旧安田火災海上保険・日産火災海上保険・大成火災海上保険が合併し、損保ジャパンが誕生したのは2002年。合併の準備を進める中で、3社の経営陣には共通の思いがあった。「それは、女性の活力を生かしきれていないということでした」と話すのは、現在人事部女性いきいき推進グループの課長を務める秋山典子さんだ。

損保ジャパン 人事部 女性いきいき推進グループ 課長の秋山典子さん (写真:皆木 優子、以下同)

 損害保険会社では数年ごとに転勤がある。このため、男性社員の配偶者である妻たちは、結婚当初は仕事を持っていても、最終的には家庭に専従するケースが多いという。「2002年当時、わが社の育児休業などの支援制度は、そういった専業主婦の妻を持つ男性たちが中心となって考えられたものでした。そのため、実際に働く女性たちの声は生かされていなかったのです。支援制度が、働く女性にとっては“絵に描いた餅”のようなところがあり、活用されていないという現状がありました」

 損保ジャパンでは「男女の性別を越えて、社員のさまざまな価値観(働き方)を受け入れ、働き続けられる企業」を目指すために、2002年、人事部でプロジェクトチームを発足。当時、人事部で人材開発グループの副長を務めていた秋山さんも一員となった。秋山さんらは、実際に働いている女性たちの声に耳を傾け、施策立案に生かすための組織として、合併に先駆けた2002年5月、「ウィメンズコミッティ」を立ち上げた。ウィメンズコミッティは、女性社員が本来業務とは別に、自主的に運営する組織である。

 ウィメンズコミッティ設立時の第1期のメンバーは、首都圏を中心に様々な部門、職種で働く女性16人を選抜した。現在、企業サービスセンター部医療保険室の室長を務める陶山さなえさんもその1人だ。陶山さんは入社4年目の1983年にお子さんを出産、産休を経て復帰しキャリアを積んできた。当時は本店サービスセンター部で課長代理を務めていたという。

 ウィメンズコミッティへ参加した理由を、陶山さんはこう話す。「その頃はまだ、結婚、妊娠したら退職するという雰囲気があったので、出産・育児の経験を持つ総合職の女性はあまりいませんでした。ウィメンズコミッティの活動を通して自分の経験を伝えることで、働き続けたいと思う女性たちの力になれたら、という思いがあったのです」

 陶山さんをはじめとするメンバーは、月2回のミーティングを重ね、「支援制度に、働く女性の視点が生かされていない」「制度に対して十分な理解が得られていない」といった、自分たちが生き生きと働くうえでの阻害要因を検討し、具体的な解決策を探っていった。その中で「仕事と家庭の両立」「キャリア形成」「意識改革」の3つの課題を設定。それに向けて、キャリアモデルとなる社外講師を招いての自主セミナー「Weセミナー」を企画したり、支援制度の拡充を提言するなど、意欲的に活動に取り組んだ。


 2003年4月には、ウィメンズコミッティと連携し、女性活躍推進の一層の強化と実現を図るための専門部署、「女性いきいき推進グループ」が人事部内に設置された。「女性いきいき推進グループでは、ウィメンズコミッティで掲げられた課題をもとに、『仕事と家庭の両立支援』『キャリアアップ支援』『社員の意識改革』を活動の柱として打ち立てました」と秋山さんは話す。

 「仕事と家庭の両立支援」では、ウィメンズコミッティからの提言を踏まえ、社内の支援制度をより利用しやすくするために整備を進めた。「例えば、それまで育児休業制度は子供が満1歳までしか利用できませんでしたが、保育園の入園時期など職場への復帰しやすさを考慮して、子供が満1歳になった翌年度の4月末までに延長しました。また、育児短時間勤務制度を新たに設け、子供が小学校3年生まで、就業時間を1日1~3時間短縮することを可能にしました」。そのほか、結婚や配偶者の転勤などで転居が必要となった場合に、転居後の希望勤務地に対応する「キャリア・トランスファー制度」なども新設した。

損保ジャパン 企業サービスセンター部 医療保険室 室長の陶山さなえさん

 「キャリアアップ支援」では、女性社員のネットワークづくりに力を入れた。「総合職の場合、東京で採用されても、初めは地方都市の支社に配属されるケースが多いのです。活動を始めた当初は、総合職における女性が1.5%程度と少なかったこともあり、女性が孤独感を持ったり、将来のキャリアやライフプランをどう考えたらいいのかと悩む声も聞こえました。そうした不安を解消するために、同じ経験を持つ先輩を紹介するなど、女性社員同士の交流をサポートしたのです」

 一方、陶山さんは総合職の女性だけでなく、多数を占める業務職の女性たちがやりがいを持てるような支援の必要性も感じていたという。そこで、「ウィメンズコミッティから、『業務リーダー』という新たな役職の創設を提言しました」。業務リーダーは、それまで総合職だけに与えられていた承認権限を一部担うなど、より責任のある職務である。

 この提言は2004年度に社員に告知がなされ、1年間の育成期間を経て、2005年度に約70人の業務リーダーが誕生、2006年度にはさらに80人が業務リーダーとなっている。陶山さんは、「実は、提言した当初は実現するとは思っていませんでした。でも、実際に多くの女性が登用され、リーダーとしての責務を負うようになったのを見て、女性活躍支援に対する会社の本気度を感じました」と言う。


女性のワークスタイルを4つのタイプに分ける

 秋山さんはさらに、多様な働き方を認める姿勢も示していきたいと話す。「女性の働き方は、4つのカテゴリーに大別されます。タイプAは総合職を代表するキャリア志向(職務拡大)型、タイプBは転勤までは考えなくても、仕事にやりがいを求める仕事充実志向(職務充実)型、タイプCは家庭と仕事の両立を目指す家庭重視(両立)型、そして、タイプDはあまり長くは勤めるつもりのない短期勤務(消極)型です」

 ただし、タイプCでも子育てがひと段落したらタイプAになる人がいたり、タイプDでも仕事の成功体験によってタイプBになる人がいたりと、価値観はその時々の状況で変化する、と秋山さんは指摘する。「それを踏まえたうえで、すべてのタイプの人に働きかけていきたいのです」

 この話をすると、「女性の活躍推進というと、バリバリ仕事をすることを求められていると思っていたが、いろいろな働き方があっていいのだと分かって安心した」といった声が寄せられる、と秋山さんは言う。

 陶山さんも、「入社からずっとタイプAで走り続けることは、誰にとっても難しいと思います。私自身、Aの時期もあれば、Cの時期もありました。男性でもCの時期があってもいいはずです。ほかのタイプを選択することで評価が下がるのでは?と不安に思っている人は多いので、様々な価値観を認める風土が根づくことを期待しています」と言う。

陶山さなえさん(左)と秋山典子さん(右)

 そうした企業風土を醸成するためにも、「社員の意識改革が最も重要」と秋山さん。どんなに支援制度の拡充を図っても、認知・活用されなければ意味がない。「『女性いきいき推進』の活動が始まった当初は、男性社員で出産・育児休業制度を理解している人はほとんどいない状況でした。『産休と育休ってどう違うの?』『育休って、部下に必ず取らせないといけないんだっけ?』といった質問をしてくる男性管理職もいるほどでした」と、秋山さんは当時を振り返る。

 そのため、支援制度の詳細を掲載した管理職向けのマニュアルを作成・配布した。秋山さんは、「現在ではマニュアルを読んだうえで、『延長して育休を取りたいという場合はどうしたらいいの?』といった、当時からははるかにレベルの高い質問が寄せられるようになりました」と笑う。

 陶山さんらウィメンズコミッティの第1期メンバーからの要望もあり、2003年には、全国約180の部店(支店)ごとに代表の女性1人を募り、「全国ウィメンズコミッティ」を組織。現在では、各部店の男性管理職1人と、規模に応じてサブメンバーも加わり、400人を超える男女が活動している。毎年「全国ウィメンズコミッティ会議」を開催し、各地の前年度の取り組み事例をもとに、今後の活動計画を策定するほか、各地域が独自にセミナーやミーティングを開催するなど、積極的な活動が行われている。

 そうした活動が徐々に成果を見せ、2002年度には47人だった育児休業制度の取得者が、2005年度は150人、2006年度には12月末の時点で150人を超えた。


季刊誌で、女性活用推進に理解のある男性を紹介

 また、第5期を迎えた今年度のウィメンズコミッティからは、これまでの女性活躍推進活動を、男性も含めた全社員に向けての活動に展開するため、「ダイバーシティコミッティ」を立ち上げた。ダイバーシティコミッティが企画・作成する季刊情報誌「Weかわらばん」では、男性の共感も得られる誌面作りを目指して、“素敵な男性”を紹介するコーナーを企画した。

 ここに登場する男性は、各部店の女性たちから「女性の活躍を応援してくれている」と推薦された男性とされている。秋山さんのもとには、男性から「あのコーナーに掲載されたい」という問い合わせが寄せられたこともあるそうだ。秋山さんは「『まず、地区の女性たちに認めてもらってください』と答えましたが(笑)、それだけ男性にも関心を持って読まれているのだと、うれしく思いました」。

 ウィメンズコミッティの第1期メンバーとして活躍した陶山さんは、4年ぶりに第5期に参加している。活動に復帰した際の感想を、陶山さんはこう話す。「第1期の時と比べ、支援制度の認知度や活動への理解が格段に高くなっています。第1期で提言したこともほぼすべて実現されていて、まさに“継続は力なり”だと実感しています」。秋山さんは、「支援制度は、実際に使った人たちの声を生かして進化させていくものだと思っています」と、さらなる意欲を見せる。

 損保ジャパンの「女性活躍推進活動」は、真のダイバーシティー推進活動へと進化し、新たな局面を迎えている。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。