特集 燃やせ!ビズラボ魂

出でよ、グローバルニッチトップ企業
市内企業によるコラボに期待

全国に先駆けてビズラボの地方自治体版である「三条市リアル開発ラボ」を実施してきた新潟県三条市。
國定市長に同事業にかける思いを聞いた。
(聞き手・構成=近藤佑紀)

三条市リアル開発ラボ(以下、リアル開発ラボ)を始めた背景を教えてください。

 新商品や新サービスを創造する手法は、プロダクトアウト型ではなく、マーケットイン型でなくてはならないと思っています。マーケット環境は今、急激に変化しています。となると、機動性を持たなければなりません。しかし、大企業はそもそも構造的に素早く動くことができません。機動的にマーケットイン型の商品やサービスを開発するには、中小企業の方が有利です。こうしたことから、現在は「中小企業の時代」と言えるのではないでしょうか。

 とはいえ、中小企業には大企業ほどの資本力がなく、東京のような大都市に立地することは困難です。特に、人手と土地が必要なものづくりの中小企業にとってはハードルが高いため、合理的に考えると地方に立地することになります。ものづくりにおける「地方の時代」の到来です。

國定 勇人(くにさだ・いさと)三条市長

國定 勇人(くにさだ・いさと)三条市長

1972年、東京都生まれ。1997年に一橋大学商学部卒業後、郵政省(現・総務省)入省。2003年に三条市 総務部参事 兼 情報政策課長、2005年に三条市 市長公室長 兼 総務部参事、三条市 総合政策部長、2006年に総務省 情報通信政策局地域通信振興課 課長補佐など歴任。2006年11月、三条市長に就任。2010年11月に三条市長 2期目就任、2014年11月に三条市長 3期目就任。
(撮影:栗原克己)

 三条市の場合、そうした気付きを得たときには、既に産業が集積していました。「中小企業の時代」そして「中小企業が立地しやすい地方の時代」という前提条件の下で、そもそも三条市にはそうした条件がそろっていたのです。今の時代に即して、これほど圧倒的に優位に立っている地はないでしょう。

 私たちの目標は、三条市に一社でも多くのニッチトップ企業、あわよくばグローバルニッチトップ企業を生み出していくことです。大企業であれば、何百億円もの売り上げを出せるマーケットを探さなくてはいけません。しかし中小企業なら、数億円のマーケットを見つけてくれば成功できます。

 マーケットが飽和状態だといわれている日本の市場であったとしても、まだまだ未開拓の分野は転がっています。三条市の企業には、そのような視点で事業を進めてほしいと思います。

 リアル開発ラボは、中小企業がグローバルニッチトップ企業となるための、挑戦の場です。大企業は手を出さない小さなマーケットかもしれないけれど確実にニーズがある分野を、リアル開発ラボの講師であるシステム・インテグレーション社長の多喜(義彦)氏がつかまえてくる。そして、それに対応可能な技術力を有する中小企業がその市場に参入していくために、新たな試みを行っていきます。仮にその挑戦がうまくいかなかったとしても、「このような思考をすれば、まだまだ自分たちにも持続可能性がある」という気付きを得ることができるでしょう。リアル開発ラボは、そうした気付きの場でもあるのです。

リアル開発ラボにより、どのような効果がありましたか。

 第1に、これまで中間財しか作ってこなかった企業が最終製品を販売するところまでこぎ着つけられたことです。グローバルニッチトップ企業を目指す第一歩として、自社商品を作ることは有効です。いつまでも下請け意識のままでは、現状から脱却できません。自社商品を作り上げていくためには、どう開発を進めていけばよいか、どう販路を開拓していけばよいか、どう価格を設定していけばよいかという様々なノウハウが必要です。

 最終財であろうが中間財であろうが、マーケットのありかを探してそこに合う製品を開発する行為は不可欠です。ところが、中小企業でそこまでやり切れている企業がどれだけあるかというと、現実には多くありません。しかし、少なくともリアル開発ラボに参加している企業は気付きを得ています。常にアンテナを高くしていて、刺激を受け、それに対してどう解を生み出すかという思考回路ができているのです。

 第2に、市内企業の横の人脈ができたことです。他社の人と毎日のように顔を合わせたり、休日にはゴルフに行ったりしても、これまではお互いの企業が何をしているのかが分からなかったそうです。しかし、その企業が何をしているのかが分かれば、自社に舞い込んできたけれど自分たちだけでは受けられず断ってきた案件に応えられるようになるかもしれません。リアル開発ラボによって、他の企業はどのような技術を持っているのか、さらに言えば、他の企業にはどのような人がいるのかが分かるようになりました。それはとても大きなことです。

 ただ、そうした地域内での連携はできてきていますが、多喜氏がニーズをつかまえてきて、複数の企業がコンソーシアムを組んで開発するという当初期待していた面では、まだあまり結果が出ていないのが事実です。成果として市場を手に入れることができたかというと、まだ成功しているとは言えません。数字の面ではもう少し頑張らなくてはいけないと感じています。現状に点数を付けるとすれば70点といったところでしょうか。意識の変化をもたらすことができたというところは大きいですが、あくまで産業ですから、数字が出なければ成功とは言えませんからね。

 ただ、数字だけではないのも事実です。取引先が増えたとか、これまでとは全く違うところから受注がもらえるようになったとかで、結果として利益が伸びているということがあります。中には、売り上げは変わらないが利益は3~4割伸びたという企業もあります。利益率の高い製品を生み出すことができていると言えるでしょう。

今後はどのようにリアル開発ラボを展開されていくのでしょうか。

 これまでのリアル開発ラボは、市内企業でなければ参加することができませんでした。しかし、三条市内の企業の人たちだけで話をしていては、いつまでも固定観念からは脱却できません。違う地域の企業の人たちにとっては普通の発想が、私たちにとっては意外な刺激となるということもあります。そうした役割を求めて、これからは市外企業にも参加いただく予定です。

 現在、金融機関からも参加してもらっていますが、ニーズをつかまえてくるという多喜氏のような役回りを、いずれはこの金融機関に担ってほしいと思っています。金融機関も地方創生のセクションを持っているものの、何をどうしたらよいかということに、まだ考えが至っていないのではないでしょうか。今はリアル開発ラボのグループで製品開発したいという案件があった場合は、三条市の補助金で事業を進めています。しかし、持続可能性を考えると、金融機関がマーケットを獲得するノウハウを持ち、企業に融資をし、事業を進めていかなくてはならないでしょう。

 現状は多喜氏に頼り切った状況です。ニーズを探索する能力と、シーズを組み合わせる能力を、自分たちのノウハウとして手にし、その上で結果を生むのが最終目標です。今はまだ意識の変化という段階にとどまっているところですが、今後はノウハウを得ることに踏み込んでいける企業が増えていってほしいと思います。

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