第2期
リアル開発会議@びんご府中

広島県府中市は、2018年10月から11月にかけて3回にわたり「リアル開発会議@びんご府中」を主催した。2017年度に続いて2回目となる今年度は、食品や家具などの分野で商品化につながりそうな事業アイデアが生まれた。

府中市に続け
地元有力企業経営者が多数参加
食品や家具で商品化が見える

「リアル開発会議@びんご府中」第2期の参加団体
「リアル開発会議@びんご府中」第2期の参加団体

 再びリアル開発会議を開催することになった広島県府中市。多様な業種が昔から栄えてきた、伝統ある産業都市だ。ただし、他の多くの地方都市と同様、若者の流出による人口減少が課題であり、産業の活性化によって魅力的な働く場を増やすことが急務とされている。

 1年目だった2017年度は、市内の金属系や機械系の企業を主な対象としたテーマが多かった。対して2018年度はテーマを5つから7つに増やすとともに、木製品や食品系といった新分野にも焦点を当てた。

市内と市外の参加者がほぼ半々 2年連続で提示したテーマも

 府中市の状況を取材した上で、リアル開発会議事務局が導き出したテーマは以下の通りである。

(1)空間プロデュース
(2)育つ家具
(3)図面バンク
(4)ショウガでSHOW
(5)EVキャンピングカー
(6)ホテルグレードの仮設トイレ
(7)小中学校発ベンチャー

 (1)では、本当に快適な暮らしを実現するために、空き家や空き駐車スペースを利用して新たな空間を生み出したり、家具や家電を提供する新しい仕組みをつくり出したりする。

 (2)では、子どもの成長に合わせて木の家具に手を入れることで、大人になるまで使い続けられるようにするサービスを提案する。

 (1)と(2)は共に、家具で栄えてきた府中ならではのテーマだ。木工の技を発揮する機会を生み出す狙いもある。

 (3)では、企業が保管せざるを得ない設備や部品に関する大量の図面を預かって管理するサービスを生み出すことを目指す。

 (4)では、市内で栽培するショウガを材料とする新しい商品づくりや、ショウガ入りのメニューを提供する飲食施設の企画を行う。また、味噌など、そのほかの市内の特産品とのコラボレーションの道も探る。

 (5)では、陸のクルーザーともいえる豪華なキャンピングカーを電動車両で実現する。定住志向を持たない新たなシニア富裕層を狙った開発だ。

 (6)では、清潔で高級感のある仮設トイレを提供することで、観光地やイベント会場のイメージ向上を目指す。

 (7)は、小中学生が経営する会社を学校の中につくる取り組みだ。これからの時代に対応して生きていける人を育てつつ、地域とのつながりを促す。

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

 これらの募集テーマを見て集まったのは、企業(団体を含む。以下同じ)14社からの21人だ。このうち府中市内からは5社11人と、過半数を占めた。そのほか近隣の三原市や広島市といった、府中市以外の広島県内からの参加者が3社4人。県外からは東京、静岡、京都、大阪、香川の6社6人が集まった。

 議論が深まるよう、7つのテーマから希望者の多かった5テーマ(1)(2)(4)(6)(7)に絞り込んでグループ分けをし、開発会議が始まった。

渾身の最終発表
渾身の最終発表

5つの事業アイデアの方向定まる 参加者の自主的な連携で議論が深化

 2カ月間、延べ3回の会議によって、各グループは次のような成果にたどり着いた。

「リアル開発会議@びんご府中」第2期で生まれたビジネスプラン
「リアル開発会議@びんご府中」第2期で生まれたビジネスプラン

 (1)の「空間プロデュース」では、部屋や建物といった閉じた空間だけに着目するのではなく、生活やコミュニティーの場としての地域までを視野に入れることになった。その背景には、府中市の街としての魅力の薄さがある。残念ながら、中心街であるJRの駅を中心とした昔ながらの街並みは、新しい刺激を得られる空間、ものづくりの魅力を実感できる空間ではない。若者にとって、足を運びたい、地元で働きたいとは思えない、というのが現実だ。

 そこで生まれたのが、「府中クリエーティブビレッジ」というアイデアだ。公園や廃校跡地に10平方メートル前後のおしゃれな小空間を数多く設置する。そこを市内外のクリエーターたちがスタートアップの場として使い、作品づくりやワークショップ、展示といった活動を行う。市内企業とのコラボレーション、市民や観光客との交流を促せばクリエーターの自立を支援することにつながり、定住も見込める。小空間の設置場所としては、自治体が公共空間を提供。設置費はクラウドファンディングによる公募で賄う手もあるとした。

 (2)の「育つ家具」は、創業100年以上の企業が軒を連ねる府中ならではの「百年家具」を提供するアイデアだ。

 長期間にわたって手入れをしつつ使い続けていく価値のある高品質の家具、というモノの視点。良質の家具と共に暮らしていくことが家族自身の成長に結び付く、というヒトの視点。そして、木工の技を受け継ぐ匠が持ち主に寄り添って家具の面倒を看続けていく、というシゴトの視点。

 一見、スクラップ・アンド・ビルド全盛の現代に逆行するかのような、これら3つの視点を前面に掲げることで市内外・国内外の人たちとのつながりを生み出す。議論では、このコンセプトをストレートに表現する備後弁をブランド名に採用することになり、官民共同による商標登録を目指す。ブランド商品第1号の候補は「集中できる学習机」だ。

 (4)の「ショウガでSHOW」は、市内の企業が新たな特産品にすべく生産を始めたショウガを中心にして、味噌や薬草など府中市とその周辺地域で産出される食材と組み合わせ、商品を開発するものだ。ショウガを食べて受ける刺激から発想したキャッチフレーズが、「ショウブ(勝負)のショウガ」。人生を左右するかもしれない節目の大勝負に臨むときに欠かせない飲食品、と位置付けた。議論の途中でグループのメンバーがチョコレート菓子の試作を行い、課題を拾い出すことができた。将来は、広島にあるプロのスポーツチームとの連携も視野に入れている。

試作品を食べているところ
試作品を食べているところ

 (6)の「ホテルグレードの仮設トイレ」は、前回のリアル開発会議@びんご府中でも取り上げたテーマではあるが、今回も議論を重ねた結果、「いきなり道の駅」という新たな展開に行き着いた。議論の発端は、イベント会場などに置かれる仮設トイレの「汚い」「臭い」「暗い」という負のイメージを払拭し快適な環境を生み出そうというものだったが、トイレ機能だけでなく情報提供や物販の機能も持たせたい、それなら道の駅を参考にすれば──という方向に議論が進んだ。地域の祭りなどのとき、様々な機能を搭載した車が集まってきて、道の駅がいきなりそこに生まれる、というイメージだ。道の駅を常設するのに比べ、建設費や運営費を抑えられる。いきなり道の駅の企画、業務システムの構築・運用、機能を搭載した車の整備などは、市内企業にとって新たなビジネス機会となる。

 (7)の「小中学校発ベンチャー」は、小中一貫教育を行っている市立の義務教育学校で、子どもたちが経営する会社をつくるものだ。府中市立府中明郷学園では独自に、アントレプレナーシップ(起業家精神)開発カリキュラムを2018年度から導入している。子どもたちが今後の予測困難な時代を生きていくうえで、他者と共同で課題を解決していく力、創造する力が不可欠だと同校は判断し、3年生から9年生までの総合的な学習の中で、市内企業に関する学習、職業体験、商品づくり・販売から、人生設計までを学ばせようとしている。

 今回のリアル開発会議@びんご府中ではこのカリキュラムとの連動を意識し、職場体験で訪れた市内企業に子どもたちが新商品の企画書を提出して、企業の賛同が得られたものについて共同で開発を進める、という産学連携の道筋を設定することができた。他の地域でよく見られるような、試作品の販売で終わる方式ではなく、その成果をフィードバックして改良するところまで関わることで、いわゆるリーンスタートアップを子どもたちに実体験させるわけだ。こうした連携は教育的な効果を生むだけでなく、企業にとっては子どもたちやその父母、祖父母の層の市場調査の協力を得られるという利点もある。

 10~11月で3回にわたって開催されたリアル開発会議@びんご府中は、システム・インテグレーションの多喜義彦氏のリードによって進められた。2年目とあって、多喜氏が定めた議論に当たっての2つのルール、「ノーと言わない」「発言は無責任に」が浸透し、産官学の各分野からの参加者いずれからも、前向きな発言が多かったのが印象的だった。

 なお、今回のリアル開発会議の開催に合わせて、市内企業として参加した若葉家具、土井木工、浅野味噌の3社が工場やショールームの視察を受け入れたことで、市外参加者は市内産業の実態に触れることができた。府中明郷学園も同時期に市外参加者を招き、子どもたちのアイデアを企業の目線で評価するコンテストを急遽実施した。こうした参加者同士の自主的な取り組みが、議論の深化に貢献したことは間違いない。

地元企業へのミニツアー
地元企業へのミニツアー

 会議が終了した直後から、参加者の間ではそれぞれの事業アイデアを推進させていきたいという声が上がっている。近い将来、その進捗を報告できることを楽しみにしている。

(真部保良=グローカルメディア)

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