特集 燃やせ!ビズラボ魂

ビズラボの成果を地域の技で具現化
4年目は市外に門戸を開放

「働く人みんなのマインドを変える機会を創らないと、伝統ある地域のものづくりが消えていってしまう」──。
そんな危機感から「三条市リアル開発ラボ」を2015年度に立ち上げた新潟県三条市。
同市ではこのラボを通じ、地域の様々な企業に新製品・新サービスを考案・開発してもらう取り組みを行っている。

 「ビズラボ」で出てきたアイデアをアイデアのままで終わらせることなく、試作まで行うことで地元企業を元気にする。そんな産業振興を進めている地方自治体がある。新潟県三条市だ。

 同市は、隣接する燕市と合わせて「燕三条」地域として知られる、ものづくりの町だ。伝統的な鍛冶の技で生み出す包丁や工具のみならず、機械加工、研磨、プラスチック成形、セラミック加工など多様な製造技術を生かして、自動車のエンジン部品や電動工具部品、アウトドア用品、カトラリー(フォークやナイフ)などを供給している。

 一方でこの地域における産業の課題は、下請け型の中小企業が大半を占めていることもあるためか、製造業が生み出す付加価値が小さいことだ。これを改善しなければ従業員の収入が増えず、若者の都会への流出に歯止めをかけることができない。その結果、後継者がいなくなり、産業が消滅していく。

 製造品出荷額の下落は、燕三条地域に限ったことではない。都市部のものづくり地域の方が、より深刻だ。バブルが崩壊した後、東京都大田区では7割以上、東大阪市も4割落ち込んだ。それに比べると燕三条地域は、ほぼ横ばいを維持できている。ただし、今のうちに手を打たなければ、いずれ大田区や東大阪市と同じ状態になってしまうという危機感を、三条市は強く持っていた。

 同市は2008年のリーマン危機の後、市内企業の下請け意識からの脱却を促す産業振興事業を続けてきていた。複数の企業が集まり、デザイナーと連携して新製品を企画・開発するという事業も展開していた。ただ「コンソーシアムへの参加企業の顔触れが固定化し、広がりがなくなっていた」(同市経済部商工課主幹の瀬戸祐志氏)。

 この状況を打破したいと考えた瀬戸氏は、2015年に日経BP社が東京で開いていたビズラボに参加。ここで学んだ、事業フィールドの異なる企業同士の連携によって新たな価値を生み出すという手法の導入を、市に戻って提案した。

 その報告を受けた國定勇人市長は、すぐに新製品の創出に特化したビズラボともいえる「三条市リアル開発ラボ」の実施を決めた。これは、大手企業が参入できない小さなニッチ市場に市内の中小企業を誘導しようとしてきた國定市長の思いに合致するものだった。

 自治体が行う産業振興策として、新製品の開発や展示会への出展に対して補助金を出すケースがあるが、同市にはなじまない。同市の場合は従業員10人以下の中小企業が大半であるためだ。「こうした企業が新製品を頻繁に開発することはない」(三条市経済部商工課主査の澁谷一真氏)。

 また、経営者向けセミナーを実施する自治体も少なくないが、「単なる経営セミナーでは、働く人みんなのマインドを変革することはできず、効果は限られる」(瀬戸氏)。こうした理由から、製品開発に向けた企業連携を促す講座の開設が有効だと判断したわけだ。

 さらに同市では、リアル開発ラボで生まれたアイデアを具現化する試作・開発への補助金交付も実施し、地域独自の製品作りも支援している。

 同市のリアル開発ラボは2015年度に始まり、今年度で4期目となる。では成果はどうなのか。これまでの参加者にとって、ラボでの経験が今どう生きているのかを追う。

【三條機械製作所】

型にとらわれた仕事を打破するきっかけに

 売上高約97億円、従業員数約500人の三條機械製作所。新田誠氏の名刺には「社長室主幹(三条市リアル開発ラボ1期生)」と肩書が記されている。

三條機械製作所 社長室 主幹の新田誠氏
三條機械製作所 社長室 主幹の新田誠氏。リアル開発ラボに参加したことによって、かつて所属していた会社で学んだ開発の面白さを再認識した。

 同社は鍛造の自動車部品や機械などを製造している。堅実な社風の一方で、「鍛造の会社、機械の会社、設備の会社、金型の会社が寄り集まったような組織なので、敷地内であっても別の部署がどこで何を作っているのか知らない人も多い」(新田氏)という。

 社内で新規事業開発の命を受けた新田氏はその手掛かりにと、ちょうど始まったばかりのリアル開発ラボに参加した。同社のように規模の大きな企業にとって、リアル開発ラボで議論するテーマを自社の開発に直結させることは、もちろん難しい。だが、開発の進め方に関しては大きな学びがあった。

 新田氏は、社内の組織を横断して開発を手がける仕組みがまず必要であることを、経営層に説明した。つまり、社内版リアル開発ラボをつくろうという試みだ。それによって2017年に生まれたのが「三條未来マシン研究所」という部署。同社の3つの事業本部から独立し、新規開発を進める。

 現在、取り組んでいる最初の案件は、社内の製造部門から上がってきたニーズを受けた、人手不足を補うための装置の開発である。ゆくゆくは外販も視野に入れているという。

 「社外からの購入では本当に欲しいものが手に入らない。かといって他社との共同開発では、自社の製造ノウハウまで流出してしまう恐れがある」(新田氏)。そのため、社内の各部門から人材を集め、開発を進めている。

 同社は毎年度、リアル開発ラボに社員を送り込んでいる。「ラボの卒業生が社内のあちこちにいるという状況になれば、型にとらわれない新しい仕事が自然に生まれていくはず」と新田氏は期待する。

【ストカ】

自社ブランド作りの背中を押す役目を果たす

 ストカは、売上高2億円、従業員19人のプレス加工会社だ。斎藤和也次長は、2016年度のリアル開発ラボに参加した。父親が軌道に乗せた会社を、跡継ぎとしてさらに大きくしたい和也氏には、自社ブランドの製品を世に出したいという夢があり、参加はそれを実現するためだった。兼業農家でもある和也氏は、農業に関するテーマを掲げたグループに入った。

 「それまでは、ものづくりの仕方を他社の人間に教えてくれる会社などないだろうと思い込んでいた。でも、この予想とは逆に、参加者はみんなオープンだった。『うちはそんなときこうしてるよ』と、気軽に話してくれた」(和也氏)。

 グループでの話し合いは、農業の新しいシステムの開発へと進んでいった。だが、ものづくりをすぐにでも始めたかった和也氏は、グループワークとは別に行動を起こした。

 和也氏が作りたかったのは、都会で農業を楽しみたい人たちが電車で運べるような、組み立て式の農具だ。そこでこのアイデアを、リアル開発ラボの講師でシステム・インテグレーション社長の多喜義彦氏に告げた。

 「失敗する開発には必ず明確な理由があり、それを見過ごすことさえしなければ、開発を躊躇する必要はない」が持論の多喜社長は、和也氏の話を聞いて「面白い。やってみようよ」と即答。資金の調達は、三条市の瀬戸氏のアドバイスを受け、新潟県の補助金を活用することになった。

 後継ぎとはいえ、今はまだ経営を担っていない和也氏が新規開発を進めるには、社内での合意を得る必要があった。そこで、リアル開発ラボで行ったプレゼンテーションの経験を生かしたところ、社内の説得に成功した。知り合いのデザイナーのほか、機械加工、木工などを手がける地元の仲間たちとも連携して、試作品作りにまでこぎ着けた。「自分の思いを人に伝え、畑違いの人たちと連携して開発ができたのは、リアル開発ラボの経験があったからこそ」と和也氏は振り返る。

ストカの斎藤和也次長と組み立て式の農具セット
ストカの斎藤和也次長と、組み立て式の農具セット。三条市内の中村精工、カヴァーワーク、後藤鉄工所、セーブ・インダストリー、三条タイセイ、マサコー山口木工、アンドオン、梨本商店のほか、燕市内の吉田織物、エポキシデザイン、本宮金型、武田金型製作所、サマンサハートとも連携して試作した。

 試作品が出来上がった後に見えてきた課題もある。金属と木材の接合方法やデザインだ。ここで、これらの点を改良したら商品化、という道筋が見えてきた。特許と商標は既に、リアル開発ラボで知り合った弁理士の協力で登録してある。「小さな会社こそ、少数精鋭でなければ生きていけない」と考える和也氏は、2018年度のリアル開発ラボを他の社員に体験させようとしている。

【外山製作所】

ラボ後も開発を続けて1号機の受注に成功

 外山製作所などが開発した、バイクで牽引する小型トレーラーは、リアル開発ラボをきっかけに商品化に至った例だ。

外山製作所の外山裕一社長とバイクで牽引する小型トレーラー
外山製作所の外山裕一社長と、バイクで牽引する小型トレーラー。鈴文、テーエム、マルト長谷川工作所、第四銀行と連携して製造した。

 同社は、売上高4億5000万円、従業員30人の、車両部品などの製造会社である。自動車メーカーに部品を供給する立場にとどまらず「自らがメーカーになりたい」と思った外山裕一社長は、2015年度のリアル開発ラボに参加した。そして「もっとかっこいいキャンプ」というテーマのグループに入り、企画を練り上げた。

 リアル開発ラボでは、3Dプリンターで作った案をプレゼンテーションしたところで一区切りとなったが、実物を作りたいというメンバーの思いは消えなかった。そこで、その後も自主的に集まって議論を重ね、市の補助金を得つつ不足分はメンバーが出し合うことで、2年がかりでものづくりを実現した。現在は、第1号機の受注に至っている。

*  *  *

 こうした3社の例とは別に、継続してものづくりに取り組んでいるテーマがある。例えば「50万円ステッキ」だ。これはプレス加工したマグネシウムと、伝統芸術を施した木を組み合わせたステッキで、現在、試作を進めている段階である。

市外企業を受け入れることで新たな刺激を与える

 3年間のリアル開発ラボが成果を上げ始めた三条市。「市内企業によるリアル開発ラボは、これで標準形が確立できた」と瀬戸氏はみる。そこで2018年度は、市外からの参加者も受け入れることにした。三条市にはない技術や視点が入り込むことで、さらなる刺激を与えられると考えたからだ。

 一方で、こうした市の取り組みに関わってくれるようになった会社はまだ、三条市内の千数百社のうちの100社前後であるという現実も、瀬戸氏は直視している。

 「今は意識の高い経営者が自ら参加したり、社員に参加を促したりといった段階だが、これからは底上げを図る段階に移行していきたい」(瀬戸氏)。切削、溶接、プレスといった単工程を手がける会社の中には、儲からないから自分の代で終わってもいい、と考えている経営者も多くいる。だが三条市は技術を途絶えさせないために、これからの会社の後継ぎとなる若手を学びの場に連れ出そうとしている

(真部保良=グローカルメディア)

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