足元のエネルギー事情を見ると火力発電所を支えてきた「送電線インフラ」の維持コストが上がり、存続が危ぶまれる危険性が出てきている。

 予想を上回る再生可能エネルギーの普及によって、大型火力発電設備を主力にしていた国内外の大手重電メーカーの業績が悪化している。再エネの「主力電源化」の動きは火力プラント関連産業の経営に大きな影響を及ぼす。火力発電所という「電源」だけでなく、送電線インフラ自体の存続を脅かしかねない。

 固定価格買取制度(FIT)が終了すると、再エネ事業は単純な売電モデルから多様な事業形態に変化していく。需要地内への設置が可能な小規模太陽光発電は「自家消費」を、地域に分散したメガソーラー(大規模太陽光発電所)や風力・バイオマス発電は近隣で活用する「エネルギー地産地消」を、それぞれ志向する動きが高まってくる。

 蓄電池などエネルギーストレージの低価格化が進むと、出力を安定化させつつ、こうした地産地消モデルの事業性を確保できる可能性がある。従来は再エネを主体にしたローカルなエネルギーのやり取りをしようとしても需給バランスの維持から簡単ではなかった。

 自家消費とエネルギー地産地消の進展は、遠方から電気を運ぶ送電線(特別高圧送電線)の稼働率を下げる。送電線の維持コストを巡る仕組みのあり方が論議になり、場合によっては、電気料金の値上げとして需要家の負担を増したり、追加投資が滞ったりして送電線の維持自体が難しくなる恐れすら出てくる。

 遠隔地からの電気を送るコストが上昇することは、電力多消費型の産業に対し、立地政策の再構築を迫るかもしれない。かつて、アルミ精錬産業は電気代の高い日本では存続できず、ブラジルなど低コストの水力発電を持つ地域に集約されたが、国内でもこうした産業の立地再編が起きるかもしれない。

 すでに送電インフラの維持が問題になるケースが国内外で顕在化している。住宅への太陽光発電システムの普及が進んでいる米国では数年前から送配電網維持の危機が指摘されている。

 米国ではネットメータリングという制度で住宅太陽光が普及している地域が多い。これは自家消費が基本で余剰分は購入電力と相殺する仕組みだ。これによって消費者の支払う電気料金が減ると、電力会社は電気料金を通じて送配電網の維持管理コストを回収できなくなる。こうした送配電網の維持という観点からの〝負の連鎖〞を、デス・スパイラルと呼ぶ。

 これが進むと電力会社は送配電網を維持できなくなる。とはいえ太陽光発電を設置できない需要家は存在するから社会全体にとって送配電網は依然として必要であり、いかにして住宅太陽光の普及と送電インフラ維持を両立させるかが制度設計の課題になる。

 日本でもこれに近い問題が出てきた。FITで導入された再エネは、買取期間の終了する20年後には減価償却が済み、一部設備の更新により、燃料代ゼロの低価格な電気になる。エネルギー地産地消を目指し、電力会社の送配電網を使って近隣の需要家に送ろうとすると、全国どこに送電しても一律になっている「託送料」が加算され、電力会社の電気料金と大差なくなってしまう。

 そこでエネルギー地産地消を推進する自治体は、託送料の需要地近接割引、つまり近くに送る場合は「託送料を安くすべき」と主張している。だが、今のところ、この割引制度が導入される予定はない。簡単に認められないのは「近接割」を認めると、その分、遠隔に送電する際の託送料を引き上げざるを得なくなるからだ。

 米国の「デス・スパイラル」、日本の「需要地近接割引」の制度設計の議論は、自家消費やエネルギー地産地消が進んだとしても、「送電線は社会インフラとして必要」との前提に立っている。

 だが、今後、蓄電池などエネルギーストレージのコストがさらに下がっていくと、電力会社の送配電網とは接続しない完全自立型の太陽光の自家消費モデル、自営線を使った地域マイクログリッドが出てくる可能性もある。

 電力会社の送配電網からの「離脱」が現実化した場合、もはや電気料金などの制度設計によって送配電網の維持コストを確保できない。そうなった時、本当の意味でのデス・スパイラルが始まり、全国大の送電インフラは存続の危機を迎えることになる。