「2003年に木瀬が社長に就任してから、TOTOは本気で女性の活躍支援に取り組んでいます」。こう話すのは、TOTO「きらめき推進室」室長の田口みやまさんだ。木瀬照雄氏は社長就任後、若手社員を中心に男女30人を集め、2010年に向けての展望を考える「2010年プロジェクト」を立ち上げた。

TOTO きらめき推進室室長の田口みやまさん(写真:皆木 優子、以下同)

 TOTOでは1992年に女性総合職の積極的な採用を開始し、以降も育児休業制度や短時間勤務制度といった仕事と生活の両立支援にも注力してきた。社員の平均勤続年数は男性21年、女性で18年とほぼ並んでおり、新入社員の定着という意味では男女ともに成果が見られた。

 「2010年プロジェクトでは、『2010年には、自立した社員が次々と生み出される会社になる』というビジョンが掲げられ、2004~06年度の中期経営計画にも盛り込まれました」と田口さんは言う。

 「そのビジョンを具現化するに当たり、改めて当時の社員意識調査結果を考察すると、会社に定着はしているものの、仕事に対する充足感は女性の方が低いという事実が見えてきました。そこで女性自身がこの問題を考え、自らの働き方を見直していくプロジェクトが必要ではないかという声が上がったのです」

 新たなプロジェクトの立ち上げに当たり、人事部は当時、IT推進部のグループリーダーを務めていた田口さんのほか、UD(ユニバーサルデザイン)推進本部主査の江藤祐子さんら女性管理職を集め、「女性きらめき委員会」を発足した。

 しかし、一つ問題があったと江藤さんは言う。「委員に指名されたのは、管理職の女性ばかりでした。つまり、自分なりに頑張って既に仕事の成果を上げている人たちだったので、働き方に対する問題意識を当時はあまり持っていなかったのです」。そこで、もっと広く様々な立場にある女性の声を聞くため、「女性きらめきプロジェクト」を始動させることになった。

 2004年にスタートした「女性きらめきプロジェクト」では、公募で集まった27人の女性がメンバーとなり、女性の仕事の現状や今後の方向性を探った。「一般職や専任職(地域特定総合職)、総合職などいろいろな立場の女性が集まると、仕事に対する考え方は女性同士でもそれぞれに違うということが分かりました」と江藤さんは話す。みな仕事に対して意欲的で、問題意識も持っていたが、いざ新しい仕事にチャレンジするような場合、戸惑う人も多かった。江藤さんは、そこに女性の活用支援の課題を感じたと言う。「自分の業務以外の仕事をする機会がなかったのでしょう。キャリアとは、(自分の仕事以外の)機会と経験が必要なものだ、と感じました」


 3カ月の活動期間中には、女性だけでなく男性管理職や役員にもヒアリングを行い、経営トップへの提言をまとめた。「その中で、女性も会社の中核を担って働いていくには、女性の活躍を支援する専任組織を作ってほしいと訴えました」と田口さん。その訴えは2005年4月、社長直轄の「きらめき推進室」の設置によって実現された。

 10月には、「TOTOは本気で女性の活躍支援に取り組む」というトップの意志を明確に示すため、本格的な“キックオフ”として、「全社女性きらめき大会」を開催。社長以下全役員32人を筆頭に、全国の各部門を代表する210人の女性たちが東京に集まった。

 この大会は、木瀬社長の「会社は本気です。皆様も本気になってください」「『やってみよう』と自ら手を挙げてほしい」といった“社長宣言”で幕を上げ、社内で活躍する3人の女性社員による体験談の紹介、社外講師の講演、懇親会などが行われた。

 その後、「きらめき活動」の一層の浸透を図るべく、参加者たちが全国の各部門で大会と同様の「きらめきコミュニティ」を実施。その数は計53回、参加者はのべ4500人となった。このうちの1000人は男性だという。「当時在籍していた女性の約85%が、いずれかの『きらめきコミュニティ』に出席しました」と田口さんは話す。「2005年度はまず、全社員に行動を起こすための意識を根づかせる啓蒙活動に尽力しました」

 そして2006年度の課題となったのが、女性の職域開拓だ。田口さんは「TOTOはキッチンや浴室、トイレなど、生活に密着した製品を扱っています。男女に関係なく、生活者の視点がものづくりや販売に生かされないと、企業として生き残れない。この原点に立ち返った時、女性が担える役割はもっとあるはずだと考えたのです」と言う。

商品企画や開発の現場にも女性を

TOTO UD推進本部UD企画部企画主幹の江藤祐子さん

 これまでTOTOでは、ショールームアドバイザーなど、顧客と接する部門では女性が多数活躍していたが、商品の企画や開発といったものづくりの現場への女性の参画は限られていた。「商品の開発途中で、女性たちが『ちょっと集まって』と声をかけられ、意見を求められることはありました。でも、女性が評価者として定常的に会議に出席することは稀だったのです」と江藤さんは話す。

 顧客のニーズに応えるには、男女が共に生活者の視点を持つことが重要だと位置づけ、各部門でこれまでの業務体制を見直すよう求めていった。「2005年度には女性に特化した啓蒙活動を行ってきましたが、2006度には『男女が共に』ということをアピールしています。しかしともすると男性の中には、女性の意見は絶対に聞かなければいけないのではないか、と誤解してしまう人も出てきました」と田口さんは言う。しかし、「いいものをつくりたいという根本的な意識は同じ。日常生活でより多く商品に接している女性の視点は顧客の視点の代弁であり、これを取り入れるのは業務として必要なことだと説明すれば、ほとんどの人が分かってくれました」。

 周囲の理解が進むに従って、商品開発の企画やモニタリング、販売施策などへ参画する女性が増えてきているという。特に、江藤さんが所属するUD推進本部では、生活者としての女性の視点が存分に生かされている。

 TOTOでは1996年から要介護高齢者や障害者のための福祉用具を発売したが、2002年には高齢者や障害者だけでなく、誰もが快適に使えるユニバーサルデザインを全事業部に推進している。今でこそ耳慣れた「ユニバーサルデザイン」だが、当時はまだ、専門の組織を持つ企業は少なかったという。

 これを機にすべての商品開発に当たっては、顧客との対話を重ねることがさらに重要となった。2002年には北九州市に、2006年には茅ヶ崎市に、それぞれ「UD研究所」を設立し、体制も整えた。


 江藤さんは、「現在商品開発の拠点となっている茅ヶ崎のUD研究所では、生活者がどのように空間や器具を使っているのかを調査・研究するために、小さなお子さんから高齢者、妊婦さんなど様々な方を対象に、生活観察調査や生活シーン検証を行っています」と話す。そこでは、「研究所ということを意識させず、なるべく自然な状態で話したり試したりしてもらうことが大切。そうした場では、女性の細やかな気配りが生きています」

 例えば、2006年8月に発売されたシステムキッチン「キュイジア」では、これまでのI型キッチンのカウンターのコーナー部に、三角形の作業スペースを取り入れたA型カウンターを発売した。この時の生活シーン検証でも、女性の視点が役立った。

 「従来のI型と今回のA型とで使い勝手を検証したところ、I型では左右への移動が大きかったり、調理器具を取るのに戸惑ったりといった点が見られました。こうした生活者のちょっとした行動の違いは、ふだん家庭で調理をしている人でないと、なかなか気づけないものなのです」と江藤さんは説明する。

 UD推進本部には現在50人が在籍するが、半数は女性だ。「もともと公募で集まったメンバーが多く、意欲のある女性が多数活躍しています。UDの仕事内容は、総合職、専任職(地域特定総合職)、一般職という職群による違いはないので、キャリアアップを希望する人は、積極的に支援しています」と江藤さんは言う。「一般職から専任職、専任職から総合職へと仕事の幅を広げる『職群変更試験』の合格率はとても厳しいですが、毎年チャレンジするよう働きかけています」

男女が同じフィールドで仕事ができることが大切

 また、2004年にはTOTOとしても初となった、女性の海外留学者を輩出した。「その女性は米国の大学院で、『ジェロントロジー(老年学)』を学んできました。ジェロントロジーは、高齢者を医学、社会学、建築学など様々な側面から横断的に学ぶ学問で、米国では一般的であるものの、日本では専門的に勉強できる機関はごくわずかしかなかったのです」と江藤さんは話す。

 男性のMBA(経営学修士)留学者は過去にもいたが、女性からの、しかも全く新しい学問を学びたいという申し出を、江藤さんの上司である本部長が経営層にかけ合って実現させた。江藤さんは「以前だったら、ひょっとすると反対されていたかもしれません。でも、今のTOTOには前例のないチャレンジを認める風土ができている。それは私にとっても、うれしいことでした」と、笑顔を見せる。

 管理職としての役割を、江藤さんはこう考えているという。「会社のビジョンを示したうえで、部下が能力を生かせ、モチベーションを高く持って仕事ができる環境をつくることが大切だと思います。それには男女ともに同じフィールドで仕事ができなければフェアではないということを、常に意識しています」

 TOTOでは長年、新卒採用者の男女比率は8対2だった。しかし、2006年度の新卒採用での女性の割合は、2005年度の22%から42%にまで引き上げられた。今後も採用における男女比率は同等にしていく方針だという。一方、管理職への女性の登用については、第一義の目標としては掲げていない。田口さんはその理由を、「まず、いい商品を作るために最適な人材配置を行い、その人材に責任を持たせることが大切なのであって、管理職に登用するかどうかはその結果ついてくる問題だと思っています」と話す。

 TOTOでは、今後もさらに全社の事業の体制を見直し、最適化を図っていく考えだ。「そのうえで、新たな体制に適合する支援制度の拡充、改変も進めていきたい」と田口さんは言う。

 日々の生活に密着した商品を開発、提案するTOTOには、生活者としての女性の気づきを生かすフィールドはまだ多数あるに違いない。今後の「きらめき活動」の推進により、さらに安全で快適な商品の誕生に期待したい。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。