GEは、1892年に米国で設立された歴史あるグローバル企業である。金融サービス、テクノロジーといった多岐にわたる事業を100カ国以上で展開。30万人を超える従業員を擁している。日本においての活動も100年以上の実績があり、グループ全体の総従業員数も約8000人を数える。現在では日本の市場は、世界最大級の規模を誇るという。

 GEでは、さらに成長を続けていくためには、人種や性別にかかわりなく、多様なバックグラウンドを持つ人々の活躍が必要不可欠なものとして重要視されており、様々な「ダイバーシティ・ネットワーク」が運営されている。91年にはアフリカ系米国人のためのネットワーク「アフリカン・アメリカン・フォーラム」が、96年には「ヒスパニック・フォーラム」が設立され、97年には「ウィメンズ・ネットワーク」が誕生した。

 「ウィメンズ・ネットワーク」は、ジャック・ウェルチ前会長の提言によって発足した組織で、「プロフェッショナルな女性の育成を目指すと同時に、カルチャーの変革を促し、ツールを提供することで、人材の確保と個人の成長をサポートする」ことを命題に掲げている。現在では世界39カ国で活動が展開され、日本でも2001年に「ウィメンズ・ネットワーク・ジャパン」が発足した。

 現在「ウィメンズ・ネットワーク」の日本リーダーを務めているのは、GE取締役人事本部長の山下美砂さんだ。山下さんの名刺には、人事本部長の肩書きがあるだけで、「ウィメンズ・ネットワーク」の文字はない。

日本ゼネラル・エレクトリック取締役人事本部長の山下美砂さん(写真:皆木優子、以下同)

 GEにおける「ウィメンズ・ネットワーク」の特徴を、山下さんはこう語る。「日本の企業ではダイバーシティーを推進するのは、人事や役員直轄の組織であることが多いようですが、GEの『ウィメンズ・ネットワーク』は、それぞれ自分の職務を持つ女性たちが、自分の仕事に従事しつつ自主的に運営している組織なのです」。つまり、山下さんが人事本部長だから日本リーダーを務めているというわけではないのだ。実際に米国などでは、ほかの部門の人がリーダーを務めるケースもあるという。

 日本リーダーの下には東京・関西・九州ハブ(支部)リーダーが各2人、さらにステアリング・コミッティと呼ばれる運営委員の40人ほどが中心メンバーとして活動している。ステアリング・コミッティには、各事業のリーダー及び人事のリーダーが、次世代のリーダー候補として有望な女性を任命する仕組みだ。


 2006年の主な活動は、イニシアチブと呼ばれる以下の5つ。「リーダーシップ・ディベロップメント(女性リーダーの育成)」では、既に管理職となっている女性、管理職候補の女性たちに向けたイベントや、メンタリングプログラムを実施。「プロフェッショナル・スキル」では、これからマネジャー職を目指す人たちに向けて、様々な働き方を示すロールモデルセッションを開催したり、人事評価の書き方など誰にでも役立つコーチングスキルの育成を行った。

 「ワーク・ライフ・フレキシビリティ(仕事と人生<家庭>の両立サポート)」では、子育てをしながら働く社員の情報交換の場となる「働くパパ・ママセッション」、女性の健康に焦点を当てたセミナーなどを実施。「アウェアネス」では「ウィメンズ・ネットワーク」の活動をより広めるためのセッションを開催、「ウィメン・イン・コマーシャル テクノロジー」では、女性リーダーの少ない営業、マーケティング、技術系の分野での女性育成に注力した。

日本ゼネラル・エレクトリック取締役人事本部長の山下美砂さん

 また、毎年7月には年次総会も実施しており、第5回となった昨年には約500人の社員が参加。「ウィメンズ・ネットワーク」の活動が認知されていくとともに、女性社員だけでなく、男性社員や女性の部下を多く持つ男性マネジャーも積極的に参加するようになってきているという。しかし、「ここに至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした」と、山下さんは振り返る。

 日本における「ウィメンズ・ネットワーク」の発足は、米国と同様、会長からのトップダウンによるものだった。ジャック・ウェルチ前会長とジェフ・イメルト現会長が2001年5月に来日した際、GE東芝シリコン(当時)で人事リーダーを務めていた山下さんほか、部長職として活躍していた女性たち13人をディナーに招待。その席で「日本では女性が社会に進出するのは大変だと聞いているが、あなたたちのように活躍する女性を増やしていきたい」との発言を受け、「ウィメンズ・ネットワーク」を立ち上げることとなった。テーブルを囲んでいた13人の女性たちは、その中心メンバーとなるべく集められていたのだ。

 ダイバーシティー推進に取り組もうとする時、よく聞かれるのが「どうしてそんな活動が必要なのか」「女性の優遇ではないのか」という声だ。これは特に男性から聞かれることが多い発言だが、GEでは「ウィメンズ・ネットワーク」のメンバーとなった女性たちからも同様の声が上がっていた。実は山下さん自身も、疑問に感じたと打ち明ける。

 「今から思えば非常に視野の狭い考えですが、私も含めメンバーの女性たちは、『自分たちは実力で管理職になったのに、どうしてそんなネットワークを作らなければいけないのか』という思いを抱いていたんですね。その心のバリアーが、活動にも大きく影響したのです」。山下さんは当時のGE人事本部長からメンバーへの要請を受けたが、自分が選ばれた理由も分からず、当面は“やらされた感”が拭えずにいたという。


 2002年に初めて行った年次総会には、課長職以上の女性を招待したため、一般の社員からは「ウィメンズ・ネットワークは管理職の女性のための活動」だという、誤解したイメージを持つ人も多かった。イベント開催に当たっての費用は自分たちで捻出しなければならず、当時リーダーを務めていた女性が各事業会社のリーダーに依頼したが、きちんとしたプランの提案がなかったため、ことごとく断られた。予算がなければ定期的なイベントの開催も難しく、「ウィメンズ・ネットワーク」の活動の認知や、「次世代の女性リーダーの育成」という本来の目的を理解してもらうことも難しかった。

GE Money アジア エンゲージメント&コーポレート・シチズンシップ ディレクターの高澤知子さん

 そんな状況に新しい風を吹き込んだのが、高澤知子さんら3人の女性だった。高澤さんは現在は東京ハブ・リーダーを務めているが、当時はマネジャー職にも就いていなかった。高澤さんたちのような若い世代をメンバーに迎えることで、一般社員に管理職のための活動ではないことを示し、関心を持ってもらうという狙いだ。

 「ウィメンズ・ネットワーク」のステアリング・コミッティとなった時の印象を、高澤さんはこう話す。「メンバーは部長職として活躍されていた女性ばかりだったので、漠然と“怖い”と感じましたね(笑)。ただ、自分のような立場の人間がメンバーに迎えられたということは、管理職では気づきづらい意見を求められているのかもしれない。一般社員と同じ目線に立った自分の意見が役に立つかもしれないと考え、思ったことを率直に言うよう心がけました」


男性にもイベント参加を呼びかける

 高澤さんがまず提案したのは、年次総会には女性管理職だけでなく、全社員に参加を呼びかけようということだった。「管理職のためではなく、全社員のためになる活動だというのであれば、本当にみんなのためになるイベントにするべき」という考えからだ。また、それまでは既に成功している女性を招いての講演を行っていたが、「私ならもっと身近な社内の管理職の人たちが、どのようにしてキャリアアップしていったかという話の方が興味が持てる」といった意見も述べた。

 そんな提案を受けているうちに、次第にメンバー間での意見交換も活発になり、志気も徐々に高まった。山下さんが日本リーダーとなった2003年からは、ステアリング・コミッティのメンバー全員で、その年のアクションプランを話し合うようにした。それをもとに山下さんが再び各事業のリーダーにプレゼンテーションを行ったところ、予算獲得もスムーズに運んだ。

 「この頃には、活動を始めた当初の『なぜ自分たちがこんなことを?』という思いは消えていました。自分たちもネットワークという形ではないにしろ、上司や先輩たちのサポートがあったからこそ管理職になれたということも、今度はそれを次の世代の人たちにギブバックしていく役目を担っているのだということも、認識できるようになったんですね。そしてこの活動は、自分たちがさらに成功していくためのものでもあるのです」と、山下さんは言う。

 「ウィメンズ・ネットワーク」の成長は、一般社員にも刺激を与えた。池袋にあるGE Moneyのオペレーションセンターに勤務する3人の女性は、2005年の年次総会へ参加した際、「ウィメンズ・ネットワーク」の活動に強く心を動かされた。だが、いざ自分たちのオフィスに戻ると、「ウィメンズ・ネットワーク」の活動はあまり知られておらず、ダイバーシティーという言葉もほとんど聞かれない状況だった。

 そこで彼女たちは、自分たちのオフィスでもダイバーシティーを推進しようと、自らグループを立ち上げた。高澤さんにダイバーシティーの定義を問うことからスタートし、それを知らしめるポスターを制作してオフィスの様々な場所に掲示するなど、積極的な啓発活動を行った。成果はすぐに表れ、始めた当初に行ったアンケートでは、「ダイバーシティーの言葉の意味を知っている」と答えた人がわずか11%だったのに対し、3カ月後には90%にまで高まったという。

 この報告を受けた高澤さんは、グローバルの組織として認定してもらってはどうかと提案。サブハブになるためには、「独自のイベントを年に2回は企画し、親ハブのイベントにも年に2回以上参加すること」「所在地が親ハブから車で90分以内の距離にあること」といった条件があったが、彼女たちのグループはこれをクリア。2006年1月に、グローバルの正式な組織として「池袋サブ・ハブ」が登録された。

 高澤さんは池袋サブ・ハブの誕生を、「『ウィメンズ・ネットワーク』の活動に刺激を受けて、自ら行動を起こしてくれたことは、私たちにとってもとても励みになりました」と笑顔で話す。

上司の叱咤激励が女性を伸ばす

 こうした女性社員のキャリアに対する意識の向上は、ダイバーシティーを推進するうえで、とても重要なことだと山下さんは言う。若い世代にその意識を育てるためには、中間管理職の理解も必要だ。部下が失敗をした場合、男性であれば躊躇なく叱るところを、女性では叱ることなく済ませてしまう人も少なくない。そんな時に男女を区別することなく叱咤激励することは女性を伸ばすチャンスになると、山下さんは考える。

 「ある管理職の女性は、自分がミスを犯した時にオフィスで悔し涙を見せたところ、男性上司に『こういう場では泣くな』と一喝されたことがあるそうです。彼女はそれ以来、職場では決して涙を見せまいと心に誓っていると言います。上司の一言や対応が、部下のキャリアを変えるということを、男性にも意識してほしいですね」

 日本のGEグループ全体では総従業員約8000人のうち、女性社員の比率は約23%。課長クラスの女性管理職比率は11%ととなっている(2006年11月現在)。2005年の年次総会では、女性管理職比率を将来的に30%まで引き上げる「GE-Road to 30」という構想を発表。2007年末までには20%にという指針も打ち出されている。

 「ウィメンズ・ネットワークの活動が広まり、認知度が高まったことは評価に値することですが、本当の目的は、多くの女性が刺激を受けてキャリアに目覚め、スキルアップを図ることで、管理職となる人の数が増えること。数字としての結果も伴わなければなりません」と山下さんは言う。

 その実現に向けては、「ウィメンズ・ネットワーク」が社員の意識を高める部分を、人事が環境を整備する部分を担い、両輪となって邁進中だ。ダイバーシティーが時代の潮流となりつつある今、山下さんは「このまま何もしなかったとしても、10~15年も経てば女性管理職の比率は自然に上がっていくでしょう」と言う。だが、「私たちはそれを少しでもアクセラレート(加速)して実現するために、『ウィメンズ・ネットワーク』の活動に取り組んでいるのです」とも話す。

 日本におけるGEが「GE-Road to 30」を実現するのはいつの日か――後に続く日本企業も、その動向を見守っていることだろう。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。