利権がからむと富の集中が起こり、一部の既得権益者に市場を牛耳られる。化石燃料エネルギーの利権で動くオイルマネーはその最たるものだ。原油価格の操作によって様々な経済的コストが変動し、世界中の企業がそれに翻弄され続けてきた。

 そのエネルギー源を化石燃料からそっくり置き換えてしまうテクノロジーが「核融合発電」である。燃料が水素に置き換わり、原油に依存していた既存の枠組みが一掃され、エネルギーのコストが劇的に下がる。まさしくゲームチェンジである。

 核融合発電は太陽のエネルギー源である核融合反応を使う。地上に太陽エネルギーを人工で作り出すことから「夢のエネルギー」と言われてきた。ただし研究が始まってから約60年経つものの実用化のめどは立っておらず「夢のテクノロジー」でもある。

 発電に有力とされるのが重水素と三重水素の核融合反応である。2つの原子核がその間に働く反発力に打ち勝って融合するとヘリウムと中性子ができる。その反応の前後で質量が減少し、減少した質量がエネルギーに変わる。

 1グラムの燃料で発生するエネルギーはタンクローリー1台分(約8トン)の石油を燃やしたときの熱量に相当するという。既存の核分裂反応による原子力発電と違い、燃料が海水中に豊富に存在し資源枯渇の心配がない、反応が暴走する危険性がない、高レベルの放射性廃棄物を発生しない、という特徴がある。

 ただし発電設備が大掛かりになる。核融合反応を実現するには原子核同士を毎秒1000キロメートルの速度で衝突させる。そのために加熱装置で1億度以上の高温プラズマを発生させ、超電導磁石などを使って原子核を一定空間に閉じ込める。

 しかも核融合反応のプラズマは挙動が複雑で予測が難しい。グーグルが核融合ベンチャーの米Tri Alpha Energy (現TAE Technologies)と共同で核融合プラズマの計算アルゴリズムを開発したとの報道が注目されたものの、プラズマを閉じ込める実験をいかに効率的に行うかで苦労している。

 国際協力で核融合発電の実現性を実証することを目指すプロジェクトもある。日本、EU、米国、ロシア、中国、韓国、インドが参加する実験施設「ITER」は、2007年に母体となる組織が発足後、建設が進められたが、技術的なハードルの高さなどから予算オーバーと計画遅延を繰り返した。ITERの運転開始は2019年の予定だったが、2025年12月に延期された。ITERの核融合運転は2035年12月からとなっている。

 高温プラズマを利用した核融合発電を実現できたとしても設備コストの高さから経済性で有利と言えるかどうか。そこで期待されるのが常温(室温)で核融合反応を起こす「常温核融合」である。

 常温核融合は1989年に米国と英国の研究者がこの現象を確認したと発表したことから世界中で注目された。重水を満たしたガラス容器の中にパラジウムとプラチナの電極を入れて電気分解を実施したところ、電解熱以上の発熱が得られたとする。「試験管の中の太陽」として大きな話題となったが、その後、数多くの追試があったものの再現性が低く、「ニセモノの科学」との扱いを受けるようになった。

 日本でも1994〜1998年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトが組まれ、再現実験に取り組んだが、過剰熱の発生を実証できなかった。前述の電気分解から方法を変え、2001年には三菱重工業がパラジウムなどの多層膜に重水素ガスを透過させて「核変換」に成功、2005年には大阪大学がパラジウムのナノ粒子に水素ガスを注入して過剰熱を確認した。

 2015〜2017年にはNEDOのプロジェクトが再び実施され、120グラムのナノ複合金属材料から10〜20ワットの過剰熱を発生させ、約1カ月持続したという成果を得ている。このように日本の一部の研究グループは諦めず、検証のための実験を続けている。

 常温核融合の反応メカニズムは解明されたとはまだ言えないが、安定的に制御できれば前述の通り、核融合発電が既存のエネルギー源を置き換えるゲームチェンジを起こす可能性がある。

 NEDOプロジェクトに参画したトヨタグループの技術系シンクタンクであるテクノバは、常温核融合による発電コストを1キロワット時当たり2.6円、既存の火力発電の5分の1に下がると試算する。

 もしエネルギー・コストがこれだけ下がったら、交通・運輸、物流、製造、素材、情報、サービスなど様々な産業分野でコスト構造が大きく変化する。企業の競争優位性を高める視点も変わってくるだろう。

 常温核融合の実用化は、電気自動車の電熱ヒーター用など出力5キロワット程度の発電であれば、「2025年までには可能」(テクノバ)と言う。そこで実績を積めば、数100万キロワット出力の発電所を代替することを、高温プラズマの核融合発電よりも早く実現できるかもしれない。