コロナ禍のニューノーマル(新常態)を体験したビジネスパーソンが捉える未来は大きく変容している。日経BP 総合研究所の大規模調査プロジェクト「5年後の未来に関する調査」では、脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・社会・企業統治)、働き方改革、ウェルビーイングなど多様なテーマの設問について、2020年春からの1年半で企業経営に携わるビジネスリーダーや、様々な部門でマネジメントを担う次世代リーダーを中心に、延べ1万6000人の回答を得た。様々な産業が「5年後に成長しているか」を聞いた設問では、成長する産業として医薬関連とICT関連が上位、卸売・商社、不動産、小売、建設については悲観的な見方が多く、産業によって明暗が分かれた。(本記事は、「5年後の未来に関する調査」の結果をベースに、50を超えるテーマや産業の未来シナリオを分析した企業向けレポート『未来調査2026 全産業編』の「第3章 グローバル/産業」から抜粋し再構成した)

■今後5年で成長する産業、減退する産業

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大によって、各産業界における今後の方向性に変化が生じてきている。想定よりもデジタル化が進んだことによる恩恵を受けたICT(情報通信技術)関連や、マスクや消毒液などの衛生商品を扱う製造業、ワクチンや医療機器を扱う医薬品メーカー、巣ごもり消費で盛況なEC(電子証取引)業界はCOVID-19による特需があった形だ。一方、人の移動の制限などによって大きな制約を受けた旅行業界や飲食業界、エンターテインメント業界は業績の低迷が顕著で、COVID-19の影響が小さくなっても以前の市場規模に戻るには時間がかかるとみられている。

 日経BP 総合研究所が2021年8月に実施した「5年後の未来に関する調査」では、今後5年間における成長する産業として、医薬関連とITが上位を占めた。COVID-19に関連した医薬分野と、3密を避けるオンライン化の進展に対する期待が大きいといえる(図1)。一方、今後5年間における減退する産業としては、卸売・商社やメディア・広告、不動産、小売、建設の産業をビジネスパーソンの過半数が悲観的に捉えている。これらの産業は、国内の少子高齢化による市場縮小が要因の一つとみられている(図2)。

図1 今後5年間の成長、医薬関連とICTへの期待は高い
(出典:『未来調査2026 全産業編』(日経BP)、第3章)
図2 流通、建設・不動産の未来には悲観的
(出典:『未来調査2026 全産業編』(日経BP)、第3章)

■企業業績は急速に回復を見せるが、先行きは不透明

 2020年度は多くの企業で業績が悪化した。帝国データバンクによれば、同社の財務データベースに登録されている、金融・保険を除く全産業(約10万7000社)のうち、「減収」となった企業が58.3%を占め、2019年度に比べて18ポイント増加した。業種別で見ると、減収企業の割合は製造が7割を超え、非製造でも55.6%を占めた。全産業の前年度からの売上高伸び率平均は0.2%のマイナスになったとしている1)

 しかしながら、多くの企業はCOVID-19の影響が長引く中でも業績を回復させている。労働政策研究・研修機構によれば、COVID-19の感染拡大によって世界中がロックダウンなどの対策などで機能不全に陥った2020年4~6月期は、全産業の売上高は前年同期比マイナス17.7%まで落ち込んだが、それ以降はマイナス幅を減少させ、2021年4~6月期には前年同期比がプラス10.4%に転じている2)

 ただし、企業活動はコロナ禍前と同じ状態にはなかなか戻らないだろう。新型コロナウイルスは新たな変異株が次々と見つかり、再び感染拡大につながる可能性があり、先行きが不透明な状況である。実際、東南アジアでの感染拡大によって自動車産業は半導体不足に陥り、トヨタ自動車など日系メーカー6社における減産規模は2021年度の当初計画から100万台を超える規模まで拡大している。

 こうした先行きが見通せない状況は、業績が好調なIT(情報技術)や通信などの産業にも影響を及ぼす可能性がある。COVID-19の影響で急きょテレワーク対応や非対面型業務が可能な社内のデジタル化・IT化を進めている企業が多かったが、今後は経済情勢を見据えて、より一層のデジタル投資に踏み切るかどうかを様子見せざる得ない状況になるだろう。また、人との接触が伴う旅行や飲食、エンターテインメントなどの業界もパンデミックの先行きが不透明な中で、業績回復に努めながらも、不測の事態に備えながら企業活動を続けなければならない。

 加えて、国内では少子高齢化による問題が様々な分野で懸念されている。日本の総人口は2010年の1億2806万人から2030年に1億1662万人に減少する。生産活動の中心となる15~64歳の人口層を示す「生産年齢人口」は、2010年に8000万人以上だったが、2030年に6700万人程度となる。生産年齢人口の減少率は、総人口の減少率よりも高い水準で推移すると見込まれるため、経済規模や労働市場の縮小に直結するといわれている3)。さらに、2010年には生産年齢人口の約2.8人で高齢者1人を扶養する形だったが、2030年には約1.8人で1人を扶養することになり、社会保障などの国民負担の増加によって公的部門に大きな懸念をもたらしている。将来的には、公共事業をはじめとした社会インフラの構築・維持に大きな影響を及ぼし、関連する産業の減退につながる可能性が指摘されている。

■旅行・観光、エンタメは復活への期待が高い

 日経BP 総合研究所が2020年5月に実施した「5年後の未来に関する調査」では、COVID-19の拡大によって大きな打撃を受けた旅行・観光業界とエンターテインメント業界について、今後5年間に「成長する」との回答がそれぞれ16.8%と25.5%と低水準だった。徐々に状況は改善し、2021年8月調査では、それぞれ23.9%と38.8%と上昇している(図3)。足元では非常に厳しい状況にあるものの、長引くコロナ禍で旅行・観光への渇望が広がっていること、エンターテインメントは多様なオンライン配信が立ち上がり、巣ごもり需要をつかんだことで、将来への期待感につながっている。

図3 旅行・観光とエンターテインメントで今後5年の成長期待が高まっている
(出典:『未来調査2026 全産業編』(日経BP)、第3章)
参考文献
1)帝国データバンク、「特別企画:新型コロナウイルスによる企業業績への影響調査(2020年度)」、2021年9月.
2)労働政策研究・研修機構、「国内統計:売上高、営業利益、経常利益、設備投資」、新型コロナウイルス感染症関連情報、2021 年9月.
3)総務省、「平成28年版 情報通信白書」、2016年7月.

<関連レポート>
未来調査2026 全産業編

『未来調査2026 全産業編』は、日経BP 総合研究所が2020年春から継続している大規模調査プロジェクト「5年後の未来に関する調査」の結果を基に、今後5年間で起こりうる社会動向や各分野でのトピックスを交えて、様々な業界における事業戦略の立案や新規事業・商品企画の推進で必要となる未来のエビデンス(客観的な裏付け)を集めた未来調査の決定版レポートです。
著者:日経BP 総合研究所 未来ビジネス調査チーム
A4判、316ページ、2021年11月12日発行

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