コロナ禍でテレワークやオンライン会議をはじめとした非対面でのビジネスが当たり前の時代が始まった。営業の現場やマネージャーはこうした時代をどう乗り切っていけばいいのか。コロナ禍が始まる前から、非対面での営業手法を取り入れ、米系金融機関時代に営業成績首位を獲得した原 裕平氏(セールスなどのコンサルティング企業であるマーケット・フラッグス 代表取締役)にポイントを聞いた後編。聞き手は大石基之(日経BP総合研究所クリーンテックラボ所長)(前編はこちら

原 裕平氏(写真:西 雄大氏)

原さんがリモート営業をはじめたきっかけは何かおありでしたか?

原氏 私は2006年から約3年間、米系金融機関のニューヨーク本社に勤務しました。幸運なことに、在籍した部のメンバーにグローバルで成績首位の営業が所属していました。他のメンバーも、日本のトップ・レベルの営業の5倍以上の成績をあげていました。もちろん、市場も顧客のニーズも日本とは違い、単純比較はできません。その時、私が注目したのは、仕事の進め方です。

 国土の広いアメリカでは、滅多に顧客訪問をしません。当時はニューヨークから米国東海岸全域のお客様をカバーしていました。現地の営業たちは、マンハッタン内にオフィスのあるお客様であっても、渋滞が酷く地下鉄が不安定なため、重要なケース以外は訪問をしません。このため、ニューヨーク・オフィスの電話営業のスキルは東京と比較して非常にハイレベルでした。

 ハイレベルな電話営業を行うためには、入念な準備が必要です。限られた時間の中で、多くのお客様に次々と新たな提案をし、役立つ情報を提供し続けるには、事前の段取りがキーになります。また、お客様ごとに関心は固有であり、それらの関心は頻繁に変化します。そうしたお客様ごとの状況を把握することも求められます。ニューヨークのトップ・レベルの営業は、お客様ごとの関心にフィットしたトーキング・ポイントを用意し、切れ目なく電話していました。

 こうした電話営業の結果、巨額な取引を成立させる場面を何度も目の当たりにし、衝撃を受けました。同時に、この時のショックがきっかけとなり、帰国後、私は電話営業を突き詰めることにしました。

 コロナ禍で面談数が急減する今、電話営業のスキル向上は、多くの営業部にとって急務だと考えています。「面談ができないから成績が上がらない」という解説は事実でしょう。しかし、面談ができない状況が“新常態“とすれば、非対面を前提として営業手法を確立することが求められます。

米国では以前から、部員の管理も、部員に対する営業指導も非対面が前提となっていると聞きます。非対面を前提とした場合、社内コミュニケーションはどのようにして取ればよいのでしょうか?

原氏 外資系企業では上司や同僚が海外オフィスにいるなど、非対面が前提となっているケースがあります。社内のコミュニケーションについては、面談、電話、メール、など適宜、目的に応じた使い分けが有効だと考えています。私個人としては、海外に、上司がいるケース、部下がいるケース、同僚がいるケース、どれも経験しています。いずれも、信頼関係がより重要になります。

 まずは、オフィスを共有していなくても互いの行動を互いに見えるようにする「見える化」が必要です。野村総合研究所が2020年5月に発表したテレワークに関する調査によると、テレワーク実施時において支障に感じたこと、のトップは「普段のコミュニケーションがとりにくい」でした。働く姿が見えないことで、話しかけるタイミングが掴みづらく、会話が少なくなりがちです。結果、連携が不足し、仕事のペースが低下します。

 「見える化」には、スケジューラーの活用が有効です。何をしているのか分からない、という状況自体が不安に繋がります。外出や会議のみならず、重要な内勤の仕事もスケジューラーに書いて「見える化」します。互いのスケジュールが見えることで、会話の糸口も掴みやすくなり連携がスムーズになります。

 こうした工夫はコロナ前から有効であり、在宅勤務に対応した窮余の策として新たにご推薦する方法ではありません。内部で対面でのコミュニケーションができないケースでの効果が実証済みの方法と言えます。

原さんは証券・金融業界でのご経験が長いですが、証券・金融業界と、製造業界やIT業界とでは、リモート営業の手法にどのような違いがありますか?

原氏 お客様との信頼を築き、取引を増やすという目的は同じです。金融商品は、原則、契約です。製造業やITのように、製品を実際に手に取ってみたり、プログラムを動かしてみる、ということはできません。また、金融商品は市場の影響を受けて、価値が変化しやすい性質があります。一方で、工業製品を販売する場合は、サンプルを実際に触っていただくことも重要になります。とはいえ、このような違いを考慮しても、リモート営業の手法そのものに大きな違いはないと考えています。

金融業界では目に見えるものを売らないため、営業する人間そのものの魅力が営業成績に直結するように見えます。一方で、製造業界やIT業界では、目に見える製品を売ることができるので、リモート営業に対するハードルは低くなるわけですよね。プロダクトの魅力や、サブスクリプション契約など、売るものがある分、営業職のするべきことは変わってくるのでしょうか?

原氏 お客様の目線で「100%満足な商品」は滅多にありません。売買には、何らかの妥協がつきものです。その際に、この会社の品質は定評がある、この営業は信頼できそうだ、といった定性的な評価を、お客様から得ることが重要です。競合商品と価格に大きな差がないケースは、特にこうした定性的な評価が重要になります。

 製品に独自の優位性があり説明しなくてもその優位性がわかる場合や、競合商品に代替されにくい場合は、営業活動は簡単です。お客様側が接触前に購入の意向を固めているケースもあるでしょう。一方、販売後も継続的なフォローアップが必要な商品、サブスクリプション契約によって常に最新の機能を提供する商品などは、顧客との信頼関係がより成約を左右します。なぜなら、売買成立の時点では、提供価値が確定しないからです。

 いずれにしても、製造業やIT業界の方が、取り扱う商品をお客様が実際に手に取ることができる分、金融業界よりも非対面営業のハードルが低く、リモート営業に移行しやすいと考えています。

原 裕平氏(写真:西 雄大氏)

裏返せば、高い競争力を持つ製品やサービスを持たない会社の営業担当者やそのマネージャーの方々にとってこそ、原さんが金融業界で結果を出してきたリモート営業の手法を、営業実績を上げるための実践的なやり方として適用しやすくなるわけですよね?

原氏 はい、そのように言えます。金融機関が提供している商品や助言は、突き詰めれば「お客様との契約」です。工業製品のように、サンプルに触れたり試用したりはできません。従って、商材で差異化を図る余地が限られます。自社しか提供できない商品は少なく、仮にあったとしても短期間のうちに競合他社が類似商品を投入してきます。加えて、市場の変化の影響を受け、商品の付加価値は日々変化します。

 このため、商品による差異化は難しく、営業を通じて築くお客様との信頼が、売上を左右する傾向が強くなります。

 一方で、金融業界と他の業界の間に多くの共通点も見られます。例えば、ここ5年ほどで普及してきたセールスフォースなどのCRMツールは、種々の業界の営業部で活用されています。これらのCRMツールの柱は3つです。まず「顧客情報の管理」、次に「案件の管理」、最後に「情報共有」です。これらは業界横断的な営業活動のキーです。リモート営業を行う場合も重要なポイントです。

 リモートで営業する場合、あらかじめ、どのお客様にどのように接触し、何を伝えるかを決めておきます。その計画の精度が営業活動のクオリティに直結します。この計画づくりのために必須の情報が、顧客情報であり案件情報です。ツールにデータを蓄積することで、よりクオリティの高いお客様とのコミュニケーションが実現できます。

リモート営業でライバルに差を付けるには、名刺や会議の設定手法など、リモートならではの新しい環境設定にも気を配る必要があるかと思います。具体的なヒントがありましたら、教えてください。

原氏 電話やメールは、リモート営業を進める上で、便利で安定したコミュニケーションの方法です。まずは、これらのレベルを上げることが重要です。

 まず、電話営業は、複雑な内容を正確に口頭で伝える力が必要です。いざ話してみるとわかっているつもりがわかっていない、ということはよくあります。電話の場合、お客様の表情や仕草などをうかがい知ることができないので、理解度を確認しながら進めるのが難しいという課題があります。従って、わかりやすく正確な説明がより重要になります。社内会議などをリハーサルとして、わかりやすく説明する話力を身につける必要があります。

 さらに、原則、“グッド・リスナー”に徹していては、電話営業は務まりません。早いテンポで有用な情報を提供する必要があります。

 電話の長さは15分程度を上限の目安とすべきです。長くなると電話で伝えるべきキー・メッセージが印象に残らなくなります。限られた時間でより多くのお客様と接触するためにも長電話は避けます。

 メールは、相談や交渉には適しません。一方で、事実を伝達する、資料を送る、といった場面ではとても有効です。ポイントは、口頭での補足説明がなくても理解できる、明確な範囲にコミュニケーションの対象を絞ることです。

リモート営業向けのツールの使い方について、効果的な手法があるという具体例をいくつか教えてください。名刺、バーチャル背景、オンライン会議、マイクやカメラ、照明、画面共有、事前のファイル送信などの使い方でポイントをお聞きします。

原氏 TeamsやZoomなどのオンライン会議ツールを用いる際は、背景や服装などが与える印象や、使用する資料に注意を払う必要があります。

 以前から米国には“プロフェッショナル・ルッキング”という発想があります。仕事の場面に相応しい“プロらしい印象を与える服装”はビジネス・スキルの一部である、という考え方です。常にフォーマルであれ、という意味ではなく、場面によりフォーマルとビジネス・カジュアルの間の度合いを選択しましょう、という意味です。ウエブ会議であっても、お客様と接触する場合はプロらしい服装が前提です。

 ウエブ会議では、背景にも気を配る必要があります。背景に“普段見慣れない何か“が映り込んでいると、お客様が会議に集中できなくなります。

 加えて、ウエブ会議では、マイク、カメラ、照明などにより、お客様に与える印象が変わります。これを理解して最適な方法を見つけることも、新たなビジネス・スキルとなりつつあります。このあたりについては、YouTubeなどでも大量のティップスが公開されていますので参考になさってください。

 資料にも配慮が必要です。ノート・パソコンの汎用的なサイズは13インチです。従来の会議室での面談で使用していた資料をそのまま使うと、ほとんど場合、13インチでは文字や図表が小さすぎ、見る側のお客様に負担がかかります。重要な会議をウエブで行う場合、ウエブ会議仕様の資料を用意する必要があります。