第2期
リアル開発会議@びんご府中 成果編

広島県府中市で2017年から開催している「リアル開発会議@びんご府中」。2018年10月から11月にかけては、第2期リアル開発会議@びんご府中を3回にわたって実施した。食品や家具など地場産業に関連する分野で、商品化につながりそうな事業アイデアが生まれた。今回は成果編として、このリアル開発会議@びんご府中が、参加者にどのような影響を与え、その後どのような展開があったのかを紹介する。

新たな開発体験に驚く地元企業
地場産業で商品化に道筋

 広島県府中市は、多様な業種が昔から栄えてきた伝統ある産業都市だ。ただ、他の地方都市と同様、若者の流出による人口減少が大きな課題になっている。産業の活性化によって、若者にとって魅力的な働く場を増やすことが急務とされている。

 1年目だった2017年のリアル開発会議@びんご府中では、主に市内の金属系や機械系の産業を対象とした5つのテーマで議論が進んだ。対して第2期となる2018年はテーマを7つに増やすとともに、木製品や食品系といった新分野にも焦点を当てた。

 本稿では、第2期リアル開発会議@びんご府中を経験した木工業の2人と、食品加工業の1人に参加した感想を伺いながら、その後の活動を追った。

【土井木工の場合】
ユーザー、製品、伝承の視点で持続可能な木工業を目指す

 1人目に紹介するのが、土井木工 取締役の土井健嗣氏である。地元企業として「育つ家具」の議論に参加した。

 土井木工は、府中市の伝統産業の一つである家具づくりを70年にわたって続けている。かつて府中の婚礼家具が飛ぶように売れた時代は、市内に50社以上の木工業者がひしめき合っていたが、その後の需要の変化で苦戦を強いられ、今では同業の協同組合に所属する企業は18社にまで減少。土井木工は、その残った18社のうちの一社だ。

 100年以上の歴史を持つ企業がいまだに数多く軒を連ねる府中市では、創業から70年の同社であっても、飛び抜けた老舗というわけではない。だが、土井氏は「100年後のスタンダードとなる本物を目指し続ける」と、目先にとらわれない経営姿勢を強調する。同社の敷地内で出番を待つ、海外などから仕入れた質の良い木材のストックも、それを物語る。視野は世界を捉え、時間軸は100年スパンで考えている。

 一方で同社は、家具デザイナーや建築家と連携して新商品の共同開発を行うなど、新しい挑戦にも積極的に取り組んできた。リアル開発会議@びんご府中に土井氏が、社内で企画・設計・営業を担当している社員2人を引き連れて参加したのは、新商品開発への期待と同時に、社外の人と開発の議論を交わすことによる社員のスキルアップにも期待してのことだ。

土井木工 取締役の土井健嗣氏
土井木工 取締役の土井健嗣氏

産官学の多彩なメンバーが参加

 土井氏が参加したグループのテーマ「育つ家具」は、もともと、子どもが成長して大人になっても使い続けることのできる良質の木製家具の、供給からメンテナンスまでを一貫して行うサービスを考えるという内容だった。このグループに集まったのは総勢5人。土井氏のほか、市外企業の社員、市役所の職員、市内の公立学校の教員といった、産官学の多様なメンバーである。

 議論の前半では、子どもの体格の変化に追従できる家具という「ものが育つ」面だけでなく、良質の道具に愛着を抱き続ける持ち主やその家族にもたらされる「ひとが育つ」面や、メンテナンスを老舗企業や熟練職人といった地域産業が担うという「まち・仕事が育つ」面も意識したサービスにしたい、という意見などが出た。

土井木工の敷地内にある質の良い木材のストック
土井木工の敷地内にある質の良い木材のストック

インパクトがある方言でネーミング

 後半では、ネーミングに時間を費やした。コンセプトだけで商品化が動き始めることはなく、その原動力として欠かせないのが良いネーミング。土井氏には、これまでの経験で培ったこうした持論がある。

 メンバー全員が納得した名前が「BOREEE」だ。すごく良い、という意味の備後地方の方言「ぼれ、ええ」をそのまま使っている。土井氏はこう振り返る。「ネーミングの素人たちが話し合ったからこそ生まれたインパクトのある名前だ。普段、メーカーがプロのデザイナーやコンサルタントの誘導で議論する場合はつい格好良く、体裁を整えることを考えてしまう」

 以前は市民生活の中にも溶け込んでいた府中家具だったが、今では縁遠い存在になってしまった。そんな危機感が、地元の人々が分かる印象的な言葉を生み出した。

 そうして出来上がったビジネスプランが、モノ・ヒト・シゴトという3つの視点を組み合わせて、持続可能な木工業を生み出す「Bingo Furniture BOREEE」だ。

 モノの視点とは、長期間にわたって手入れをしつつ使い続ける価値のある高品質の家具を作ること。ヒトの視点とは、良質の家具と共に暮らしていくことで家族自身の成長に結び付けること。そしてシゴトの視点とは、木工の技を受け継ぐ職人が家具の面倒を見続けていくことだ。

 一見、スクラップ・アンド・ビルド全盛の現代に逆行するかのような、これら3つの視点を前面に掲げることで市内外・国内外の人たちとのつながりを生み出す。

府中市全体のブランドに

 土井氏は、リアル開発会議@びんご府中で生まれたこの名前「BOREEE」を、府中商工会議所青年部の中でスローガンとして使う考えだ。さらに、市内のイベント、例えば公立高校のインテリア科の生徒たちと連携した“BOREEE”な家具づくりのワークショップなどを開催するなど、府中市全体に広げていきたいとする。

 BOREEEを冠した第1号商品の開発も進んでいる。第1号の有力候補が、可変式の机だ。土井氏はさらに木工業の枠を超え、府中市内の様々な業種で育つ家具の要素を取り入れた“BOREEE”な商品やサービスを生み出すことを夢見ている。

“BOREEE”のブランド化を目指す土井氏
“BOREEE”のブランド化を目指す土井氏

【若葉家具の場合】
空間プロデュースをヒントに早速“部屋の中の部屋”を試作

 2人目は、若葉家具 社長の井上隆雄氏だ。

 府中市の郊外にある同社のショールームを訪問すると、木製パネルを組み合わせて作った巨大な箱「六畳箱」が展示してある。井上氏が、リアル開発会議@びんご府中で話し合った内容をヒントに試作したものだ。

 箱の大きさは6畳で、中には家具類が置かれている。“部屋の中の部屋”といった印象だ。井上氏は「リアル開発会議@びんご府中で考えていたのは屋外に置けるようなものだったが、ふと、この箱を自社のショールームの中に作ってみてはどうか、とひらめいた」と話す。

 地元の経済紙などで取り上げられたこともあり、この箱を見るためにショールームを訪れる人は多い。その評判も上々だ。「来てもらって、体感してもらうことが大切。来場者の意見を聞いて、ニーズがあることを確認できた」(井上氏)

若葉家具 社長の井上隆雄氏
若葉家具 社長の井上隆雄氏

「ものづくりのまち」ならではの空間

 リアル開発会議@びんご府中で、井上氏は「空間プロデュース」のグループに参加した。快適な暮らしを実現するために、空き家や空き駐車スペースを利用して新たな空間を生み出したり、快適な空間を創り出す家具や家電をリースやレンタルなどで提供する新しい仕組みをつくり出したりするというテーマだ。空き家や駐車スペースの空間は、高齢者が集う場、子ども連れが安心して楽しめる場といった使い方が想定できる。

 市内外の参加者が議論を進めていくうちに、プロデュースする対象は部屋や建物だけでなく、地域やコミュニティーにまで拡大することになった。議論の末に収束したコンセプトは、地域の特色を生かした空間づくりだ。今回は「ものづくりのまち」である府中市をイメージしているので、「府中クリエイティブビレッジ」と名付けた。

 議論の中で考え着いたビジネスモデルは、公園や廃校のグラウンドといった市内の公共空間に、法的な手続きなしで建てられる小屋を設置するというもの。それを店舗やアトリエとして運営する事業者に賃貸する。事業者として想定しているのは、起業家やデザイナー、クリエーターなど新しいことに挑戦する人。事業が軌道に乗れば、地域内に本拠を構えてもらい、新しい事業を手掛けたり、作品を発信したりしてもらう。そうすれば地元の企業との新たな連携が生まれるという好循環が期待できる。

 家具の単なる販売ではなく、付加価値の高いビジネスを模索している井上氏にとって、リアル開発会議@びんご府中はその可能性を探る場だった。そして、その成果はあったようだ。「今回の試作品をベースに、中に入れる家具などとパッケージにして提供する方向で進めていく。併せて、屋外用の試作にも取り組んでいきたい」と、井上氏はこのビジネスに大きな手応えを感じている。

空間プロデュースから「六畳箱」のヒントを得た井上氏
空間プロデュースから「六畳箱」のヒントを得た井上氏

【浅野味噌の場合】
地場産品で作る菓子 共同開発の連鎖も生み出す

 3人目は、浅野味噌で商品開発を手がけている浅野裕子氏。地元で栽培するショウガを活用した新商品を開発する「ショウガでSHOW」グループに参加した。

 府中は江戸時代初期からの味噌の産地でもあった。この地で創業115年目を迎える老舗の浅野味噌は、時代に合った新商品の開発に積極的に取り組んできた。現在、同社の贈答用商品で最も人気があり、年間70万個以上を販売するフリーズドライ味噌汁も、開発を継続したことによる成果の一つ。

浅野味噌の浅野裕子氏
浅野味噌の浅野裕子氏

 同社に欠かせない商品開発を受け持っている浅野氏は、これまでに味噌とショウガを合わせた商品を検討したことがあったが、商品化には至っていなかった。リアル開発会議@びんご府中で、ショウガを使った新商品の開発を議論するグループを選んだのには、そうした理由もあった。ショウガは、地元の農家が生産に力を入れ始めた注目の野菜だ。

 議論では、ショウガの持つ代謝向上やデトックス(解毒)などの効果に着目した食品のアイデアも出た。浅野氏は「自分なら、開発に手間がかかる特定栄養補助食品は初めから避けるが、ビジョンを持って困難な道にもあえて進もうとする人もいて、一緒に新鮮な議論ができた」と言う。

 グループのメンバーには、市外から参加した薬草の専門家もいた。そこで議論はショウガに薬草や味噌、チョコレートなどを組み合わせたスティック型菓子の企画へと進んでいった。途中でメンバーが試作品を持参し、試食することもあった。

グミにショウガの粉をかけた試作品
グミにショウガの粉をかけた試作品

 議論を経て着地した企画の一つが「勝負のショウガ」という、チョコを周りにコーティングした菓子だ。人生には、スポーツの大会、受験、就職活動、プロポーズなど勝負の時がある。そんなときに食べて、気持ちを引き締める菓子。集中力が増すように栄養も考え、心も体も熱くなる勝負の場面を想定した。地元のプロスポーツチームとのコラボレーションという提案も上がった。

議論がビジネスパートナーを生む

 新年度が始まった今でも、開発は継続している。1カ月に1度、メンバーで集まり、その後の具体的な商品化に向けて話し合いの場を設けている。その中で、チョコをコーティングした菓子だけでなく、味噌にショウガを入れた「ショウガ味噌」、かりんとうにショウガを振りかけた「ショウガ味噌かりんとう」などの商品化を視野に入れ、ショウガをパウダー状にする会社を見つけて商談を進めるなど、一歩一歩商品化に近づけている。

ショウガを使った味噌の商品化を進める浅野氏
ショウガを使った味噌の商品化を進める浅野氏

 浅野氏はこう振り返る。「これまで多くのビジネス交流会に参加してきたが、そこで1~2時間話をしただけでは相手のことを心底理解するまでには至らず、連携関係まで発展することは少なかった。それに比べるとリアル開発会議@びんご府中は、同じ人たちと何度も会って議論を進めていく過程で信頼が培われ、終わっても一緒に仕事をしたいと思える関係が生まれた」

 実際に浅野氏は、リアル開発会議が終わった後、参加していた企業と連携して別の商品開発も進めている。また、グループのメンバーで集まり、薬草を栽培している現場を視察する活動も続けているという。

(真部保良=グローカルメディア)

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