食品大手のカゴメが、初めて女性活躍推進プロジェクトを立ち上げたのは、2006年9月。その背景を、プロジェクトの事務局およびメンバーとしても参加した、カゴメ人事総務部人事グループの芦原幸子さんはこう語る。

 「少子高齢社会で労働力不足が深刻化する中、カゴメでは多様な人が働ける企業を目指し、特に3つの視点から人材活用に取り組んできました。40代から部長職を任せるといった『若手の登用』、定年退職者を再雇用する『高齢者の活用』、そして『女性の活用』です。しかし、3つ目の女性活用に関しては後れを取っていたため、女性の活躍を求めるためのプロジェクトが必要になったのです」と芦原さんは言う。「また、食品メーカーである当社では、購買者の約7割が女性。商品開発や販売戦略などにおいて、女性の視点が欠かせないということもあります」

カゴメ人事総務部人事グループの芦原幸子さん(写真:皆木 優子、以下同)

 カゴメの女性総合職の離職率は、入社5年で約4割もあるという問題を抱えていた。ただ、芦原さんによれば「入社5年で離職率約4割」という数字は、食品業界全般に共通するという。「カゴメでは、仕事と家庭の両立支援制度に関してはできるだけの手を尽くし、先進企業にも引けを取らないと人事部は自負しています。それにもかかわらず女性総合職社員の定着に結びつかないのは、もしかしたら男性の発想で作られた制度だからではないのか。ある程度制度が整った後は、制度の利用当事者である女性の視点から、働きやすい職場環境を実現するには何が必要なのかを考えてもらいたい、という意向もありました」

 女性活躍推進プロジェクト名は、「Lylyco Frontier Spirit」という。「Lylyco」とは、トマトジュースに使用される加工用トマトの品種名。「自ら主体的に行動し、生き生きと働ける会社をつくる」という意味で、「カゴメらしく、凛々しい女性を想起させる名称」としてつけられた。プロジェクトは、通称「リリコプロジェクト」と呼ばれ、メンバーは入社5年目以上の女性社員を対象に公募。20代半ばから30代後半を中心に、独身・既婚、営業職・研究職・企画職・事務職など、様々な立場の女性14人が選出され、後に1人増えた。

 「リリコプロジェクトでは、女性が長く生き生きと働ける会社にするための施策を考え、経営者に提言することを目的とした一方、女性の職業意識を向上し、主体的に発言、行動するための研修的な側面も重視しました」と芦原さんは話す。

 プロジェクトの期間は6カ月。1カ月に1度、東京で1泊2日のワークショップを行う。芦原さんは、「ワークショップでは、講師が生徒に教える一方通行のものではなく、ファシリテーターの問いかけに、参加者が当事者となって考えて発言する、という、双方向のコミュニケーションを大切にしました」と言う。その中心となったのは、プロジェクトメンバーが2人1チームとなって活動する「プチプロジェクト」だ。


 これは、各チームが課題を設定し、解決に向けて調査、情報収集、分析などを行うもの。「女性が長く生き生きと働くために必要なことは何か」という大きなテーマに対し、7チームは「同僚や上司とのコミュニケーションがポイントになるのでは?」「モチベーションの維持が大切」「多様なワークスタイルを選択できる仕組みが必要」「長時間労働が問題」といった課題を挙げ、それぞれの課題解決のために、社内アンケートや他社へのインタビュー、退職者へのヒアリング調査などを実施した。こうした作業は、通常業務の合間を縫って、自主活動としても行われた。そして、収集した情報を分析し、リポートにまとめ発表した。

主体的に仕事に取り組めるよう、自己変革を促す

 芦原さんは、「女性は、与えられた課題を遂行する能力に長けていると言われます。しかし、無から概念化して課題を見つけ出すのは苦手な部分もある。それは、女性がそうしたことを学ぶ場がこれまでなかったためでしょう。プチプロジェクトでは、無から有を生み出す一連の流れを体験することで、女性が主体的に仕事に取り組むよう自己変革していくことも狙いでした」と話す。

 7つのチームから得られた成果は、最終的に1つにまとめ、経営者への提言としてプレゼンテーションを行った。まず「女性活躍推進に必要な3つの要素」として、「カゴメにとって女性活用は必要である」という全社員の共通認識、部門間・上司と部下など様々なコミュニケーション、部下育成や明確な仕事配分といったマネジメントの重要性を提示。さらに、それらを具現化するために必要なことを、「経営に求めること」「自分たちが実行すべきこと・チャレンジしたいこと」の双方向から提案したという。

 「例えば前者は、『共通認識』を作るために、経営戦略に女性活用も取り入れてほしい、トップが本気で女性活用に取り組んでいると繰り返し発信してほしい、と経営に求めました。また後者については、女性が会社で必要とされる人材になるよう、自己研鑽するといった宣言も行いました」

 経営陣へのプレゼンテーションでは、2人がファシリテーターを務めたが、メンバー全員が発表を行った。「15人の意見をまとめるだけでも、大変な作業でした。全員女性ではありますが、それぞれが様々な価値観を持っているため、『女性はこう考えています』とひとくくりには言えません。多様な女性像を示すためにも、全員が発言の場を持ちました」

 リリコプロジェクトの活動を通して、メンバーたちはチームワークやネットワークの構築、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルの向上、仕事への責任感や達成感などを得られた一方で、経営側にも新たな気づきをもたらした。「これまで社長は『女性の活躍推進』というと、誰もが憧れを持つようなロールモデルを提示すれば、それを目指して活躍する女性が増えるものだと考えていたようです。でも、提言を聞いた後では、女性はネットワークを大切にしながら、ゆっくりと成長していくイメージがつかめたとのフィードバックがありました」と芦原さんは言う。

 半年にわたるリリコプロジェクトは2007年3月に終了したが、このプロジェクトで得られた成果を、現場の管理職や女性とも共有することを目的に、4月からの半年間は全国14カ所での事業所キャラバンを実施した。芦原さんは「キャラバンでは、双方向のコミュニケーションが取りやすいよう机は介さず車座になり、1回につき90分の時間をかけてプレゼンテーションを行いました」と話す。

 「リリコプロジェクトが始動した当初は、カゴメ初の女性活躍推進プロジェクトだったこともあり、『ウーマンリブ活動なのか』と誤解されることもありました。会社も手探りの状態でしたし、『認められたいけど、目立ちたくない』という、女性たちの複雑な心理も働いて、大々的にプロジェクトのアピールを行うような雰囲気はありませんでした。社長への提言でコミットを得られ、事業所キャラバンを行ったことで、ようやく全社員に活動が浸透し始めたのです。東京支社や大阪支店では、支店方針に女性活躍推進という項目が盛り込まれるなど、積極的な理解も得られるようになりました」

 2007年10月からは、入社3年目以上の女性社員を対象とした第2期リリコプロジェクトが始動。12人のメンバーが、新たな課題に取り組んでいる。また、第1期のメンバーに対してアドバンスコースを新設し、継続的な教育も行っているという。

カゴメ広報部広報グループ課長の曽根智子さん

 女性活躍推進に取り組む企業では、女性管理職の登用を目標に掲げるところも多いが、カゴメではまず離職率の低下を第一義としている。現在、広報部広報グループ課長の曽根智子さんは、化粧品、宝飾会社を経て、2003年にカゴメ初の女性総合職キャリア採用で入社した。入社した当時の印象を、曽根さんはこう話す。

 「私が出産した10年前は、ここまで会社が両立支援制度に力を入れる時代ではありませんでした。総合職の女性は数多くいましたが、当時は結婚や妊娠を機に退社する人が多かったですね。カゴメに入社して驚いたのは、業界の特性はあるとしても、この時代でも、入社5年で4割もの女性総合職が辞めてしまうのかということでした」


数の多さが強みになる

 その要因に、曽根さんは「女性が常にマイノリティーであること」を挙げる。「現在、女性管理職は、私を含めて3人のみ。ほとんどの職場は、男性上司に女性部下という構造で成り立っています。カゴメ以前の会社にいた頃はあまり意識したことがありませんでしたが、女性総合職や女性管理職が当たり前のようにいる環境は、それだけでも強みになります。常に女性がマイノリティーの立場では、言いたいことややりたいことが主張しにくく、仕事に対してもハングリーになりきれないのかもしれません」

 そんな中、リリコプロジェクトが果たす役割は大きいと、曽根さんは言う。「短期間で現状を改善するのは難しいでしょう。まずは働き続ける女性社員を増やすこと。そのために、リリコプロジェクトを通じて女性のネットワークが広がり、悩みや問題を共有できたり、違う視点に気づけたりすることは、大きな力になるはずです」

 また曽根さんは、キャリアを継続していくためには、両立支援制度の整備や拡充だけではなく、本人の自覚と意志も必要だと話す。「仕事に対するモチベーションや目標値は人それぞれだと思いますが、自分が何をやりたいのか、どうなりたいのかという意識を明確に持っていてほしいと思います。そのためにはどうしたらいいのかという視点から、自分の仕事への取り組み方を見直してみることも大切でしょう。こうしたことを意識しながら仕事を継続していくことが、おのずと成果につながるのではないでしょうか」

 カゴメが当面の目標に掲げているのは、女性総合職の入社5年で約4割という離職率を半減すること。現在のところ、入社3年での離職者はゼロだという。カゴメの女性活躍推進はまだ始まったばかりだが、一歩ずつ、着実に成果を求める姿勢が印象的だった。

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。