると、『何のために?』『人事査定と関係があるのですか?』などと敬遠されることもありました。DDOの活動が徐々に認知されるにつれ、逆に女性社員の方から相談を持ちかけてくることも増えてきましたね」

 多くの女性管理職候補と面談を重ねてきた信太さんは、その中で見えてくる共通の課題を指摘する。「女性の場合は、管理職になることを躊躇する人が多いですね。積極的に管理職になりたいという人はごくわずかです。現在の管理職にしても、これまで与えられた仕事に対して真剣に取り組んできた結果、次第に等級が上がっていったという人がほとんどです」


 意識的に責任のある立場を望む人が少ない背景には、「結婚して出産し、育児の必要性が出てくると、管理職として仕事を続けていくのは難しいのでないか」という漠然とした不安がうかがえる。「家庭と仕事を両立させているのは、特別な女性だけだと思ってしまうんですね。これまで身近にロールモデルが見いだせなかったことも一因でしょう。社内にいる唯一のロールモデルが自分とは違うタイプだった場合、自分はあんなふうにはなれない、と考えてしまうのです」と信太さんは言う。

 信太さん自身が2002年に課長に昇級した際も、女性管理職は現在よりも圧倒的に少なく、自らワーキングスタイルを模索した。「男性管理職を見ていると、休日も仕事をするのが当たり前でした。でも私は、男性と同様のやり方でなくても、短時間で成果を上げればいいと考え、基本的には休日は仕事をしないと決めました」。キャリア開発支援の面談では、こうした信太さん自身の体験なども交えながら、人それぞれのやり方があることを女性社員に伝えるようにしている。

 一方で、女性社員と日々接している直属の上司らの意識改革を促すことも、重要な課題だと位置づける。女性活用を推進しようとする時、必ず聞こえてくるのが「女性優遇ではないのか」という声だ。「自分は男女の区別はせず、同等に接している」と自負する男性管理職も中にはいるが、客観的に見ると必ずしもそう思えないこともあり、「女性を理解しているという自負」という壁がある分、ダイバーシティー活動への正しい理解を得るのが難しい場合もあるという。

日産自動車グローバル広報・CSR・IR本部、広報・CSR部担当部長の藤田雅子さん

 同社で部長職にある女性に話を聞いた。グローバル広報・CSR・IR本部、広報・CSR部で社会貢献や社内広報の担当部長を務める藤田雅子さんは、「男性管理職の中には、女性活用を必要以上に意識しすぎている人もいると感じます」と話す。

実体験の積み重ねとチャレンジ精神を大切に

 「女性は様々な機会に、『今後はどうしていきたいですか?』というキャリアプランを問われます。それはいいことではありますが、将来の明確な目標がなければ、この先仕事をやっていけないのか、と不安になってしまうんですね」。10年、20年先のビジョンを聞かれても、明確な意思を持つ人は少ないだろう。「そんなに先のことは分からなくても、今どうしたいのか、来年、再来年はどうしていたいのかを考えながら、体験を積み重ねていくことが大事なのではないでしょうか」

 さらに藤田さんは、「男性の上司は、女性部下にそうした経験を与えることや、難しい仕事に挑戦させることに迷いがあるのではないでしょうか」とも言う。「彼女にこんなことをやらせたら辞めてしまうのではないか、つぶれてしまうのではないかなどとは考えずに、果敢にチャレンジさせてみることも必要ではないかと思います」

 藤田さんは1989年、入社4年目で海外営業を担当していた時に、女性としては初めてのテヘラン出張を経験した。そもそも女性が自由に行動できない国柄ということもあり、「受け入れ先の商社の担当者には、大変心配されました。『男性が来れば、こんな気苦労はなかったのに』という思いもあったでしょうが、日本から送り出してくれた上司には今でも感謝しています」

 ただし、すべての女性がキャリアに対して意欲的かというとそうではない。藤田さんが海外営業を担当していた当時、商社の担当者との深夜に及ぶ会議の席で、女性である自分だけが帰宅を促されたことがあった。「もう遅いから、君は帰っていいよ」との発言に、藤田さんは反感を覚え最後まで席を立たなかったという。しかし、中にはこう言われると素直に帰って行く女性もいるだろう。


 「これまで、女性の場合は良くも悪くも、与えられる仕事に対して『できません』と言う選択肢がありました。女性の側も自分のスタンスを考え、『なんとかやってみよう』というチャレンジ精神を持ってほしい。初めてのことがうまくいかないのは当たり前、それを周りがサポートする。こうした育て方がきちんとできれば、女性の活躍の場は広がるのではないでしょうか」と藤田さんは言う。「ダイバーシティーを進めるには、男性・女性、上司・部下と、双方向からの理解が重要です。最終的には、あえて“女性活用”と口にしなくなる日が来ることを期待します」

 これまでの女性管理職は未婚者だったり、既婚者でも既に出産と育児を経験した人が就くケースがほとんどだったというが、キャリアアドバイザーを務める信太さん自身は、この年末に出産を控えている。もちろん、育児制度を活用して仕事は続けていく予定だ。若い世代にとっては彼女が新たなロールモデルとなり、その体験は今後のDDOの活動にも生かされていくことだろう。

 DDO設立時の管理職者数は2340人。そのうち女性管理職の割合は40人弱の1.6%だった。日産では、2007年度末までにこの数値を5%に引き上げると公表している。2006年4月の時点では、管理職者数2456人に対し女性管理職は80人弱と3%になった。

 だが、吉丸さんは「北米日産の女性管理職者数の割合は20%ですから、“それでもまだ5%”なんです。この数値はあくまでも通過点と捉えています」と意欲を見せる。女性戦力の活用においては後発の感が否めない国内の自動車業界の中で、日産DDOの活動がさらなる加速を見せるか注目したい。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。