特集 燃やせ!ビズラボ魂

ノーと言わずに無責任で
真の異業種連携が実現

異業種の開発者らが集まり、新しいビジネスプランを練り上げる全6回の講座が「ビズラボ」だ。
開発の鉄人が授けたテーマを基に、ノーと言わず、無責任にビジネスプランを練り上げる。
目標は、誰も見たことのない、新事業計画の策定だ。

 無責任だと、これほどまでにアイデアが出るのか──。自由に考える楽しさに気付いて、参加者たちの目が生き生きと光る。ビズラボを開催するたびに目にする光景だ。

 ビズラボは異業種が集まり、ビジネスプランを練り上げる講座である。まだ世の中にないビジネスプランを、参加メンバーの知見やアイデアを持ち寄り新しい発想で創り出す。

 ビズラボの原点は、事業開発コンサルティング会社システム・インテグレーションの多喜義彦社長が2001年に考案したプログラムだ。自身の発想法やコンサルティングの過程で得た気付きを盛り込み、「ビジネスプロデューサー(BP)養成講座」という名称で始めた。2014年には、このプログラムをベースに日経BP社が主催する「ビズラボ」が誕生した。

 ビズラボは、2018年5月に第7期が始まった。BP養成講座と合わせると約40期が実施されたことになる。

2つのルールでアイデアがわきだす

 2001年にスタートしたBP養成講座から、ビズラボのやり方はほとんど変わっていない。開発の鉄人である多喜氏から提案されたテーマをグループに分かれてディスカッションをする。そこで鉄人が与えるルールは2つだけ。人の発言に対して「ノーと言わない」ことと「無責任な開発をする」ことだ。

 この2つのルールを徹底するのには理由がある。

 まずノーと言わないについて。人は意見を否定されると、アイデアを出さなくなる。「これを言ったらばかにされないだろうか?」とおびえたり、「せっかくいいアイデアを言ったのに、頭ごなしに否定するとは。もう二度とアイデアなんて出さない」と、へそを曲げたりしてしまう。

 無責任な開発というのは、責任の話をされると人は保身に走り、アイデアが出なくなるためだ。「こんな事業、本当にできるのか」「失敗したときに誰が責任を取るのか」と言われたら、ほとんどの人は尻込みし、口をつぐんでしまう。企業でアイデアが出ないのはこのためだ。

 「どうせ、事業化するときにはさまざまな障害があるわけで、最初からアイデアを狭めてしまうと、ちっぽけなビジネスプランになってしまう」(多喜氏)。風呂敷は大きいほどいいのだ。

 この2つのルールのおかげで、参加メンバーによる議論では、驚くほどアイデアが出てくる。普段、会社でいかに「ノー」と言われていることか。「失敗したら責任を取れ」と上司からプレッシャーを掛けられ疲れ切っていることか。ビズラボの参加者が生き生きと発言しているのを見ると、日本の企業が優秀な人材の能力を奪っていることが分かる。

 2つのルール以外にも、多喜氏が実際に経験し、ノウハウにまで昇華させた開発の極意や処世術が講義によって伝授される。例えば、上司を説得するには、下から上げるのではなく、利害関係のない第三者から口添えしてもらうといいことや、身の丈でビジネスをすることが価格競争に陥らないようにするコツ、少品種大量生産でなぜ儲からないか、開発者同士が交流することがなぜ必要かなど、今の日本企業が抱える課題を解決するノウハウがいっぱいだ。

開発の鉄人の真骨頂 公開コンサルでテーマ出し

 そもそも開発の鉄人とはどういう人だろうか。大学生のときに発明した商品が世に普及したことから開発の楽しさに目覚め、それから48年間も日本企業に向けた開発コンサルティングを事業の柱としている。

 これまでに約1000社と顧問契約を交わし、関わった開発は3000件を超えるという。コンサルティングした業界の幅は驚くほど広い。防災グッズから自動車部品、食品、寝具、農機、汚水処理、仏具など多岐に渡る。『言えない大事』などの本を執筆し、現在でも40社以上の技術顧問を務める。

 この幅広い知識を持つ開発の鉄人の真骨頂は、ビズラボの2日目に行われる公開コンサルティングで発揮される。これは開発の鉄人が参加者を1人ずつ呼び出し、日々の業務や会社の事業について質問しながら、その会社が、これからやるべき新ビジネスを提案するというものだ。

 「…部って、すごい名前だね。何をしているの」といった質問から始まり、「あなたの会社の商品は、どこがお客さんに受けているの?」と世間話のような質問が続く。そんなやりとりをしているうちに、鉄人がいきなり「こんなビジネスやってみたらどうだろう」と提案してくる。その提案は、世の中にないもので、しかも、自社の本業の延長線上でできそうな、もっと言えば何だか儲かりそうな内容である。知らない人が聞くと、最初からシナリオがあるのだろうと思うほどに絶妙な提案だ。質問されていたメンバーも思わず「それは面白そうですね」と答えてしまう。開発の鉄人“恐るべし”である。

 こうして参加メンバー全員が公開コンサルを終え、参加メンバーの数だけ新しいテーマが列挙される。そのテーマの中から参加者それぞれがビジネスプランを考案したいものを選び出し、グループ分けすれば準備完了だ。

 あとは、グループでディスカッションを繰り返して、新しいビジネスをひねり出す。途中でアイデアをまとめるための中間報告を実施したり、マンネリを脱するために場所を変えて先駆者の話を聞くリアルツアーを開催したり、プログラムは参加者を飽きさせない。もちろん、仕事に役に立つ鉄人の講義も毎回ある。

 実は、開発テーマを鉄人の側から出すことも議論を活性化するための要素である。テーマがメンバーの誰かの発案だった場合、そのテーマの所有者は発案者となってしまい、対等な関係で議論ができなくなるからだ。

ビズラボの流れ

2つのルールの効果大 アイデアはとどまることを知らない

 筆者も第5期ビズラボにメンバーとして参加したので、ここでその体験を紹介する。

 選んだテーマは「ベンチで町おこし」。自動車シートメーカーの開発者への公開コンサルで出てきたテーマだ。公園などにあるベンチにいろいろな機能を付けて町を活性化しようというもの。メンバー4人は、そのシートメーカーの他に、IT系ベンダー、電力系コンサルタントと、出版社である私である。

 議論は最初、ベンチに対するイメージや普段の使用についてなど、個人的な意見を出し合った。その結果、意外にベンチを使用していないことや、使うことはあっても不便を感じていることが分かった。中には「なぜ公園で主婦はベンチに座らずに立ち話をしているのか」といった素朴な疑問も出てきた。

 そのうち、ベンチに座ると遠くのベンチに座った人とつながれたらいいのではないかという意見が出てきた。そうして話を膨らませて、中間発表で「どっちの料理ショーベンチ」を提案した。全国規模でベンチをつないで、昔のテレビ番組と同じように、食べたい料理を選ぶというもの。まずは比べる2つの料理と実施する時間を提示する。参加したい人は全国の指定された広場に行ってベンチに座る。あとはベンチに付いているディスプレーを見ながら料理を選択する。ベンチは、選んだ料理によって広場の中を自動で移動するが、ベンチの集まり具合によってどっちの料理が優勢か分かる。この全国の広場の様子をドローンで撮影し、その映像を見ながら一喜一憂するというアイデアだ。

 しかし、我々のグループは、これには飽き足らず、最終日の成果発表では、景色の良いポジションにラグジュアリーなベンチを設置し格別な空間を提供する「時間貸しベンチ」、ベンチに座ると周辺のお店の情報が手に入り、好きなものを食べたり飲んだり、買い物したりと一日いても飽きない空間を提供する「ベンチパーク」、ベンチを町のセンサーにして、高齢者の散歩を見守ったり、不審者を監視したり、買い物客の流れを促したりするなど、スマートな町づくりに役立てる「ベンチマーケティング」なども提案した。

 最初から成果発表まで、わき出してくるアイデアはとどまることを知らなかった。メンバーに恵まれたこともあるが、「ノーと言わない」「無責任な開発をする」というルールの効果が大きい。最後は、話が広がりすぎてプレゼン資料にまとめるのに苦労したほどだ。

参加して初めて気が付くその価値と他にはない面白さ

 参加者にアンケートをして、率直な感想を書いてもらったことがある。それによると、当初はビズラボが何か分からずに参加したが、参加してみると面白かったという意見が多かった。

 異業種の人と意見を交わすことに価値を見いだしている人もいた。一般に開発者は異業種の企業と交流することが少ない。ビズラボには様々な業種の人が参加するので、会社や業界の常識がまったく通用しないという経験ができたり、自分の知識が他の業界でも役に立つことを知ることができたりする。

 だが何より、多喜氏の講演や懇親会で聞ける話がとても役に立ったという意見が多かった。半世紀近くも開発に携わっている同氏の言葉には、重みがあるということだろう。

過去に生まれた珠玉のビジネスプラン
過去に生まれた珠玉のビジネスプラン

失敗を恐れず挑戦する新しいものを生み出す国

 日経BP社がなぜビズラボを開催しているのか、という質問をよく受ける。その答えは「日本企業に元気になってほしいから」だ。バブルが崩壊し、日本企業は失われた20年を過ごしてきた。その間、日本企業の多くはコストカットをして無駄をなくし、利益を出すことが至上命題となった。新しいことに挑戦しなくなったことで、日本企業から新しいものが生まれなくなった。一本足打法の経営ほど危なっかしいものはない。

 もう一度、挑戦と失敗を繰り返しながら新しいものを生み出す国に変えていきたい。それがビズラボを開催している狙いだ。

 ビズラボに参加した人は間違いなく変わる。上司と意見が衝突しても戦えるだけの理論武装ができ、社外に仲間ができる。何より、新しいビジネスを考える面白さに気付いて自ら積極的になる。

(菊池珠夫)

この特集の他の記事

この号の目次へ

これまでのリアル開発会議はこちら