特集 燃やせ!ビズラボ魂
開発者同士が本音で議論
本物のオープンイノベーションを実践
社内にビズラボの手法を取り入れ、成果を出している会社がある。
愛知県の電気制御機器メーカー・東洋電機だ。
「リアル開発会議 in 東洋電機」と呼ぶ開発会議をはじめ、同社にはビズラボ流のオープンイノベーションが息づいている。
東洋電機は創業から71年になる、名古屋証券取引所市場第二部上場の名門である。エンジニアリング事業のほか、変圧器やエレベーターの安全装置・通信機器などの製造を手掛ける、開発型企業だ。
開発型企業を標榜している会社は多い。最近では流行語のようにオープンイノベーションをうたう会社も増えている。しかし実情は、オープンイノベーションと言いながら社内のリソースに固執しているところが多い。
対して、この東洋電機は、名実共にオープンイノベーションを実行している。他社の開発者と積極的に交流し相手のニーズを知るとともに、自社内のアイデアや試作品を惜しげもなく相手に披露し、新たなビジネスを生み出している。ビズラボでは、購買担当などの部署には行かず開発者同士が交わるべきだと教えているが、同社はこの教えをそのまま実践し、成果を上げているのだ。

(提供:東洋電機)
3代目社長がオープンイノベーションを牽引
東洋電機は、もともと電熱機器の製造・販売から始まった会社である。トランスや電源機器の開発に成功し、そこから業績を伸ばしてきたが、そのほとんどが受注生産という業態だった。つまり、振り返ってみるといつもそこには、いかに異業種の技術や情報を取り込み自社製品を開発していくのかという課題があった。
その課題を見事に克服して次々に新製品を投入しているのが、創業から数えて3代目の松尾昇光社長である。
松尾社長が先頭に立って唱えたのが、本当のオープンイノベーションである。社内のリソースよりも、広く社外に、それも異分野・異業種の技術や情報を取り込もうと、社長自らが社外に行き全社的な活動を牽引したのである。
トップ自らが積極的に、社外に打って出る。トップが相手のトップと手を結ぶのだから、話は早い。東洋電機は、トップ牽引型のオープンイノベーターなのである。

(提供:東洋電機)
最近、その東洋電機の開発会議に参加する機会があった。そのときに、この会議を「リアル開発会議 in 東洋電機」と呼んでいることを知った。会議資料の表紙に、そう書かれていたのだ。
驚きとともに、リアル開発会議アドバイザーとしてうれしさがこみ上げた。なぜそう呼ぶようになったのかが気になり、それとなく尋ねてみた。すると、ビズラボの講師であるこちらが恥ずかしくなるほどの名答弁が返ってきた。
「『ビズラボ』には社員を初回から続けて参加させているし、その延長として社内の会議でもビズラボを実践しているので、このように名付けたのです」
なんと、本当にビズラボのシステムを実践してくれていたのだ。この会議では、ビズラボの教え通り「ノーと言わない」「無責任」が徹底されているという。再び、うれしさでいっぱいになった。
なお、リアル開発会議 in 東洋電機には、経営管理本部R&Dの主管の下、事業部長クラスが参加している。もとは別の部署が立ち上げ、この部署が中心となって、他部署に声を掛ける形で行われてきたが、参加者からは「組織の横のつながりができやすくなった」など、一定の評価を得たという。そこで、2018年4月の組織改編で、この会議をさらに拡大し進めやすくするため、リアル開発会議 in 東洋電機と命名し、現在の体制が敷かれた。
余談だが、この組織改正に当たっては定年間近の担当者が重要な役割・存在であることが分かり、そのために新たな役職をつくって残ってもらうという、社長の鶴の一声による人事もあった。ビズラボのモットーの一つに「良いことなら何でもアリ」というのがあるが、その精神は人事にも及んでいるのかと、実に感心してしまった。

ビズラボ手法で初めて開発した「マジックビー」
ビズラボの手法を使って進められた最初の開発テーマは、アドホック型の通信システム「マジックビー」。IoTには欠かせない通信システムである。
東洋電機は、広く社外に技術と情報を求めて異分野・異業種企業と交流する中で、ある電力会社の関連企業が保有する通信技術に出合った。親会社の電力会社が稼働させている発電所の構内監視システムに使用する技術である。モニター装置やセンサーを有線でつなぐとなると発電所1カ所で120kmにもなってしまうので無線化したいという要望があり、開発したという。
この技術は、既におよそ10年も前から実用化されていたのだが、社外に展開することはなかった。そうした中で、東洋電機がそれを見つけたのである。

(提供:東洋電機)
こうしてみると、電力会社は10年も前から発電所のIoTを具現化していたことになるが、それに着目した東洋電機も見事な眼力を持っていたように思う。同社は、この技術がいま話題の工場や施設のIoT化に利活用できるとみて、技術を保有している会社と提携したのだ。
そして、その技術を導入・利活用するために同社が採った手法がビズラボ方式だった。つまり、開発者同士が損得勘定なしにアイデアをぶつけ合い、アイデアをブラッシュアップしていったのである。
さらに、初めからシーズ(120kmの無線化が可能な技術)とニーズ(工場や施設のIoT化)がはっきりしている中で開発を進めることができたので、参加者同士の理解が早い上、ゴールもぶれないなど、多くのメリットも得られた。

(提供:東洋電機)
次は10Gビット/秒の光無線通信
東洋電機が次に取り組んだのが、10Gビット/秒光無線通信システムの開発である。
これは、光ファイバーの光を空間に放出し再び光ファイバーに戻すという、これまでなかなか実現できなかった技術だ。それを東洋電機はビズラボの手法で開発しようと、大学との提携をはじめ、様々な企業とも連携を取って進めている。この開発では、東洋電機がすべての要件を決めて発注するような従来の方法ではなく、お互いの組織・人材が持つ得意技を出し合いながら挑んでいる。
同社は、この手法で開発を進めることで、いずれ100ビット/秒も実現したいと意気込む。

(提供:東洋電機)
ますます広がるビズラボネットワーク
前述のように、東洋電機の開発者はビズラボを必ず受講するようにと、社長から言われている。講師としてはうれしい限りだが、社長が直接指示しているとなれば、うれしいを通り越して泣きたくなるぐらいにありがたく感じる。
それに、ビズラボを受講した開発者がその成果として次々と新事業・新商品を開発していく現場を見ることができるのは、講師冥利に尽きると言うしかない。
東洋電機の社員はビズラボ受講後も、そこで知り合った異業種の友と一緒に、広く異分野・異業種と事業フィールドを共有し、共栄共存を目指す「フィールドアライアンス」での開発を実践している。フィールドアライアンスは、ビズラボで大きな柱に据えている開発の仕組みである。
同社では、例えば自動車部品メーカーや測定器メーカーとリアル開発会議を開催しているという。今はまだ詳細を明かせないが、ワイヤーなどに付いた数十㎛のキズを非接触で見つける検査装置など新しい製品が、ビズラボの手法によって生まれようとしているのである。
東洋電機はリアル開発会議のビズラボで学んだことを実践し、新事業・新商品開発を実行している。自社のみならず、他社にまでその活動を広げているのは、結果を出したという経験と自信を持ったからだろう。
ビズラボの考え方は、どんなものにも、どんなところでも使えることを、この東洋電機の取り組みと結果は示してくれている。オープンイノベーションと叫ばれながらその成果が乏しい中で、同社のように、ビズラボのネットワークを広げていく企業がこれからますます増えていくことを、講師としては願うばかりである。
(多喜義彦=システム・インテグレーション)
この特集の他の記事
- 潜入!ビズラボ
ノーと言わずに無責任で 真の異業種連携が実現 - 産業振興にビズラボ活用
ビズラボの成果を地域の技で具現化 4年目は市外に門戸を開放 - 國定勇人三条市長インタビュー
出でよ、グローバルニッチトップ企業 市内企業によるコラボに期待 - 広がるビズラボワールド
企業や自治体が仕組みを活用 経営者限定版や交流団体も発足