途上国が経済を発展させるために強権政治を断行することを開発独裁と呼んだ。40年以上も前からある言葉だが、ゲームのルールを変えてしまうテクノロジーが登場した今、新時代の開発独裁というべき動きが目立ってきた。

 中国は「新しい石油」と呼ばれる個人データを生かしてイノベーション競争で一気に差をつけようとしている。13億8000万人の人口を抱える大国でありながら、中国当局は全国民の顔を数秒で特定できるデータベースを構築しているとされる。

 アリペイとウィチャットペイというキャッシュレス決済の普及により、国民のお金の出入りも把握する。お金を受け取る側のレストランや売店などの小規模事業者に対して、顧客からの支払い状況を評価し、少額の事業融資を瞬時に行える。

 さらには国民の健康や遺伝子などに関するデータまでも国家、すなわち共産党が一手に握る体制を整えつつあるとされる。

 データ利用の鍵は量と質である。正しいデータを大量に集めるにあたり、一党独裁は都合がよいと言えるかもしれない。自由社会ではないとしても、経済やビジネスそしてテクノロジー利用は「何でもあり」の状態と言われ、一攫千金を目指す優秀な人材がその状態を享受している。

 遺伝子組み換えや再生医療といったテクノロジーについても中国の場合、党がやると決めれば決まりである。一方、民主主義国は「どこまでやってよいか」と議論し、合意形成を重ね、少しずつ実用を進めている。

 他国が躊躇する領域まで中国が踏み込んだ場合、人類全体にとって大きな影響が出る。良い影響かそうではないのか、それはまだ分からない。

 中国や他の新興国にはイノベーションのしがらみとなる既存の事業や古い仕組みがあまりない。一気に無線ネットワークを張り、ドローンを飛ばせる。ビジネスのバリューチェーンを先進国より早くスマート化し、先進国の地位を脅かす可能性はある。ゲームチェンジの時代に先進国あるいは後進国という言葉は死語になるだろう。