コラム 黒の志 2019 Summer

臼井 清 志事創業社 代表

新規事業に悩める会社員よ、ここに集え!事業開発アーティスト『青黒塾』

青黒塾で“既存の枠組み”を外せ

 昨年、何とも怪しいネーミングで開講した「青黒塾」。思い付きの企画で終わることなく、今期も実施することが決定した。「青い」志や感性を鍛えて、腹「黒い」振る舞いやロジックを磨くという内容が、今の時代にふさわしいと、評価いただいた結果だと思っている。ありがたい話だ。たまに会う第1期の塾生たちが事業開発アーティストとして活躍している姿を見ると、なんとも頼もしい限りである。

「アート」はビジネスパーソンに必須?

 ビジネスパーソンの話題に、アートが徐々に浸透してきているようだ。ビジネス街の大型書店では、目立つところにアートに関わる書籍が並ぶようになった。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(山口周著、光文社)
『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』(木村泰司著、ダイヤモンド社)
『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』(ニール・ヒンディ著、クロスメディア・パブリッシング)
『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(増村岳史著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
等々…。

 「ビジネスエリートを目指すなら、アートは学んでよね!」と言わんばかりだ。

 あるいは、AI(人工知能)時代の「教育」はSTEM(S=Science科学、T=Technology技術、E=Engineering工学、M=Mathematics数学)に加え、A=Art(美術)を含めたSTEMAが重要という議論が出てきたり、ユニコーン(巨大ベンチャー)企業の代表である米エアビーアンドビーの創業チームのアーティスト出身者が話題になったりと、アートがビジネスパーソンの気になるトピックスなのは間違いない。

 もともとアート好きな私としてはうれしい事態なのだが、これまでアートに興味や関心のなかった方が、こうしたトレンドに影響を受けて「ビジネスに役立てたい」という一心からアートを学ぼうとすると、相当に窮屈で退屈で苦痛な想いをするのではと思う。

役に立つか立たないかの外側の視点

 アートがビジネスに役立つのは間違いないのだが、「じゃあ、どう役立つの?」と質問されて、説明を重ねれば重ねるほど自分が感じている「お役立ち感」から遠のいてしまう。自分の説明力不足は認めるものの、そもそも「役立つ」とか「役立たない」とかの既存の枠組みの外側にアートの魅力や可能性があり、「ロジック」だけでは見えなかった世界が広がっているのだから、これまでの「尺度」を使って伝えること自体が間違っているのかもしれない。ノーベル賞受賞者の大隅良典・東京工業大学栄誉教授も言っている。「『役に立つ』という言葉が社会をダメにしていると思っています。本当に役に立つと分かるのは10 年後かもしれないし、100年後かもしれない。将来を見据えて、科学を一つの文化として認めてくれるような社会にならないかなと強く願っています」(ノーベル賞受賞会見)

 100年後にビジネスに役立つ(かもしれない)と言われて説得されるビジネスパーソンは正直少ないだろう。しかし、これまでのやり方ではどうしても解決しないと、何かすっきりしないと感じることがある方なら、アートの持つアウト・オブ・ボックス( ≒既存の価値観から飛び出す)の視点が大事であることは理解できるだろう。

「問題解決」ではない事業創造を

 「事業開発の基本は問題解決である」という定説に異論はない。マーケティング的には「相手のペイン(痛み)」を探すことが新商品や新サービスの開発の胆であることは分かる。では、突然だがここで問いたい。あなたが以下のように言われたとき、どんなビジネスアイデアを思い付くか?

 「あなたの身近に、立って歩くことができず、うまく話すこともできず、時折、大声を上げて泣きじゃくる人がいます」

 どうやらこの方は問題を多く抱えているようなので、助けてあげたいし、障害を緩和する解決策を提供しなければいけないし、そもそもこんな場面でビジネスを考えるのは不謹慎かも…などと思う方も多いのではないだろうか。これが、「既存の枠組み」である。

 一方で、「アウト・オブ・ボックス」になじんでいる方は、ビジネスチャンスがたくさん生まれてくるハッピーな場面を思い浮かべる。この“赤ちゃん”をにっこり笑って抱きかかえながら。

 「何だ、そういうことか」と感心してくれた方は、私の言わんとしていることが伝わったのではないだろうか。つまり、私たちのモノの見方や考え方は、慣れ親しんだ環境・条件の下で、かなりパターン化された「反応」になっているということなのだ。

 「地域創生を生業としているコンサルタントが視察に訪れた際に最初に聞く質問が『この地域の課題は何ですか?』というジョークがありまして」と、あるデベロッパーに話をした時に、「どこが笑えるところですか?」と真顔で尋ねられて困ってしまったことがある。課題は人によって異なる。人口減少を課題と捉える人もいるが、渋滞がなくて住みやすいと思う人もいる。問題を探すという条件を設定すれば、全てが問題に見えてくる。一度、問題として捉えてしまうと、そこに本来ある可能性に気づくことはまずない。だから、問題解決以外の視点から事業創造することがあってもいい。

フェンシングがブレーク

 東京オリンピックをいよいよ来年に控え、スポーツ熱も随分と高まっているようだが、「フェンシング・ビジュアライズド」は、ご存じだろうか。剣先の軌跡をデジタル映像技術で表すことで、フェンシングの試合を映像美のように見せる技術だ。仕掛けているのは、2008年の北京オリンピックで、日本初のフェンシングメダリストとなった太田雄貴氏。2017年から日本フェンシング協会の会長を務めている。

 フェンシングは、日本では非常にマイナーな競技。オリンピックでメダルを取りメジャー競技への道が開けたかと言えば、国内大会の観客はまばらのまま。入場料金を安くしたり、広告を打ったりしてもなしのつぶて。そこで、これまでのライブで試合を見るスポーツから、ビジュアルを楽しんでもらうエンターテインメントにしたところ、これが当たった。現在ではチケットが簡単に入手できないほどの人気という。さらにそこを推し進め、スター・ウォーズのライトセーバーを参考に「第4の種目」を企画中とのこと。もちろん、選手たちがこれまで通り研鑽を積んでの真剣勝負をしていることに変わりはないのだが、新しい「意味」を観客に提供したことで、価値が生まれ変わった。スポーツ業界の旧態依然とした体質が随分話題となった平成末期を思うと、この取り組みのすごみが増してくる。

常識の外に踏み出せ

 「オリンピックのメダリストになるような人だから、常識にとらわれない発想も浮かんだのだろう」とお嘆きの方には朗報がある。実はこの発想力は誰もが生まれながらに持っている。口になんでもモノを入れたり、落書きを好きなだけしたり、世間の常識に縛られることなく何でも好き放題したりしていたときが、誰にでもあるではないか。今は単にそれを「忘れている」だけ。実際に思い出す機会や場面さえあれば、引き出せる能力なのだ。ロジックだけでは到達できないビジネスを具現化する力。その能力に将来の仲間と一緒に気づき、鍛え合う場が「青黒塾」なのである。

臼井 清 志事創業社 代表

臼井 清志事創業社 代表

1984年に諏訪精工舎(現・セイコーエプソン)に入社。大阪を振り出しに台湾や英国、ドイツでマーケティングと人材資源管理(HRM)を中心に経験を積む。2014年に「人生を豊かにするチャレンジ」を応援するコンサルティング会社「志事創業社」を設立。各種研修/セミナーのプロデュース、ファシリテーション、顧客開拓マーケティング、企画・運営などを手掛ける。

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