「パイオニアでは年に1回、国内、北米、欧州など世界各国のグループ企業の管理職を一堂に集めて、全体会議を実施しています。毎年1500人程度の管理職が集まりますが、その席上で伊藤周男前社長は、日本には女性管理職がほとんど見られないことに危機感を抱いていました」。そう語るのは、パイオニア人事部女性活躍支援センター所長の松宮由季さんだ。

パイオニア人事部女性活躍支援センター所長の松宮由季さん(写真:山田 愼二、以下同)

 パイオニアには、係長・主任クラスの「基幹職」と、課長職以上の「管理職」という分類があるが、課長以上の女性がほとんどいなかった、ということになる。

 伊藤前社長は十数年前、国際本部長を務めていた。この頃を振り返ると、優秀な女性部下が多数いたという。しかし、彼女たちが管理職として残っていないのはなぜなのか、という疑問を持った。そこで2004年6月に、意欲と能力のある人材の活用、多様化への対応を目的とした「Gプロジェクト」を、社長直轄の組織として発足させた。Gプロジェクトの「G」はジェンダーの意で、性別にかかわらず能力を発揮できる環境つくりを目指し、まずは女性の活躍支援に着手することとなった。

 メンバーは、当時モバイル エンターテイメント(カーオーディオ)事業部で、各国の電波規制対応を支援する部門の課長だった松宮さん、そしてコーポレートコミュニケーション部でブランドマネージメントを担当し、現在はGプロジェクトのリーダーを務める森里洋子さんのほかに、基幹職(係長・主任クラス)・管理職(課長職以上)から3人の女性が選出された。また、人事部、経営戦略部、総務部などから4人の男性社員も加わった。

 「メンバーは初対面の人も多く、それぞれどういう立場でどのようにプロジェクトの活動を考えているかをディスカッションし、お互いを知るところから始めました」と松宮さん。まずは現状を把握しようと、女性社員や退職者へのアンケートやヒアリングを行うなど情報収集に注力した。

 松宮さんは、「女性社員へのアンケートでは、『ロールモデル(お手本となる人)がいない』という意見から、『3年後、5年後の自分の姿を描けない』『このままパイオニアにいて成長していけるのか』といった不安の声が多数寄せられました。さらに退職者へのヒアリングでは、能力がある女性ほど自分の力を社内で発揮できず、可能性を求めて転職したり留学したりするケースが多く見られ、職場環境や風土改革の必要性を痛感しました」と話す。

 また、「女性の活躍支援の本格始動を喜ぶ声が聞かれる一方で、『男性差別』や、逆に『女性蔑視』になるのでは、という意見もありました。しかしこうした意見は、女性の活躍支援に関心があるからこそ出てきたのだと考えられます。この人たちに納得してもらえれば、支援してもらえる可能性がある。こうした活動で一番意識しなければいけないのは、無関心の人たちですね」と松宮さんは指摘する。


 「情報収集に努めた初年度以降は3年間の計画を立て、2005年度は『つながる』、2006年度は『拡がる』、2007年度は『根づく』というキーワードを掲げて活動を進めてきました」と森里さんは言う。2005年、2006年度は、女性社員の「ネットワーク構築の基盤づくり」「ネットワークの拡大と強化」を実現するため、基幹職の女性社員を対象に「パイオニア・ウイメンズ・フォーラム」を開催。Gプロジェクトの活動目的や経営トップからのメッセージを伝えるほか、社外講師による講演、女性管理職によるパネルディスカッションなどを行い、これまで行き来のなかった女性社員同士の交流の場を提供した。

パイオニアコーポレートコミュニケーション部ブランドマネージメントグループ副参事の森里洋子さん

 そのほかにも小規模のセミナーを実施したり、活躍する女性社員へのインタビューを社内報やイントラネットに掲載するなど、主に女性への啓発を中心に活動を推進したという。

 「Gプロジェクトでは、職場環境や風土改革、女性社員の意識向上を主眼に置き、現場に密着した活動を行ってきましたが、さらに活動を加速させるためには、支援制度の拡充や人材育成、採用活動などにも取り組む専任組織が必要だと感じていました」と森里さんは話す。

 そこで2007年5月には、人事部内に「女性活躍支援センター」が設置され、松宮さんが所長に就任した。入社以来、技術畑を歩んできた松宮さんには戸惑いもあったと言うが、森里さんは「Gプロジェクトのメンバーでもあり、現場をよく知る松宮さんが所長になったことは、とても心強く思いました」と言う。

 女性活躍支援センターの設置により、2007年度はGプロジェクトとの連携で、より具体的な施策への取り組みが始まった。その1つが、「メンター(主に年長の相談相手)制度」の導入だ。今期はまず、女性管理職に対し役員がメンターとなった。当初は四半期に1度程度面談の機会を持つよう推奨したが、実際には毎月1度、1回につき1時間程度のペースで面談が行われているという。


女性社員に“縦のつながり”をつくる

 松宮さんは、「自身がロールモデルである女性管理職は、ともすれば孤立しがちです。私も管理職となった当時は、何のトレーニングもなく突然の辞令で課長職を任され、年上の男性部下がたくさんいる中、どうすればいいのか戸惑いました。メンター制度の導入で、女性管理職は仕事上の悩みを相談できるだけでなく、役員の経営哲学や人生観などにも触れることで広い視野を得られます。一方、役員は女性社員に対する理解を深めることができます」と言う。

 さらに来期からは、新入社員の女性に対し、基幹職の女性社員をメンターとする予定だ。松宮さんは、「女性社員の横のつながりだけでなく、縦のつながりをつくることで、悩みを話しやすい環境をつくると同時に、基幹職の女性社員に部下育成の実務経験を積ませるのが狙いです」と話す。

 また、仕事と家庭の両立支援制度の拡充では、テレワーク(在宅などによる勤務)制度の導入に向けて、今年3月にもトライアルの実施を検討中だ。森里さんは、「私が第1子を出産した十数年前は、周囲にワーキングマザーはほとんどいない状態でした。育児休職中は取り残されてしまうような不安感があり、会社から社内報を送ってもらったり、後輩を自宅に招いて情報を得たりしていました」と当時を振り返る。

 「現在は、復帰前に上司と面談を行う『復帰プログラム』もありますし、短時間勤務なども整備(フレックスタイム化)され、両立支援制度はとても使いやすくなっていると思います。こうしたツールをうまく利用して、働き続ける女性が増えていくことを期待しています」

 4年間にわたって活動してきたGプロジェクトは今期でその役目を終え、来期からは女性活躍支援センターがバトンを受け継ぐ。松宮さんは、「決して数字ありきの目標ではない」と強調したうえで、今後は設定した活躍指数を視野に入れた活動を行っていくという。

 具体的には、現在1.2%という管理職における女性比率を2010年には2%に、また、新卒採用者における女性比率は、2008年4月入社の約10%から2011年4月入社では約20%を目標にする意向だ。松宮さんは、「活躍する女性が増え、働きやすい環境が整えば、おのずと結果となって表れるはず」と話す。

 「特に、オーディオ機器やカーナビゲーションといったパイオニアの主力製品開発には、女性とはなかなか結びつかないイメージがあります。そこで就職セミナーなどでは女子学生にも認識を深めてもらえるよう、社内で活躍している若手女性エンジニアにモノ作りの魅力を語ってもらうなどの活動を行っていきたいと考えています」

 森里さんは、「プラズマテレビといった家庭のリビングに置かれるような製品は、女性の購買決定権が強い傾向にあります。また、男性は機能面を重視しますが、女性はデザインや掃除のしやすさといった面にも目を向けます。そうした顧客のニーズに応えるためにも、開発には男女双方の視点が大切でしょう」と話す。

 ダイバーシティー推進の取材を行っていると、担当者が必ず挙げる課題に「男性管理職の意識改革」がある。だがパイオニアでは、これはあまり問題になっていないようだった。その点について聞くと、松宮さんは「パイオニアはアットホームな社風なので、女性に対して過保護に接する男性管理職がいる一方で、性別に関係なく個人の資質を見ることができる男性管理職もいます」と答えた。

 「私がパイオニアに入社したのは、男女雇用機会均等法施行直後。当時はエンジニア100人のうち女性は私1人という状況でした。私に対して、どう接していいのか分からず戸惑う男性社員もいましたし、会議で発言すると『女のくせに』と言われたこともありましたね。でも、エンジニアの世界は結果がはっきりと出ます。きちんと仕事で成果を上げれば、認めてもらえます。パイオニアには、そうしたいい風土も根づいているのです。大切なのは意識改革を推し進めるというより、まずはコミュニケーション、相互理解だと思っています」

日経ビジネス電子版から転載。
日経BP総合研究所 大塚葉が担当した記事を再掲。