「ユニクロでは、仕事内容や給与、昇進の機会に関しては『男女平等』が浸透しています。それはとてもいいことですが、一方ではあまりにも平等すぎて、逆に“不平等”も生まれていました」。こう話すのは、ユニクロ営業部 BODY by UNIQLOスーパーバイザーの辻田智子さんだ。スーパーバイザーとは、各地域の店長を束ねる役目を負っている。

ユニクロ 営業部 BODY by UNIQLO スーパーバイザー、ユニクロ大学 キャリア開発・女性キャリア推進チーム UNIQLO女性活躍推進担当の辻田智子さん (写真:山田 慎二、以下同)

 「周囲を見渡すと、活躍している女性は皆、長時間勤務も休日出勤も転勤もいとわず、それこそ“男性のように”働ける独身者ばかり。仕事があまりにもハードなため、女性が結婚する時は退職するという暗黙の了解がありましたし、意欲があっても仕事を続けるのはとても難しい状況でした」

 こうした声は現場の女性店長からも上がり、女性が働きやすい環境を整備する必要性が高まっていた。だが、どこから手をつけていいのか分からない。そこで柳井正会長兼CEO(当時)は2004年3月に、「女性店長プロジェクト」を発案した。数店舗から構成されるエリアの店長をすべて女性に任せる「モデルエリア」を作り、女性の活躍を阻害する問題点や課題を探るというものだ。ここで得られる解決策や成果を、今後の企業戦略に生かそうという試みである。

 このプロジェクトの推進も女性のスーパーバイザーに任せたいという柳井会長の意向があり、当時千葉エリアでスーパーバイザーを務めていた辻田さんは、自ら手を挙げてプロジェクトリーダーとなった。ただ、千葉エリアの5店舗すべてを女性店長にするのは難しく、実際には千葉エリア3店舗と関西エリア3店舗の6カ所で店長を女性に任せ、この6人と辻田さんでプロジェクトを推進することになった。

 こうして2004年9月に「女性店長プロジェクト」がスタートし、最初に着手したのは店長の労働環境の改善だった。辻田さんはこう話す。「『店長は、開店前から閉店後までずっと店にいるものだ』という思い込みが、店長自身にもスタッフにもあったのです」。お客の多い土曜、日曜も、「店長が出勤するのは当たり前」という状況で、当時の店長の1日の平均勤務時間は12~14時間に及んでいた。


 「そこで第1の目標として掲げたのが、『店長の8時間勤務と土日公休』でした。店長が長時間店にいなくても、問題なく運営できる体制を作ろうということを、分かりやすく示したものです」

 まず6人の店長は1週間の仕事をタイムスケジュールに沿って書き出し、「店長でなければできない仕事」「店長でなくてもできる仕事」を確認した。「6人のスケジュールを照らし合わせると、同じ仕事でも60分でできる人と90分かかる人がいました。また、ある人が『店長でなければできない』と考えていた仕事を、別の人はスタッフに任せていた場合もありました」。こうして互いのスケジュールを見比べながら、効率よく仕事をしたりスタッフに権限委譲する方法を、ミーティングやメールのやり取りを通じて話し合った。

 その結果約2カ月後に、6人の店長全員が「8時間勤務、土日公休」を達成したのである。しかし目標達成には大変な苦労があった。「当初、早く帰れるようになったことを喜ぶ店長は、1人もいませんでした」と辻田さんは話す。

「もっと仕事をしたい」と泣きつく女性店長

 「時短をするため、退社時間になると店長は店を出て、集まってお茶を飲むのです。でも、その間も店で問題が起きたりする。そんな時『今から直接店に戻って処理したい』『自分が残業すれば、仕事も早く終わるのに』と、店長から泣きつかれました」。いつも出勤していた土日も、休んでいると店が心配になる。自宅で待機していても耐えられず、「どうしても店に出てはいけないのか?」と店長から辻田さんに、泣きながら電話がかかってきたこともあった。

 そのたびに辻田さんは、店長たちを叱咤激励した。「泣いてもかまわないし、やれないと放棄したければそれでもいい。でも、あなたたちの今の取り組みが、会社のこれからを大きく変えていくんだということを決して忘れてはいけない、と言ったんです」

 「女性店長プロジェクト」と平行して、全社員に向けた情報誌「スタイル」を創刊した。年に4回発行し、プロジェクトの取り組みとともに、社内外の女性のロールモデルを紹介。また、各エリアごと年4回、女性社員を対象とした「ウィメンズフォーラム」を開催し、様々なキャリア研修も企画した。

 目標であった労働環境改善に成果が見られ、「女性店長プロジェクト」は2005年9月から、さらなる女性のキャリア推進と風土改革を目指して新メンバー6人を迎えた。2年目は、関東、関西だけでなく、東北、九州の女性店長も加わった。現在、ユニクロ新宿三丁目店の西本理恵店長は、第2期のメンバーである。

ユニクロ ユニクロ新宿三丁目店店長の西本理恵さん

 2005年当時、原宿店に勤務していた西本さんは結婚を控えていた。「社内恋愛で、夫は『結婚したら仕事は辞めてほしい』と言っていました。ユニクロでは、結婚後仕事を続ける女性はほとんどいませんでしたし、それだけ仕事が大変だと分かっていたからでしょう。私自身、毎日14時間働く生活は、結婚したら無理だろうと思っていました」

 そこへ、かつての上司の辻田さんから「女性店長プロジェクト」に誘われる。西本さんは、「プロジェクトの1年目の活動は、とても励みになっていました。チャレンジしてみたら? と辻田に言われ、自分にもできるかもしれない、結婚しても仕事を続けられるかもしれないと思うようになったのです」と話す。

 西本さんも第1期メンバーと同様に、1週間分の仕事を書き出し、自分でやる仕事と部下に任せられる仕事を整理した。「当時は、私が朝8時頃から夜は22時過ぎまで店舗にいるのが当たり前だと思われていました。そこでまず、『これからは20時に帰ります』と宣言して、任せられる仕事はスタッフにどんどん任せていきました」


時短勤務は、部下の育成にも役立った

 時間制限ができた分、以前よりメリハリをつけて働けるようになったと西本さんは言う。部下に仕事を任せることで、気づいた点も多かった。「部下も、初めはうまくいかないこともあります。でも、失敗してもまたチャンスを与え、継続して任せていくことが大切なのです。それまでは、部下が失敗をすると私がフォローしていました。部下に考えさせるより、自分が指示した方が早いからです。でもそれは、目の前のトラブルの対処に追われ、根本的な原因に向き合っていなかったということです。部下に成長の機会を与えるという、長期的な視野も持てずにいたのです」

 さらに、西本さんは「それまで部下とのコミュニケーションは、仕事の指示にとどまっていました。しかし仕事を任せるようになってから、成果に対するフィードバックをしたり、失敗をした時に何がいけなかったのか、どうしたらいいのかを一緒に考えるようになりました。部下と、本当の意味でのコミュニケーションが持てるようになったと思います」と話す。

 第2期のプロジェクトでは、「ウィメンズフォーラム」に男性のスーパーバイザーや店長が参加し、キャリア研修をともにしている。また、これまでは、店長とスーパーバイザーとの業務に関する面談が毎月行われていたが、このほかにキャリアについて話し合う場も設け、女性の昇格候補者へは、長期的なキャリアビジョンを描くための研修なども行った。

 2年間進めてきた「女性店長プロジェクト」は、前述のように現場の営業部が主体となっていた。しかし2006年10月、キャリア開発と連動した全社的な取り組みにするため、人材育成を目的とした社内研修機関である「ユニクロ大学」の女性キャリア推進チームに移管した。辻田さんは現在、スーパーバイザーの業務とユニクロ大学の女性活躍推進担当を兼務している。

 「女性店長プロジェクト」で店長の時短勤務の可能性を証明したため、これをモデルケースとしてマニュアルを作成し、全国の店舗に配布した。店舗や店長によって差はあるが、これを参考にすることで「店長の仕事は8時間で終わらせる」という共通意識が浸透してきた。さらに「有給休暇の取得促進、ノー残業デイ制定といった成果も生まれています」と辻田さん。情報誌「スタイル」にも経営層へのインタビューを掲載し、全社を巻き込んでの活動に発展している。

 「女性店長プロジェクト」が始まった当初、740人の店長のうち女性は120人程度で、既婚者は1人、出産・育児休業の取得者は皆無だった。それが現在、女性店長は150人となり、既婚者は25人に増えている。労働環境改善に勇気づけられ、それまで「仕事か結婚か」で悩んでいた女性たちが、どちらも選べるようになったことが分かる。

 辻田さんは「第1期のメンバーが、2006年に初めて出産・育児休業を取得し、今年業務に復帰しました。年末に出産を控え、大きなお腹で店舗に立っている店長もいますよ」と、笑顔を見せる。西本さんは、「以前は出産や育児でキャリアを中断することに、焦りを感じていました。でも今は、一時的に家庭に比重を置く時期があってもいいと思えるようになりました。仕事以外にも、人間的に成長できる機会を持つということですね。こう考えられるようになったのも、プロジェクトを通じて長期的な視野を持てるようになったからだと思います。夫も今では、『仕事は辞めるな』と言ってくれています」と話す。

 「ユニクロではこれまで、商品も男性が作っていました。2004年にインナー部門を立ち上げた時でさえ、男性がブラジャーを作っていたんです。現在は、インナー部門はすべて女性が担当していますし、社内で女性が必要とされる場も増えています」と辻田さん。

 しかし一方では、辻田さんが “先細り”と称するように、女性管理職者数の少なさも課題になっている。現在、女性の部長職は3人、執行役員はいない。3年間で女性の離職率の低下を実現したユニクロが、この課題にどう取り組むか。今後の動向に期待したい。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。