オリックスは東京オリンピックが開催された1964年に、米国でリース業を学んだ宮内義彦さんを含む13人が創立し、戦後の日本経済の発展とともに成長した会社だ。同社では部下が上司に語りかける時も、肩書きではなく、名前で呼ぶ習慣があるという。たとえ相手が会長であっても、社員は抵抗なく「宮内さん」と呼ぶそうだ。

 そんな自由闊達な社風を持つオリックスが、人事部内にダイバーシティ推進担当者を2人配置したのは、2007年4月のことだ。このプロジェクトは同社を含むグループ会社約20社で取り組むことが決まったが、取材時点では、プロジェクトが正式に産声を上げてから半年しか経過していない。

人事グループ副部長ダイバーシティー推進担当の斉藤幸代さん(写真:山田 愼二、以下同)

 実はオリックスでは、その数年前からダイバーシティー環境の下地を作る試みが進んでいた。「会長・グループCEOの宮内義彦が、2006年に『Keep Mixed』という言葉をオリックスグループのスローガンに掲げたのです。それからは、異なった価値観を持つ社員が一緒になって力を発揮できる職場づくりを意識し始めていました」。そう語るのはダイバーシティ推進担当の1人で、人事グループ副部長の斉藤幸代さんだ。

 さらに以前からオリックスには、女性が活躍してきた歴史もあった。大学卒の女性を総合職として採用し始めたのは、1982年。男女雇用機会均等法が成立する3年も前のことである。現在、グループの中核を担うオリックスでは、社員3400人のうち1397人が女性だ。総合職の女性は670人で、全総合職の3割弱を占めている。また、子供を持つ女性社員は250人と、出産後も仕事を続ける女性も多いことを物語る。


女性管理職の少なさが、プロジェクト発足のきっかけ

 このように女性の定着率が高い企業でありながら、ダイバーシティー推進プロジェクトへの正式な着手は、他企業よりも出足が遅いように感じられる。斉藤さんはその理由をこう述べた。「前述のように弊社では、もともと女性は男性と同等に働く会社だという自負がありました。今さら『女性のために』を強調するのは、『逆差別ではないか』『違和感を覚える』といった意見があったのです」

 「しかし管理職の数を検証し直してみると、例えば本体であるオリックスの女性管理職(同社では課長代理以上を管理職と呼ぶ)の比率は、12パーセントにとどまっていました。女性部長は3パーセント以下で、女性の役員はまだいません。総合職の女性が20年以上も活躍している会社なのに、管理職比率という面ではトップランナーだと胸を張れないのではないかという認識が、本格的なダイバーシティ推進活動に踏み切るきっかけとなったのです」

 プロジェクト開始後の活動を、斉藤さんは説明する。「4月、グループ全体の社員を対象にアンケートを行い、男女の意識差、管理職(女性も含む)と女性との間に存在する意識差を比べました」。このアンケートには、もう1つの目的があった。会社が本気でダイバーシティーに取り組んでいくという姿勢を、全社員に示すことだったという。

 「5月には、部長グループ、中堅クラスのグループ、若手男性のグループ、若手女性グループなど階層別に15回の意見交換会を設けました。これには合計で80人が参加しました」

 その結果、いくつかの課題が明らかになった。まず、上層部にはダイバーシティー推進に取り組む意志があるものの、会社全体としての機運の高まりに欠けていること。また、女性の意識が低いこと、管理職の意識が固定的であること、ワーキングマザーへの配慮が十分とは言えないことなどだ。

 これを基に斉藤さんらダイバーシティ推進担当がアクションプランを策定した。「1つ目のプランとして、8月と9月に国内グループの女性社員を対象にフォーラムを開きました。8月は管理職の女性社員約150人が集まり、役員がダイバーシティー推進の必要性について説明しました。また、基調講演として当時西京銀行の副頭取をしておられた銭谷美幸さん(現ポラリス・プリンシパル・ファイナンスマネージングディレクター)にお話をいただきました。また、他社の女性管理職を交えてパネルディスカッションを行い、働く原動力、組織責任者としての醍醐味、チームマネジメントなどについて意見交換しました。

  9月には主任・中堅クラスの女性社員を対象にフォーラムを開き、約170人が出席するなかCEOの宮内やグループ会社の社長が女性の活躍に期待する応援メッセージを送りました」

 フォーラムの参加者からは「今後の活動の参考になった」「士気が上がった」などの評価を得たものの、「男女差を意識せずに働ける社風なのに、なぜ女性だけを集めるのか」と抵抗感を示す意見も寄せられた。斉藤さんらは、基本的には成功を実感しているものの、そうした意見を重視して、来年度からは男女共に参加できるフォーラムも視野に入れている。

 アクションプランの2つ目は、社内報のウェブ版で「Keep Mixed Report」という連載を開始したことだ。初回はフォーラムの報告を載せ、今後はロールモデル(お手本となる社員)を紹介するほか、育児休暇を取った男性や外国籍で管理職に昇進した社員の体験談を取り上げた記事を掲載する予定だ。

子供を持つ女性への具体的な施策

 オリックスグループ全女性社員のうち、子供を持つ人は13パーセント。彼女たちがより働きやすい環境をつくるため、2007年4月に従来の育児制度を拡充した。まず、休職期間は「子供が3歳の誕生日を迎えるまで」に延長した(従来は満1歳の誕生日まで、もしくは条件により1歳6カ月、または1歳到達後の最初の4月末日まで)。また、短時間勤務については「子供が小学校を卒業するまで」を取得可能期間とし、「1日最大2時間」を認めることになった(従来は小学校就学前まで1日最大1時間)。

 また、社員が自らの事情に合わせて出勤時間を調整できる「フレックスタイム制度」を導入。これは一部の部門に限って設けられたが、その他の部門でも育児や介護に携る社員には、特例としてフレックスタイム勤務を認めている。

 会社がパソコンを支給し自宅で働ける「ホームオフィス」環境は、2006年10月に整備済みだ。子供を迎えにいくために早退の必要があるなど、勤務時間が制約される男女52人が、「ホームオフィス」環境で就業している。

 「子供を持つ人が働きやすくなった半面、就業時間の制約が社員によって異なるという状況が生まれています。その結果、『上司が部下の仕事をより正しく評価しなければいけない』という課題が浮上しています。就業時間だけでは見えない実質的な成果を重視する新しい評価制度を、早急に設ける必要がありますね」と斉藤さんは語る。

 プロジェクトが始動して半年が経過し、社内でのダイバーシティーの認知度は高まっている。しかし、前述のように「女性が活躍するのが当たり前」というオリックスの社風と、「全社的に良好な業績を積み重ねてきた」ことがもたらす問題点もある、と斉藤さんは指摘する。

 「これらの理由で、会社全体に危機感が欠けている面が否めない。現状に不満がなく、新たな変革を起こす必要性を感じない社員が少なくないのです。この状況の中で、ダイバーシティを推進する必要性を社員に強く理解してもらうのが難しいのです」。

 2007年下半期には、管理職を対象にワークセッションを行う予定だ。「まず各部署のトップは自分の部署の女性の活躍度を把握します。それを全社の平均と比べることで自分の部署に内在する課題を探り、何度かのディスカッションを通して解決を図るのです。部長クラスと課長クラスに分け、2008年の3月までには少なくとも10回のワークセッションを行う予定です」と斉藤さんは言う。

 社内で細やかなヒアリングを行い、女性の現状を把握する必要もある。それぞれのスキルやキャリアプランに応じて、最大限力を発揮できる職場を提供することも、プロジェクトの役割だと斉藤さんは感じる。「男性と比べ、女性は一部門に長くとどまる傾向があります。しかし、根拠を示しつつ積極的に人事異動を促すことで、女性にチャレンジする機会を提供すべきです。それによって会社は必ず活性化するはずです」

営業部門で働く女性を支援する

東京営業本部システム営業部マネージャーの渋谷直美さん

 女性管理職の数は、管理部門よりも営業部門の方が少ない。2007年9月末日で、女性管理職124人のうち営業に携るのは約30人だ。1996年11月にオリックスに転職し、2002年に課長代理に昇格した渋谷直美さんは、営業部門の女性管理職の1人である。現在は東京営業本部システム営業部でマネジャーを務める。

 「オリックスに入社して感じたのは、女性が営業の最前線で働くのが当たり前だという社風が定着していることです」と渋谷さんは言う。「現在は7人の部下がいますが、そのうち3人が女性。ここに転職してきた男性の中には、上司が女性であることに驚いた人もいます(笑)」

 渋谷さんの言う通り、営業部門に配属される女性は少なくないが、管理職のポストに就く以前に、出産や育児などをきっかけに管理部門に異動する女性が多いのだ。「営業の仕事は達成しなければならない数字目標があるので、常に大きなプレッシャーを背負っています。一度営業部門から離れると、“数字の世界”に再び戻るには勇気が必要かもしれませんね。しかも、時間的に計画的な管理が難しい職種でもあります。それらが、子供を持つ女性の営業職社員数が増えない理由でしょう」とまだお子さんをお持ちでない渋谷さんは語る。

 「営業職では、業務以外にクライアントと会食するなど、アフターファイブの付き合いもあるので、帰宅後に家族との時間をつくるのは難しい。家族とゆったり過ごせるのは週末だけですね」。それでも、入社以来営業部門で働いてきた渋谷さんは、今後もこの仕事を続ける強い意志を持っている。「最近は、営業部門でも女性の活躍が増し、今年の10月には新たに10人の女性が課長代理に昇格しました。若い世代の女性は私の背中を見ているわけですから、お手本になるような存在でありたいと思います。特にダイバシティー推進プロジェクトの発足後、自分がロールモデルの1人であることを意識するようになりました」

 自由闊達な企業風土を築いてきたオリックスが、ダイバーシティーの分野で多くの企業に模範を示すようになる日は遠くないかもしれない。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。