特集 リモートケア、発進!

【求められるシステム像】
制度の悪用防止に動く厚労省
生き残るのは行儀のいいサービス

 2018年4月に実施された診療報酬改定で、日本のオンライン診療(従来、厚生労働省は、遠隔診療と呼称)は大きな一歩を踏み出した。日本の医療制度創設以来初めて、オンライン診療に診療報酬が割り当てられたのだ。

 これまでオンライン診療を行う医療機関は、医療保険を使わない自由診療、あるいはオンライン診療での利用が明確でない「電話等による再診料」という項目で報酬を得るしかなかった。

 今回の改定で決まったオンラインを使った診療に対する報酬は、極めて限定的だ。オンラインでの再診に支払われる「オンライン診療料」、慢性疾患などの診療計画に支払われる「オンライン医学管理料」、在宅患者向けの「オンライン在宅管理料」などである。厚生労働省は現場のニーズを汲み取りながら、継続的にオンライン診療関連の診療報酬を拡充していくもようだ。

始まりは1997年

 オンライン診療について初めて厚労省が動いたのは、1997年のことである。光ファイバーによる高速通信サービスの実現が注目を浴び始めた時期で、大容量通信の適用先としてオンライン診療への期待が高まっていた。事業者からのニーズを受けて厚労省から出された「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」という通達では、「遠隔診療は直接の対面と同等でないにしても、これを代替しうるのであれば遠隔診療は医師法20条に抵触しない」とした。

 医師法20条とは、診察しないで診断書や処方箋を出してはいけないという法律である。つまり、テレビ電話などを使ったオンライン診療であっても、患者の状態を診られるなら、診察したと見なせると認めたわけだ。

 ただし、実施には厳しい条件を付けた。診療は対面を基本とし、オンライン診療の対象は、離島やへき地など往診や来診が困難で、相当期間にわたって診療を継続している慢性疾患のみ適用できるとした。さらに、診療報酬は定めず、オンライン診療を行おうとしても、自由診療で対応する以外に道はなかった。

オンライン診療の報酬は非常に限定的である。継続した6カ月の対面診療後に初めて請求可能、3カ月に1回は対面診療を義務付ける、など厳しい条件が付いた

 次に厚労省が動いたのは、2003年だ。1997年と条件は同じまま、オンライン診療の対象となる慢性疾患として7つを例示した。酸素療法、難病、糖尿病、喘息、高血圧、アトピー性皮膚炎、褥瘡である。

 2008年には岡山県新見市で、オンライン診療を使った在宅医療の実証実験が行われた。在宅訪問看護師が、診療所にいる医師からの指示をテレビ電話で仰ぎながら、必要な措置を実施するというものだ。オンライン診療が、問題なく実施でき、医療効率の改善や患者の満足度向上に役立つというエビデンスを得るのが狙いだった。

 2011年には、新たな通達によって、先の7疾患に加え、がん、脳血管障害という2疾患がオンライン診療を行える疾患であると新たに例示した。この通達では、条件緩和の動きも見られた。これまで、離島やへき地という地理条件と、例示された疾患という条件の両方を同時に満足しなければならなかったが、どちらか一方が合致していればオンライン診療を行っても問題がないという解釈を示したのだ。とはいえ、オンライン診療はこの時点においても保険適用外の自由診療行為であり、症例条件と地理条件が残っていることから市場は動かなかった。

制度悪用がはびこる

 この膠着状態がついに動いたのは、2015年である。厚労省は、それまで付けていた地理条件と症例条件を外した。その上で「直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療(オンライン診療)によって(診療行為を行って)も差し支えない」(厚労省の通達)とした。

 これを厚労省によるオンライン診療の全面解禁宣言とみて動いたのが、オンライン診療サービスを提供するベンチャー企業である。

 ベンチャー企業が提供する多くのサービスは次のようなものだ。患者はスマートフォンのアプリを使って診療所を選択。予約とともに問診票に記入し、予約時間にテレビ電話による診察を受ける。この診察の結果から、処方箋や処方薬が自宅に送られてくる。決済はクレジットカードで行える。

 スマホによる診療は患者にとって便利であったが、思わぬ問題も浮上した。医師と利用者の双方がこの仕組みを悪用するケースが出てきたのだ。臨床経験の浅い医師が利益を重視するあまり、患者の体調や体質を把握することなくED(勃起不全)、AGA(男性型脱毛症)、性感染症、避妊薬などを処方するケースが目立ってきたのである。利用者側も、他の保険者になりすますなどで保険適用の薬の大量処方を受け、海外に転売する輩が出てきた。

オンライン診療(遠隔診療)解禁に向けた動き
オンライン診療(遠隔診療)解禁に向けた動き

既存サービスに厳しく対処

 この状況を受けて、厚労省が出してきたのが2018年の改定だ。オンライン診療の報酬が付く対象を初診から継続して6カ月以上対面診療を行っている患者で、診療内容は慢性疾患や難病、精神的な病気に限定した。対面診療は3カ月に1度は実施しなければならないという条件も付けた。

 さらに、医療機関全体で行う再診行為のうち、オンライン診療を1割までに限定することや緊急時に約30分以内に駆け付け可能であることも求めた。つまり、オンライン診療専業の医療機関は保険診療を実施できないようにしたのである。

 診療報酬も低く設定した。オンライン診療による再診を行った場合、170点(1700円)にしかならない。

 これまでのオンライン診療サービスを利用する医療機関が収入のよりどころとしていた制度にもメスを入れた。こうした医療機関は、電話などで治療についてのアドバイスを行う「電話等による再診(電話再診料)」の点(720円)に加え、予約料という保険外の自由診療報酬で3000円程度の収入を得ていた。この予約料を取ると混合診療になるが、これまでは例外的に認められていた。2018年4月の改定では、電話再診料はオンライン診療で定めるような定期的な診療行為では請求できず、予約料と合わせて受け取ることが禁止された。

政府はオンライン診療に前向き

 この診療報酬の改正からは、厚労省の次のような意図を汲み取ることができる。2018年の診療報酬改定によって、野放図になったオンライン診療の現状を一度壊す。その上で、現場や市場と対話しながら、政府が考える医療費適正化というレールに沿ってオンライン診療に誘導するような診療報酬を決めていくというものだ。

 この意図と、その方向性を知る上で参考になるのが、2018年5月に規制改革推進会議 医療・介護ワーキング・グループが出した「オンライン医療の推進に向けて~技術革新を国民が最大限に享受するために~」という提言だ。ここでは、4K/8Kの超高精細映像、第4世代/第5世代の移動通信システム、人工知能(AI)などを活用することで、高度なオンライン診療に加えて、服薬指導から薬の授受まで在宅で行える「一気通貫の在宅医療」の実現を提言している。

ベンチャー系のオンライン診療サービスはいずれも、スマホやパソコンなどを使ってテレビ電話でオンライン診療を行い、処方箋を発行するというものである

 そのために、6カ月以上対面診療を行っていなければオンライン診療はできないというルールの撤廃、センサー活用のモニタリングルールの規定と報酬化、予防医療に対する報酬化などを進めるように勧告している。また、オンライン診療に関する討論会では、オンライン診療における対象疾患の拡大、オンライン服薬指導、電子処方箋実務の完全電子化も議論されている。

 このうちオンライン服薬指導については、2018年度に国家戦略特区での実証実験が始まっている。離島またはへき地に居住していて、対面での服薬指導ができない場合に限り、テレビ電話などでの服薬指導を実施する。国家戦略特区としては、愛知県、兵庫県養父市、福岡市が選ばれた。

 適用先を限定し、実証実験を行い、その結果を受けて緩和していくという流れは、オンライン診療を解禁してきた流れを踏襲するものだ。今後、診療と薬の受け取り、服薬指導までをすべてオンラインで実現できるように、実質的な規制を緩和していくとみられる。

オンライン診療の真打ちはこれから

 以上のように、オンライン診療は2018年に、本格的に動き始めた。これまでオンライン診療を提供してきた事業者も、この厚生労働省の方針に従い、仕切り直しを迫られている。今後、すべての事業者が新たなスタートラインに立ち、健康寿命の長寿化や入院から在宅へという政府のオンライン診療方針を実現することを目指した本格的なサービスの構築と競争が始まることになる。

 では、このサービスを実現するプラットフォームにはどのようなものが求められるのか。これを理解するには、2018年3月に厚労省が示した、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を参照する必要がある。

 ここから読み取れる厚労省の要求は5つ。(1)対面診療に限りなく近い環境の整備/オンラインならではの環境の整備、(2)偽医者およびなりすまし患者が生まれない仕組み、(3)処方薬を乱発しない仕組み、(4)情報漏洩防止のための情報セキュリティー対策、(5)プライバシー侵害防止対策、である。

 現時点では細かな仕組みは例示にとどまるが、今後は次のような仕組みを構築することが求められる。

オンライン診療の適切な実施に関する指針から導かれる、求められるシステム

 (1)の対面診療に近い環境の整備については、医師がオンラインで、患者の顔色や患部の状態などを適切に判断できるようにするために、高品位な映像や音が必要になろう。加えて、過去の経緯から適切な判断ができるように、これまでの診療情報にもアクセスできるようにする必要がある。さらに、オンラインならではの機能として、血圧や体温、脈波などの時系列データの取得やAIなどによる分析機能などが今後は求められるようになるだろう。

 (2)のなりすましについては、マイナンバーのICカードのような物理的な本人認証手段に加え、顔や指紋のような生体的な特徴を使って認証するバイオメトリクス認証との組み合わせが求められる。

 (3)の処方薬乱発に対しては、お薬手帳のデジタル化やオンライン服薬指導と連動する仕組みが求められてくる。

 (4)の情報漏洩対策については、専用端末を用意し、インターネットに直接つながらないような通信回線を使うとともに、悪意あるアプリが機微性の高い情報を盗まないように端末のメモリー上で機密データを展開しない仕組みが求められることになろう。

 (5)のプライバシーについては、第三者から端末をのぞき見られることなどがないように、特定の場所以外では使えない仕組みも用意しておく必要がある。

 米グーグルや米フェイスブックの例に見るように、プラットフォームの価値は、どれだけ数多くの会員を獲得し、データを集めたかに依存する。国からも利用者からも求められるシステムを素早く構築し、医師と利用者を囲い込めた陣営こそが勝者となる。

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