現在、世界の多くの地域でエネルギーが不足し、石炭や天然ガスなどのエネルギー価格が大幅に上昇している。そんな中、逆に暖房費を引き下げているのが山東省海陽市だ。海陽市は中国で初めて原子力による暖房供給を完全に実現した都市だ。化石燃料による暖房と決別したことで、世界中の原子力関係者が注目しており、国際原子力機関(IAEA)もすでに調査のため担当者を派遣したという。(日経BP 総合研究所)

 山東省海陽市は中国で初めて原子力による暖房供給を完全に実現した都市だ。海陽市には海陽原子力発電所があり、その年間発電量は200億kWhで、青島市、煙台市、威海地区の全住民の生活用電気を十分にまかなえる。中国大陸部で稼働中の51基の原子力発電所の1つである海陽原発は、規模的にも技術的にも特別なものではない。だが、他の原発とは異なる点が一つある。2021年に、発電量の4%によって、60万人に直接熱を供給し、この北部の小都市を化石燃料による暖房の時代と決別させたのだ。全てが順調にいけば、将来的に青島、煙台、威海の3都市にも熱を供給できるようになるだろう。中国青年報が伝えた。

 呉放氏は清華大学(工学物理学専攻)卒業後、原子力関係の仕事に携わってきた。原子力の専門家で山東核電会長である呉氏は、同僚と共に海陽原発の稼働の安全性と安定性を確保することが日々の仕事だ。

 現在、中国の暖房供給は主に石炭や天然ガスの燃焼に依存しており、大量の二酸化硫黄、窒素酸化物、PM10が発生する。清華大学建築省エネルギーセンターの推計では、中国北部の都市の暖房供給によるエネルギー消費量は標準炭換算で年2億1200万トン、二酸化炭素(CO2)排出量は年約5億5000万トンに達する。これは、およそ乗用車2億台が1年間に排出するCO2の量に相当する。

 スモッグを発生させるだけでなく、化石燃料の燃焼によって排出されるCO2は地球温暖化を引き起こし、異常気象の頻発、海水面の上昇をもたらす。先般の「国連気候変動枠組条約」第26回締約国会議で、各国政府はカーボンニュートラルの目標を示した。

 原子力関係の仕事に長年携わってきた呉氏は、原子力の利用効率の向上を望み続けてきた。

 原発は通常海辺に建設される。核反応によって生じる大量の熱を冷却するために海水を必要とするからだ。原子力発電では、核分裂で発生する熱で水を加熱し、その水蒸気でタービンを回して発電する。呉氏は、この熱エネルギーの一部を暖房供給に使用できれば、原子力の利用効率を高めると同時に、クリーンエネルギーによる暖房供給も実現できると考えた。

 「この考え方は原理的には簡単で、多くの人が思いつくものだが、実行するとなると複雑な工学的問題だ。しかも以前は原子力による暖房供給は化石燃料の使用よりそれほど安価というわけではなかったため、試してみようとする人は少なかった」と呉氏は言う。

 エネルギー分野では、発電に使用できる熱エネルギーは「高レベル」なもので、高い温度とエネルギーの水蒸気を必要とする。海陽原発では、発電に使用する水蒸気の温度は摂氏268.6度、圧力は大気圧の約53倍の5.38兆パスカルにも達する。発電後の水蒸気はまだ温かいものの、「低レベル」のエネルギーに属し、再利用は難しい。だが暖房供給に、それほど「高レベル」のエネルギーは必要ない。「我々の作業は、『高レベル』のエネルギーの一部を取り出して『低レベル』のエネルギーと混ぜ、より多くの『中レベル』のエネルギーに変えるようなもの。それでも暖房供給には十分だ」と呉氏は説明する。

 この考え方を実現するのは簡単ではない。原発は精密に設計されたシステムであり、一部の水蒸気を取り出せば、必然的にシステム全体に影響が生じる。海陽原発1号機の商用稼働が始まった2018年、彼らは事前の理論的論証を数多く行った後にプロジェクトを立ち上げ、翌年に暖房の試験供給を始めた。原発の事務エリアから海陽市の一部の団地へと徐々に拡大し、今年には市街地区の全てで原子力暖房を使用できるようになった。

 この過程において、利用者側に大きな変化はなかった。原発の外では、海陽市の石炭燃料ボイラー12基が不要となった以外、従来の化石燃料による暖房供給とほとんど変わっていない。暖房供給用水の加熱はこれまで通り各区の暖房供給企業が担当する。ただ、石炭を燃やして暖房供給用水を加熱する必要はもうなく、海陽原発の提供する熱水の熱量を、暖房供給センターで暖房供給用水に伝えるだけだ。

 2021年11月9日、原子力暖房供給の熱水によって、海陽市で計画通り暖房供給が始まった。例年の冬と比べて、市民は何か違いを感じているわけではない。暖房は同じように暖かく、持続し、安定している。変わったのは、暖房費が1平方メートル当たり1元安くなったことぐらいだ。

 海陽市の原子力暖房供給実現には世界中の原子力関係者が注目しており、国際原子力機関(IAEA)もすでに調査のため担当者を派遣した。中国国内でもこれに続く動きがあり、中国初の原発である泰山原発は嘉興市内の3つの団地への試験的な暖房供給を始めた。

 たとえCO2排出量削減における貢献を考慮せずとも、原子力暖房供給には今年、特に大きな意義がある。世界中でエネルギーが不足し、石炭や天然ガスなどのエネルギー価格が大幅に上昇し、多くの国々が給電制限や生産停止に踏み切り、各地で暖房費が上昇する中、海陽市は逆に暖房費を引き下げ、石炭問題を解決した。

 海陽市は冬季の暖房供給に原炭10万トンを必要としていたが、原子力暖房に転換することで、CO2排出量を18万トン削減できる。中国全土の暖房によるCO2排出量と比べると、これは取るに足らぬ小さな数字で、0.03%に過ぎない。だが、この試みが中国大陸部の稼働中の51基と建設中のさらに多くの原発に広がれば、注目すべき数字へと変わる。全世界で稼働中の原発は約400基ある。呉氏にとって、原子力の利用は今なお果てしない探索だ。呉氏は、将来原子力がさらに多くの分野で役割を果たすようになり、「原子力」と聞くだけで人々が青ざめることがなくなるのではないかと期待している。(出所:人民網日本語版)