日本企業で営業や財務を仕切る幹部は文系が多い。技術や研究開発を担う社員の大半は理系だ。新事業で顧客をつかみ、社会に価値をもたらすには文系幹部と理系社員の連携が不可欠である。そのためには「こうなりたい」という未来への意志を込めたロードマップを描くことだ。これが両者を結ぶ共通言語になり双方ともハッピーとなる。

 「文系の経営幹部に技術を理解させ、意思決定してもらうことに時間と労力を費やしている」。技術部門や研究開発部門にいる理系社員からこうした悩みをしばしば聞く。そもそも人を文系と理系で分けること自体おかしいことだが日本企業において両者の壁は残念ながら存在する。

 先が読めない不確実な時代の中で経営の核心は後追いではなく未来をいかに創造していくかにある。新しい価値をイノベーションによって実現することだ。それには経営幹部すべてが技術の概要と動き、役割を理解し、共有する必要がある。

 例えば新しい技術が存在している、あるいは生まれつつあり、顧客への価値に直結していく。商品に仕上げたとき、それを量産できる技術基盤も確立している。こうしたことだけが分かればよく、技術の専門的な詳細まで全員が理解せよ、という意味ではない。

統合型テクノロジー・ロードマップの勧め

 文系と理系の壁を崩す有効な手法として「テクノロジー・ロードマップ」を勧めたい。その企業が取り組んでいる技術を生かしつつ、将来どのような事業ができ、新しい顧客価値、社会価値を生めるかを時系列にそって示すものだ。

 このように市場とテクノロジーを統合したロードマップがあれば、業績に関心を持つ経営者、事業や営業の責任者といった文系幹部と、技術を担う理系社員が企業の夢や理念に合った自社の将来像を可視化でき、納得感をもって共有し、目指す目標を一致させられる。

 実際に新しいビジネスで顧客を満足させ、社会への価値を創り、成功するためには、未来に向けたシナリオないし仮説すなわちロードマップを用意して同じ行先へ向かうことが不可欠である。

 したがってロードマップを作るにあたって何よりも重要なのは最終目的地を示すこと、「こういうところへ行きたい」という意志表示である。最終目的地は経営者が決めても現場が発案してもどちらでもよいが企業に固有であり外から与えられるわけではない。未来への意志であり未来の予測とは異なる。

 最終目的地をビジョンとして示すことにより現状との差が分かりそれを埋める具体策が検討され目的地までの工程を決めていける。

 ロードマップを描く実際の作業としては市場などニーズ視点を持つ社員と、技術などシーズ視点を持つ社員がチームを組み、市場(顧客価値、商品、製品)と技術(先端技術、基盤技術)のロードマップをつくる。未来予測ではないと説明したが一般公開されている各種の予測データやロードマップを参考にしてももちろんよい。

 市場と技術のロードマップの統合が第一歩となる。統合とは技術がもたらす顧客価値を明確にして、それを商品などに置き換え、最終的には財務諸表の数字として示すことを意味する。ここまで来れば経営者、事業部門、技術部門、財務部門が対話をする際の共通言語になる。

 経営者の最大の仕事は不確定な未来に対して限られた経営資源をうまく配分することである。ロードマップを道しるべとして経営者は技術側、すなわち研究開発や新事業への投資に充てることが可能になる。

企業価値の向上にも役立つ

 しかもロードマップをうまく発表することで株価など企業価値の向上につなげられる。直近の業績も大事だが投資家が一番知りたいのは投資先がどのような未来に向かおうとしているか、ロードマップが示す最終目的地である。

 過去に成功した企業ほど既存事業を遂行するための細かい役割分担のため組織が細分化されて全体を把握しにくくなっている。技術の蓄積もされているのに縦割りの事業部門の中に埋もれており社内からも社外からも見えにくいことは大きな損失だ。ロードマップは企業が持っている潜在(技術)力を社内外に示す役割も果たす。

 これまでも技術系企業は何らかのテクノロジー・ロードマップを作成してきたが多くは技術の開発を進めるためのものであった。しかも個別に作られ、部門間の調整やビジネスとの統合があまりされず、未来を共有するためのコミュニケーション・ツールにはなっておらず技術の価値も見えなかった。

 技術や研究開発の取り組みが商品そして財務諸表につながっていくという統合ロードマップで自らの価値を明確に示し、経営幹部の理解を得ることが急務であろう。

参考文献
1)『テクノロジー・ロードマップ2022-2031全産業編』、日経BP
2)『増補改訂版 図解 実践ロードマップ入門(図解実践シリーズ)』、言視舎
3)『ロードマップの誤解をとく本』、言視舎
出川 通 (でがわ・とおる)
テクノ・インテグレーション 代表取締役社長
東北大学大学院修了、工学博士。大手メーカーで研究開発部門の企画や新規事業の開発を手掛けた後、独立。MOT(技術経営)やイノベーションのマネジメント手法を用いて開発・事業化のコンサルティングや研修を企業に提供。早稲田大学、東北大学、島根大学、大分大学、香川大学などの客員教授、複数ベンチャー企業の役員、経済産業省、文部科学省、農林水産省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、科学技術振興機構(JST)の各種評価委員を歴任。『テクノロジー・ロードマップ』(日経BP)の創刊から現在まで監修・執筆者。『研究開発テーマの価値評価』ほか著書多数。

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著者:出川通、他97名
A4判、610ページ、2021年11月30日発行

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