特集 リモートケア、発進!

【総論】
生涯で必ず使う生活支援サービス
それがリモートケアの本質

 日本の高齢化は、とどまるところを知らない。2015年に3347万人だった65歳以上の高齢者は、2040年には3920万人と、600万人近くも増大する(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。さらに問題とされているのが、高齢者の“高齢化”だ。75歳以上の後期高齢者は、2015年から2040年の間に1613万人から2239万人と、やはり約600万人増大する。つまり、今後の高齢者の増加とは、後期高齢者の増大ということなのだ。

 高齢になるほど病気を患い、病床での療養が必要になる確率が高くなる。この結果、病院のベッドは高齢者でいっぱいとなり、手術や救急患者の受け入れなどが難しくなっていくという未来が予測される。

 これを見越して、政府は入院日数を減らし、在宅診療を増やす政策を進めている。入院して最初の2週間は高い診療報酬がつくが、段階的にこれを引き下げ、30日を超えると加算がなくなる。91日目からはさらに診療報酬が引き下げられる。短期入院へのインセンティブを与えることで、病院に入院患者の出入りを多くするように促しているのだ。

 在宅患者が増えていくと、今度は在宅医療を行う側の負担の増加という問題が頭をもたげてくる。在宅医療では、医者や看護師が患者の自宅に訪問し、そこで医療行為を行う。この際、医師やスタッフの移動を伴うことから、集中的に診療を行う病院と比べて物理的な負担が大きくなる。さらに、日本の労働人口は減少していくため、医師も、看護師も、介護士も人手不足が一層深刻化し、満足な医療が提供できないという事態が起こり得る。

オンライン診療に脚光

 こうした問題を背景に、普及が進むと期待されているのが、オンライン診療である。通信回線を備えたタブレット端末やセンサー機器などを活用し、医師がクリニックや自宅から患者を診察するオンライン診療と従来の対面診療を組み合わせることで、医師も看護師も効率的に動けるようになる。

 これまで厚生労働省は、オンライン診療を慢性疾患向けのものとし、へき地や離島限定の医療行為と位置付けてきた。しかも、診療を行っても保険による診療報酬は適用されないため、自由診療のためのものとなっていた。ところが、2018年には制限付きではあるが、オンライン診療に対して、初めて診療報酬が加算されるようになった。2020年の診療報酬改定に向けて、さらに規制が緩和される見込みで、今後はオンライン診療という新しい産業分野が拡大していくことが予想される。

全ての医療サービスをつなぐ契機に

 在宅患者向けのオンライン診療が進んでいくと、そこに様々な人々やシステムがつながり、新たなサービスが生まれてくる。

 医療に直接関わるところでは、拠点病院、各科の専門の医師、訪問看護師、訪問介護士、薬剤師、コールセンター、配送システムとのネットワークが必須になる。

 拠点病院からは入院していたときの状態や検査結果を入手する必要があるし、在宅でのオンライン診療でも、主治医が専門とする科目以外の疾病に対して専門医からのアドバイスが必要になる場面もある。

 もちろん、在宅患者に処置を行う看護師や、介護を行う介護士、処方箋に従い薬を提供する薬剤師との連携も必要だ。

 コールセンターも重要である。在宅医療を提供する医療機関には、24時間対応が求められる。コールセンターがあることで、緊急時と、それ以外の切り分けをオペレーターに任せることが可能となり、医師の負担が減る。病状に合わせた食事の配送に加え、医療機器、介護用具、薬の配達なども必要になる。

生活全てにニーズあり

 在宅患者には、医療関連以外のサービスに対するニーズもある。在宅患者は通院できないほど体力が弱っているため、一人で買い物や家事を行えない。老老介護世帯や独居世帯が増えていることから、衣食住に関わるあらゆるサービスを提供する必要がある。例えば、掃除、洗濯、散髪、買い物代行などのサービスだ。体力や生活環境に合わせた住宅リフォームや建て替え、住み替えなどもあることから、不動産サービスも求められる。

 金融機関や保険会社、市役所などの公共機関にも行くことが難しいため、こうしたサービスもオンラインで提供しなければならない。娯楽のための映像や書籍、ゲーム、あるいは同じ趣味を持つ友人とつながれるサービスも必要だろう。

 ここに述べたサービスのほとんどはすでに存在しているが、それらの多くは現役世代向けのものである。在宅患者向けという視点で考え直すことで、提供の方法やサービス内容は違ったものになるはずだ。

オンライン診療/
オンライン健康支援の使いどころ
入院以外はオンライン診療に出番
政府の方針として、医療費の増大防止のため、入院から在宅へ、健康増進へという方針がある。オンラインでの診療および健康支援はこうした機運に乗るものだ。

ほぼ100%の人が使うサービスに

 このように、生活におけるありとあらゆるサービスは、オンライン診療を行う基盤を共通プラットフォームとしてつながっていく。

 人は必ず老い、ほぼ全ての人が医療サービスを受けるようになる。つまり、医療を中心に生活全般をサポートする「リモートケア」は、人生のステージのいずれかの時期においてほぼ100%の人が使うサービスになる。

 さらに、在宅患者の家族も、在宅患者をサポートするために、このサービスを使わざるを得なくなる。こうして家庭に浸透していくことで、在宅患者のみならず、その周辺にいる家族全員のためのサービスとなる。

 リモートケアシステムを制する者が、家庭向け生活支援サービスの覇者となる──。そんな時代はすぐそこだ。

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