コラム 黒の志 2018 Summer

臼井 清 志事創業社 代表

新規事業に悩める会社員よ、ここに集え!事業開発アーティスト『青黒塾』

青黒人材が新ビジネス創出には必要

 青い志を大きく育み、腹黒い利益計算もしっかり身に付け、「青黒く」自分も社会も前向きになるビジネスを創ろう。そんな壮大な構想を実現するための講座がいよいよ具体化する。

 このように、本気満載でこのプログラムを企画しているが、蓋を開けてみたら参加希望者がゼロなどという大失態になるかもしれない。なにせ、初めての試みだ。ネーミングも少し不真面目である。資格習得講座ではないので、タイトルだけでは何が身に付くのかよく分からない。「面白そうな気もするけれど、参加して失敗するのも嫌だなぁ」と、尻込みする方が大半ではないか。しかし、意図するところは「気にはなるけれど、先が見えないのでやめておこう」という、まさにその後ろ向きな気持ちを変える機会を用意したということだ。自分や会社、社会の可能性を広げ、わくわくする世界を創るためには、「失敗」を楽しむ心と姿勢を身に付ける必要がある。

「失敗」とはチャレンジしないこと

 「私、失敗しないので」という決め台詞の女医先生が大活躍するドラマが人気を博している。確かに「失敗しない」と断言されると、自分の命をこの人に委ねてもよいほどの頼もしさを感じる。

 一方で、失敗に対していつも怒られているビジネスパーソンが「失敗を恐れず挑戦しよう!もし何かあったら、自分が責任を取る!」などと言ってくれる上司に出会えたら、この上司を「神」としてあがめ、自分の幸運に酔いしれることになるのではないか。

 裏返して言えば、私たちは「失敗」を日常的に起こり得ることと認識しながら、できればしたくない、避けて通りたいとネガティブに捉えている。でも「失敗」はそれほど悪いことだろうか。そもそも「失敗」とは、どういう状態のことをいうのか。期待した結果が出ないこと、自分の評価を下げてしまうこと、時間と手間を無駄に使ってしまうこと。ビジネスパーソンの考える「失敗」とは、こういったことかもしれない。私は、本当の「失敗」とはチャレンジの機会を自ら閉ざしてしまうことだと考えている。

成功するまでチャレンジするという意味

 「マシュマロチャレンジ」というものがある。用意するのはスパゲティ(ゆで上げ前の乾麺)、テープ、ひも、そしてマシュマロ。これらの材料を使い、18分間で、いかに高い「塔」を建て、てっぺんにマシュマロを載せるかをチームで競うゲームだ。チームビルディングや、PDCAサイクルなどを体感する手法として、様々な「教育」場面で採用されている。

 面白いことに、このマシュマロチャレンジは、大人チームより子どもチームの方が、成績が良いという結果が出ている。なぜ、そんなことになるのか。

 それはトライ&エラーの数が、子どもチームの方が大人チームよりも圧倒的に多いからだ。緻密な計画を立て、これで大丈夫だろうと最後にマシュマロを載せると、こんなはずではなかったという結果になるのが大人チーム。一方、子どもチームは、脈絡もなくあれもこれも試しているうちに、いつの間にか高く積み上げてしまう。

 ここから得られる教訓は様々だが、注目したいのはゲームへの取り組み姿勢である。PDCAサイクルが大事と「慎重に」事を進める大人に対して、子どもは「笑顔で」ゲームを楽しんでいる。だからこそ、サイクルが何度も回る。「失敗は成功のもと」を頭では分かっているはずの大人は、サイクルが回らない。その差は、自分がしていることを楽しんでいるかどうかだ。大人は「勝ち」という成果を重視するあまりに、失敗のプロセスを楽しめない。

 マシュマロチャレンジの教えは、挑戦の過程を面白いと感じることができるほど成果も得られるというもの。よくいわれる「成功するまでチャレンジし続けることが大事」を実現するには、「失敗」を楽しめる面白いプロセスを、デザインすることが必須だ。

「面白さ」のデザインはアンラーニングから

 この面白さのデザインは容易ではない。「面白い」は定量的に測れるものではないし、人によって感じるポイントはまるで異なる。体調一つで感じ方が変化するし、何より「面白い」には旬がある。同じチャレンジでも、氷水をかぶるバケツチャレンジは、あっという間のブームに終わってしまった。過去のはやりをなぞるだけでは、面白さをデザインすることはできない。「つまらない」も含めてたくさんの経験を積み、感性を磨くしかない。

 そこで重要なのがアンラーニングである。自分に身に付いた考え方や日常の振る舞いを、一度外してみる。パターンをあえて壊してみることが大切だ。これは新規事業を考える上で有効になる。

新規事業開発の成否は「笑顔」

 「ゆふいんの森」や「ななつ星in九州」などで有名なJR九州。2016年には東証一部にも上場。営業収益は2018年3月期で8期連続の増収と、絶好調。立ち上げる新規事業が、ことごとくヒットを飛ばしている。

 鉄道会社の事業は、旅客、貨物の移動手段の提供だが、この定義に従うとJR九州の市場は非常に厳しいと言わざるを得ない。大都市圏を抱えるJR東日本やJR東海とは異なり、JR九州は域内の人口が少なく移動機会が限られているからだ。そこで、JR九州はこの事業の定義をアンラーニングした。その結果、速くて安い移動ではなく、乗客への「楽しい時間」の提供となった。自らを変えたことでこれまでのデメリットがメリットになったのだ。

 さらにJR九州がすごいのは、地域の方と一緒に、「面白さ」を盛り上げることを徹底して追求しているところ。例えば、列車のホームから、満面の笑みをたたえて、見送りで手を振る地元の人々。元々は過疎の対策として、ひょっとすると必死の形相で始まったことなのかもしれないが、今は「笑顔」で楽しんでいるように見える。このように、JR九州は事業の定義をアンラーニングして、自社はもとより地域の方と一緒に、新規事業を創造する面白さのデザインに成功している。

(写真提供:JR九州)

「失敗」になじみ、楽しむ場

 残念ながら、このアンラーニングを既存の会社組織の中で体感することは、非常に難しい。特に、役割が明確になっている組織ほどパターン化が進んでいて、アウトプットに向けた生産性こそが重要な指標になっている。そもそも、チャレンジの面白さをデザインする動機は、組織の中では生まれにくい。

 面白さをデザインする力、言い換えれば「失敗」を楽しむ力を養うためには、会社の外に機会を設ける必要がある。大事なのは、その機会が安心な場であること。思いつくままに発言したり行動したりすることが、許されていることが重要になる。また、自分がこれまで会ったこともない人と出会えることも大切だ。多様な意見に触れて、自分を知り他人の知見と協働する経験を積める場所。それが自分の人生や社会を面白くデザインする際の「ベースキャンプ」になる。

 青黒塾は、こうした場をつくり出す手伝いをする。通常のビジネスセミナーでは講演しないようなゲストの方から刺激を受け、「そんなのありですか」と、普段考えたこともない話題で真面目に議論を交わす。ここは、あなたの仕事はもちろん、人生を面白くデザインする具体的なアイデアやヒントが得られる場である。

 何より、青黒塾開講までのいきさつが、失敗を楽しむ面白さのデザインそのものだ。

臼井 清 志事創業社 代表

臼井 清 志事創業社 代表

1984年に諏訪精工舎(現・セイコーエプソン)に入社。大阪を振り出しに台湾や英国、ドイツでマーケティングと人材資源管理(HRM)を中心に経験を積む。2014年に「人生を豊かにするチャレンジ」を応援するコンサルティング会社「志事創業社」を設立。各種研修/セミナーのプロデュース、ファシリテーション、顧客開拓マーケティング、企画・運営などを手掛ける。

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